謎のノート
クララは空白のノートを見つける。そこには、書きかけの言葉が次々と書き込まれていく。それぞれの文章が、記憶の断片を解き明かし、それを守る生き物たちが姿を現し、それを読み上げる。
暖かな午後、クララはリビングルームと忘れられた品々が並ぶ部屋をつなぐ廊下を歩いていた。埃っぽい棚の上に、青い布張りのノートが一冊あった。題名も記されておらず、書き込みもなかった。クララはそれを注意深く手に取った。開くと、ページは真っ白だった。
「何か待っているの?」とクララは最初のページを撫でながら尋ねた。
するとすぐに、金色のインクで書かれた一文が浮かび上がった。
「ここに、言い残したことが刻まれている。」
クララはじっと立っていた。言葉は彼女から出たものではなかったが、言葉は彼女だと分かった。彼女はページをめくると、別の文章がゆっくりと浮かび上がってきた。
「夕焼けの木の下での約束。」
空気が濃くなった。地面の根が震え、羽根の体とインクの目を持つ生き物が壁から現れた。
「このノートは、浮かぶものに耳を傾ける。」と、柔らかな声で言った。「そして、誰も名付けようとしなかったものを書く。」
クララは床に座り、膝の上にノートを置いていた。ページが埋められていく。歌の断片、宙に浮いた身振り、消えゆく名前。それぞれの文章はこだまであり、記憶を求める形だった。
「声に出して読んでもいいですか?」
「そうしてください」と生き物は答えた。「こうして初めて、こだまは愛情になるのです。」
クララは読んだ。
「私は羽根の土手であなたを待っていました。」
「蝶はあなたの名前を知っていました。」
「目に見えない抱擁は今も庭に生きています。」
言葉が宙に浮かび、ノートに描かれた生き物たちが姿を現し始めた。紙、煙、光でできた姿。彼らはクララの周りに座り、耳を傾けていた。
クララは、ノートが単なる物ではなく、儀式なのだと理解していた。書かれた文章の一つ一つが、苦痛なく記憶する方法であり、所有することなく名付ける方法なのだと。
ノートを閉じると、それは柔らかく光った。彼女はそれを棚に戻した。こだまが再び開く時が来たことを知っているから。
廊下は再び静まり返ったが、今度はその静寂が言葉の形をとった。




