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フィロソフィアの告白

作者: 桜花蓮華

2010年10月〜12月に開催された「哲学的な彼女」企画に投稿した作品を、再編集したものです。

あまあま?らぶらぶ?要素がたぶん含まれています。

苦手な方はお戻りください。

てつがく【哲学】

[名]

 1、世界・人間・事物などの根本原理を思索によって探究する学問。

   形而上(けいじじょう)学(存在論)・論理学・倫理学・美学などの部門を含む。

   フィロソフィー。

   ◇philosophia(ギリシア)(=智を愛する)の訳語。

    西周(にしあまね)が賢哲を愛し希求する意で「希哲学」と訳し、のち「哲学」と改めた。

 2、自分自身の経験などによって得た人生観・世界観。

   また、全体をつらぬく理念。






「いっけねぇ・・・。」



部活を終え下校の支度をしていた俺は忘れ物を取りに教室へ入った。


秋の気配を感じ始めたとたん、明るかったはずの夕方はすっかり薄暗い時間へと変化していた。

幽霊が出る・・・。なんて思っているわけではないが、やっぱり暗い校舎は気味が悪い。

俺はなるべく余計なものを見ないように床を見つめながら歩いていく・・・と、俺の席の近くに一冊の黒い革の手帳が落ちているのを見つけた。

「ん?誰かの忘れ物か?」

何の気なしその手帳を手に取った。


この手帳、見覚えがある・・・同じクラスの若林智恵わかばやしちえが持っている手帳だ。



中身を見てみようと手帳を開こうとしたその時!


「亮おせぇぞ!」

「わっ!!!」

突然声をかけられ思わず声を上げて驚いた。


「こ、浩次?脅かすんじゃねーよ!」

外で待たせていたはずの友人、矢部浩次やべこうじがニヤニヤしながら教室の入り口に立っていた。


「何驚いてるんだよ。お化けでも出たかと思ったか?」

「べ、別に・・・。ってか何しに来たんだよ!」

「ん?お前がさぁ、大好きな若林の笛を舐めてるんじゃないかと思ってさぁ・・・。」

「ばっ、馬鹿言うなよ!誰がそんな事っ!」

「冗談だよ。俺も忘れ物。」

浩次はニカッとさわやかに微笑んだ。

カッコいい笑顔に思わず見とれてしまう・・・・・って俺にソッチの趣味はない。


「で、何でそんなところでぼ~っとしてたんだよ?」

「何でもねぇよ。」

「そうかい。それじゃあさっさと帰ろうぜ!」

俺は慌てて忘れ物のノートと・・・若林の手帳をカバンへ押し込んだ。




夜――。



「あ~・・・。慌ててたとはいえ、なぁんで持って帰ってきちゃったかなぁ・・・?」

机の上に置いた手帳を見つめ俺はため息混じりに呟いた。

とりあえず部活の朝練前に元の場所に戻しておくとして・・・問題はこれからだ。


この手帳の中身を見るか否か。



俺は手帳の持ち主・・・若林智恵の事を思い出していた。


才色兼備・・・。彼女を言い表すならこの言葉で十分だと俺は思う。

成績だっていつもトップだし、半ば強制的に任せたクラス委員もしっかり務めている。

白い肌に黒い眼鏡と黒い長髪がとても似合うとても可愛い女の子・・・と、

そこまで条件がそろっていれば殆どの男子がよってくるのだが、彼女はちょっと変わっているのだ。


それは入学したての頃。授業中、彼女はことあるごとに先生に食ってかかったのだ。

内容はよく覚えてはいないが・・・なんだかやたら難しい事を言っていた記憶がある。

「先生は本物の三角形をご存知なのですか!?」とか。

丁寧なのだが口調はとても強い彼女の独特のしゃべり方で。


先生もはじめは彼女の相手をしていたがだんだん面倒くさくなると

「わかったわかった。授業が進まなくなるから放課後来なさい。」

と、軽くあしらうようになった。


やがて彼女は必要最低限以外の発言をしなくなったのだ。


しかしそのインパクトは絶大だった。

彼女の噂はあっという間に校内に広まり彼女は浮いた存在になってしまった。


彼女はそれを受け入れたのか基本的にあまり話すことなく、いつも一人で窓の外を見つめているだけになった。


俺はそんな彼女のことが実は気になっていたりする。

最初はただ可愛いというだけだったかもしれない。

でも今まで流れに任せるように生きてきた俺にとって彼女の流れに逆らっているような生き方はとても魅力あるものだったのだ。


そんな俺をみんなは変わり者だとよくからかうのだが。


憧れの女の子の秘密の手帳・・・それを見なくて何が男だ!

俺は謎の決意を胸に恐る恐る手帳を開いた。

地味な手帳の外見とは打って変わって淡いピンクを基調とした、ところどころに花のイラストが散りばめられた可愛らしいものだった。


「わ、若林も女の子なんだな・・・。」

俺は思わず驚いて呟いた。

1ページ目におよそ一年半前、俺達が高校に入学した日の日付と「私」というタイトルが記されていた。どうやら日記帳としてこの手帳を使っているらしい。



4月8日 私

 私の名前、智恵。ちえ。

 両親が沢山の知恵を付け、人々の役に立つようにと付けてくれた名前。

 私はその名に恥じないようこの手帳に私の考えすべてを記すことにしました。

 その時私が何を思い何を感じたのか。

 数年後、またこの意見を見返したとき新たな発見があるかもしれない。

 今という時はもう二度と帰ってこないものだけれど、

 今の思いはこうやって残すことができます。

 残るということは必然性があるからだと私は考えます。

 この世界の存在そのものが全て嘘や幻だとしても、

 私が感じたこと、思ったこと。これは確かなことだから・・・。

 cogito, ergo sum 我思う、ゆえに我ありということです。

 私には数年前から抱いている謎があります。

 どうして自分という意識があるのか。

 どうして生きているのか。

 どうして人を好きになるのか。

 いつかその謎を解く日がくればいいのですが―――。



「日記なのかこれは?」

日記と思しき手記はとても綺麗な字で2、3日おきに書かれていた。

内容はとても理解できない難しいことばかりだった。

1ヵ月後の、彼女が先生に発言するのをやめた前日の日記も見つけた。



5月10日 不毛な議論

 先生方はどうやら私の見ているものと違うものが見えているようです。

 先生は方程式がただわからないと思っているようですが。

 私はその本質を知りたいのです。それが本当に確かなものなのか。

 先生方なら答えていただける、もしくは真剣な議論ができる。

 そう思っていたのですがどうやら先生方は私の疑問に興味はないようです――。



そこには彼女の諦めに似た感情が読み取れた。

数日分、俺は彼女の日記にしっかり目を通していたのだが、

だんだん疲れてきたのでぼ~っと眺めるようにページをペラペラめくっていた。


そこで俺はとんでもない文字を見つけてしまった。



 同じクラスの矢部君に告白されました。



「ん、んなっ!?」

思わず声を上げた。

あ、あいつ・・・若林みたいな真面目なのは興味ないとか言ってたくせに何気に告白してんじゃね~か。

俺は日付を確認した。1ヶ月前、つい最近だ。



9月19日 恋愛考察

 今日、同じクラスの矢部君に告白されました。

 かっこいいし悪い人ではないのは分かっていたけれど

 やはり短期間で何人もの女子と付き合っているのがちょっと気になるので

 丁重にお断りしました。



「ははっ確かに、わかるわかる。ってかアイツ振られたから俺につっかかってくんのか?」

俺は続きを読み始めた。



 今までにも何人かの方に告白されましたが全て断ってきました。

 だけど断ったからといってそういうことに興味がないわけではありません。

 もちろん私だっていつかは誰か結婚する時がくると思います。

 やはり少子化は重大な問題ですから。

 存在する人の数だけ考えや意見があり、それが複雑に絡み合い、

 社会が存在すると考えているからです。

 この考察についてはまた後日にしますが。

 ただ、付き合うなら全て責任を取って頂きたいと思うのです。

 恋愛は遊びでするものではないと私は考えるからです。

 矢部君が遊びかどうかは私にはわかりませんが・・・。

 でも私はその申し入れを受けるわけにはいきません。

 だってほかに気になる人がいるから。

 もし・・・、もし私のこの思いが許されるのなら・・・。


 相手は・・・・・吉田亮君がいいな――。



「お、俺っ!?」

俺の名前を見つけて声を上げた。つ、つまり両思いってことじゃないかっ!?


「いやいやいやいや。おかしいだろう!?俺!?いやいやいや。ありえない、ありえないって!」

「おい亮! うるさいぞ!?」

下から親父が大声で怒鳴った。そのおかげで少し落ち着きを取り戻す。

しかし何でよりによって俺なんだ?


俺は別に頭がいい訳でも容姿がいい訳でもない。

平凡なのだ全てにおいて。

サッカー部でも辛うじてレギュラーになっているがキャプテンの浩次にはもちろん敵わない。


そんな疑問は次の日記で明らかにされた。



9月20日 恋愛考察2

 私が何故吉田君が気になるのか。

 まずはそうなった経緯を考察する必要があると私は考えました。

 それは去年の冬のマラソン大会。

 貧血で座り込んだ私を介抱してくれたことに遡ります。



「マラソン大会か・・・。」

俺はその時の記憶を手繰り寄せた。


折り返し地点を過ぎ、順調に走っていると・・・前に白い顔をしてうずくまる若林を見つけたんだっけ。

困っている人を放っておけない性分なのと、好きな子にいいところをアピールしたい思いで声をかけ、

何とか肩を貸して救護の先生のところまで連れて行ったんだ。


下を向いたまま小さな声で

「あ、ありがと・・・。」

と言ってくれたのをよく覚えている。強気な口調しか知らなかったから特にだ。



 吉田君に優しくされたから?

 あの時、別の人に助けられたら私は別の誰かに好意を持ったりするのでしょうか。

 多分、それだけで彼が好きになった訳ではないと気が付きました。

 みんなに毎日声をかけてくれる。困ってる人を助けてくれる。

 私にはとてもできないことが平気でできる。

 尊敬できる人、それがもしかしたら好意に繋がっているのかもしれません。

 一人で苦しんでいる時。一人で空を見上げている時。

 私という存在が皆の目には見えていなくて

 本当は私という個は存在していない。

 私はその事に気が付いていなくて、

 こうやって必死に私が存在していると足掻いているだけかもしれない。

 だけど、吉田君が声をかけてくれるだけで

 私はちゃんとここに存在しているんだと思えるのです。



「おいおい、買い被りすぎじゃないか?」

俺は思わず言葉を漏らした。


俺はただ、ふとした瞬間に消えてしまいそうな若林が気になっていただけなのに・・・。

でも、俺の何気ない一言が若林にはとても大事な一言だったんだ。

いつもそっけない返事しかしてくれないから俺に興味がないんだと思っていたけど。


俺は次のページをめくる。



 もしかしたら好きという気持ちを抱いているのは私だけで。

 好きという気持ちも嬉しさや悲しさまで全てみんなそんなことを感じることもなく、

 まるで精巧にプログラムされた機会人形のように生きているのかもしれません。

 確かこういうのを哲学的ゾンビと言います。

 吉田君だって別に私にだけ優しいわけじゃありません。

 困っている人を放っておけない。そうプログラムされているだけなのかもしれません。

 でも吉田君優しさが他の人に向くのは何となく許せないのです。

 ただのプログラムだと思い込んでも苦しいのです。

 おそらくこれが嫉妬という感情なのでしょう。

 ―――話が逸れたので戻します。

 彼の優しさがプログラムでも私の抱いているこの気持ちは確実に私の意識です。

 それだけは紛れもない事実だと私は信じたいです。



俺は思った。

もし俺以外の人間が機械人形だったら・・・。


両親、姉ちゃん、先生に友人。若林もだ。

俺はその事に気が付いていない。

そして笑ったり怒ったり、ふざけあったり誰かを好きになったり・・・。


でもみんなは俺と同じ気持ちじゃなくてそうプログラムされているだけ。

もしそうだとしたら。それは・・・・・。



「それはなんだかすごく悲しいな・・・。」


若林のこの日記は自分が機械人形ではないとあらがっているようでなんだかとても胸が締め付けられるような思いだった。




俺は眠い目をこすりながらいつもよりも少し早めに学校に行った。

校庭で朝練の準備をしている生徒たちを横目に教室を目指す。

あの手帳を元の場所に戻すためだ。


拾った日記を読んでしまった。


いくら好意を抱いてくれてるとはいえバレたらどうなるかわからない。

とにかく何も知らないフリをするのが一番だ。



教室に着き、俺はカバンから例の黒い手帳を取り出す。


「あっ。」

誰かの声に俺は思わず振り向いた。


「わっわわわわ、若林っ!?」

こともあろうか手帳の持ち主が現れた。


「その手帳!?」

若林はものすごい勢いで俺の前まで来ると俺から手帳を奪った。

そして大事そうにその手帳を抱きしめるようにして抱える。


「あ、あの、これはその・・・。」

俺が言い訳を考えていると・・・。


「読んだんですか?」

俺の知ってるいつもの強い口調で彼女は言った。

「わ、わりぃ、読んだ・・・。」

嘘は苦手だ。後々面倒事を連れてくるだけだからだ。

それに俺の嘘はすぐバレる。


「ど、どこまで読んだんです!?」

「だ、大体全部・・・。」

俺の言葉に若林の顔がみるみる赤くなる。

そりゃそうだろう。もし逆の立場だったら俺は多分同じリアクションをしているだろう。


若林は突然走り出そうとした。俺は慌てて若林の腕を捕まえる。

「待ってくれ!お、俺、若林のことす、すすす。す……好きだ!」

「!?!?!?」

さらに若林の顔が真っ赤になる。


「俺の考え付かないこと考えてて・・・。

 ただ流されるだけの俺とぜんぜんちがくて・・・そ、そんな若林が前から好きだ!!!」

「・・・・・。」

若林は完全にフリーズしていた。声が聞こえているのかどうか心配だったがもう止まれない。


「俺のこの思い、ただのプログラムなんて思わないでくれ。

 これは紛れもない俺の意志だ!俺は機械人形なんかじゃないんだ!」

こうなったら思いをぶつけるだけだ。


「若林の日記を見て思ったんだ。

 どうして自分という意識があるのか。どうして生きているのか。どうして人を好きになるのか。

 それは・・・好きな人と二人でその謎を解くためなんだよ、きっと!

 そのために意識がある、生きている、誰かを好きになるんだ!」

俺は若林の目を見つめる。



「・・・・・・・ふふっ。」

「え?」

「うふふ、あはははは・・・。」


突然若林が爆笑し始めた。

というかコイツこんな風に笑うんだ。新たな発見。

しかし何で笑われてるんだ?


「あ、あはは・・・ご、ごめんなさい。笑っちゃって・・・。」

若林は俺の頭に“?”が大量に浮かんでいることに気が付いたようだ。

大きく息を吐き、呼吸を整えるとこう続けた。


「だってそれだと好きな人と出会った時点でもう謎が解けちゃってるんですもの。」

「あ・・・。」

確かに。

よくよく考えると『何故生きているかの謎を一緒に解く人に会う為に生きている』ということになる。

なんだか文法がおかしい気がする。


つまり俺の考えは間違いって事か?せっかく寝る時間を削って必死に考えたのに。



「でも、そういう考え私は嫌いじゃないですよ。」

そしてにっこりと微笑んだ。

か、可愛い・・・。思わず俺の顔も綻ぶ。


「好きな人と一緒に謎を解く・・・素敵な考えじゃないですか。

 吉田君はやっぱり想像通り素敵な人ですね。」

「俺の事買い被りすぎだぞ。俺はただの平凡な男子高校生だ。」

「そうですか?でも吉田君となら謎が解けそうな気がします。」

若林は明るくそう言った。


謎―――果たして答えがあるのかすらわからない永遠の難題だけどな。


「どうして私という意識があるのか。

 そして何のために生きているのか。

 そしてどうして傷ついても苦しんでも誰かに恋してしまうのか・・・。

 その謎を一緒に解いてくれますか?」

「俺も、その謎の答えを知りたい!一緒に探そう、その謎の答えを!」


謎が解けるかどうかはわからない。

けど解こうとしなければ解けるものも解けない。


答えが見つかるかどうかそれは俺と若林次第だ。



こうして俺達のちょっと不思議な交際が始まった。

元の企画は終了したのでこちらに再編集して残してみました。

しっかしまともな恋愛モノを読まないのでね。

ってか書いてるこっちが恥ずかしいよ!ってなってきたので。

最後はスバアアアアアアーーーっと急展開。


哲学って難しいですよね。

ぶっちゃけ書いた後でもよくわからんす。こんなんでいいんでしょうか。


初めて企画に上げたんで完全に置きに行ってますよねwww

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