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ココノハ村に滞在して数日。 羽虫型のモンスター討伐を終えた一行は、ようやく落ち着いた生活を取り戻しつつあった。


ミランダは持ち前の明るさと子ども好きな性格で、ルークとエリスの遊び相手として大活躍。 「お姫様ごっこよ!ルークは馬役ね!」と勝手に配役を決めては、村の子どもたちを巻き込んで毎日が運動会。 村人たちにも「なんか派手だけど、いい人だな」とすぐに懐かれ、村の人気者となっていた。

一方ノエルは、魔法の知識を活かして村の雑用を手伝っていた。 井戸の水質改善、畑の土壌調整、さらには「虫除け魔法付き洗濯物干し場」まで作り、村の主婦層から絶大な支持を得ていた。


そんな穏やかな日々は、突然の報せによって破られた。

「ノエルさん!どうか助けてください!」

村長と若い男が、青ざめた顔でノエルの元へ駆け込んできた。 男は息を切らしながら、震える声で言った。

「隣村から来た、わしの甥じゃ。話を聞いてやってくれ」

「うちの娘が、熱を出して意識がないんです!治癒師もいますが、手に負えないと……」

「今こちらの家に来ておるから、見てやってくれんか」

ノエルはすぐに立ち上がり、コーデリアも黙って後に続いた。 彼女の表情は、母としての直感が働いたのか、いつになく真剣だった。


村長の家に着くと、そこには小さな布団に横たわる少女の姿があった。 まだ三歳にも満たないその子は、顔を真っ赤にして荒い息をしていた。 目は閉じたまま、時折小さくうめく声が漏れる。

ノエルは静かに膝をつき、少女の額に手をかざした。 その指先から、僅かな魔力が流れ込む。 彼の青い瞳が、少女の体内の異常を読み取るように、深く集中する。

部屋の空気が、ぴたりと張り詰めた。

「これは……」

ノエルの顔が一瞬で険しくなった。 その表情は、普段の穏やかさとはまるで別人のようだった。

コーデリアは、思わず身を乗り出した。

「ノエル、何か分かったのか?」

コーデリアの問いに、ノエルはゆっくりと顔を上げた。 その表情はいつになく険しく、瞳の奥に深い憂いが宿っていた。

「……これは、ただの熱じゃありません。毒素が体内に入っています」

その言葉に、村長と若い男は顔を見合わせ、言葉を失った。 部屋の空気が、ぴたりと張り詰める。

「ど、どうすれば……」

ノエルは静かに、しかし確かな口調で答えた。

「これは、森の奥深く――瘴気の濃い地域に生息する『腐敗の苔』の毒素によるものです。羽虫型のモンスターがその苔に触れ、毒を運んできたのでしょう。この子の体内には、その毒素が微量ながら入り込んでいます。体が小さい分、わずかな毒でも全身に回ってしまうのです」

そばにいたコーデリアが、無意識に剣の柄を握り直した。 まるで、目に見えぬ敵に対しても身構えるように。

「……治せるの?」

その問いに、ノエルは一瞬だけ目を伏せ、そして静かに答えた。

「治癒魔法だけでは難しいです。この毒素は、生命力を削る速度が非常に速いので、解毒だけでは足りません。毒素によって弱った臓器を活性化させる――特別な薬が必要です」

その声には、冷静な分析と、子どもを救いたいという切実な思いが込められていた。

ノエルはすぐに腰のポーチから薬草の束を取り出し、手際よく調合を始めた。 だが、その手元はわずかに震えていた。 額には、珍しく汗が滲んでいる。

そこへ、ミランダがひょっこり顔を出した。

「どうしたの?なんだか空気が重いわよ」

ノエルは手を止め、顔を上げた。 その表情には、焦りと葛藤がにじんでいた。

「材料が、決定的に足りません。 毒素を中和し、生命力を劇的に高めるためには――『太陽の花』と、強力な解毒作用を持つ『月影の蜜』が不可欠なんです」

彼は二つの名を口にした瞬間、コーデリアとミランダの表情が変わった。

「『太陽の花』は、この近隣の森の奥深くに咲いているはずです。 ただし、その花を守る『硬質トカゲ』というモンスターが非常に厄介で……」

「硬質トカゲ?あの、岩みたいな皮膚のやつ?」 コーデリアが眉をひそめる。

「そうです。物理攻撃がほとんど通りません。倒すには、急所を正確に突くしかないでしょう」

「で、もう一つは?」

ノエルは一瞬、言葉を詰まらせた。 そして、重々しく口を開いた。

「……『月影の蜜』は、危険なモンスターの一つ―― 『瘴気のミノタウロス』の巣にしか存在しない、『光るキノコ』からしか採れません」

その瞬間、部屋の空気が凍りついた。

瘴気のミノタウロス―― その名は、辺境の冒険者にとって“死”の代名詞だった。 全身を覆う黒鉄のような皮膚、常に周囲に撒き散らす瘴気、そして何より、 その巨体から繰り出される一撃は、盾ごと人を吹き飛ばすとさえ言われている。

「……冗談でしょ」 ミランダが、珍しく声を潜めた。

「冗談ならよかったんですが」 ノエルは静かに首を振った。

「ミノタウロス、ですって?」

普段は陽気で華やかな彼女が、真剣な表情でコーデリアを見つめる。

「やめときなさいよ。その子を助けるために、あなたが死んだら、ルークはどうするの? あなたは、ママでしょう?」

その言葉は、まるで鋭い刃のようにコーデリアの胸を突いた。 彼女は黙って、外で遊ぶ子どもたちの方へ目を向けた。

ルークは、木の枝を剣に見立てて「モンスター退治ごっこ」をしている。 エリスは、花を摘んで「お姫様の冠」を作っていた。 二人とも、久しぶりの穏やかな日々に安心しきっている。 その笑顔は、何よりも尊い。

小さな命を救いたい。 だが、それは自分の命を危険に晒すことと引き換えになる。

母としての選択。 命の天秤に、他人の子と自分の子を乗せるという、残酷な問い。

コーデリアは、ゆっくりと剣の柄に手を添えた。 その手は、震えていなかった。

「……でも、やるしかない」

その声は、静かでありながら、有無を言わさない鋼のような決意を秘めていた。

「子どものためなら、なんだってやる。それが母親ってもんだろ?」

ミランダは、しばらく黙っていた。 そして、ため息をついた。

「……ほんと、あなたって、かっこいいわね。 でも、無茶はしないでよ。私も行くから」

「無理しなくていい」

「大丈夫よ。私、強いから」

コーデリアは、思わず吹き出した。

「すごい自信だ」

でも、ミランダとノエルと一緒ならなんでもできそうな気がするから不思議だ。

「待ってください、コーデリアさん!ミランダさん!」

ノエルの声が、いつになく鋭く響いた。 彼の冷静な瞳が、焦りと警告を宿していた。

「硬質トカゲも、瘴気のミノタウロスも、生半可な剣士では通用しません!特にミノタウロスは、ただのモンスターじゃない。瘴気そのものが意思を持って動いているような存在なんです!」

コーデリアは、ノエルの言葉を静かに受け止めながら、剣の柄に手を添えた。 その瞳は、ルークを守る時と同じ――強く、揺るぎない光を放っていた。

「私は、生半可な剣士じゃない。そして、あの子を見過ごすことはできない。 私は母親だ。目の前で助けられる命があるなら、助けるのが当然の義務だ」

その言葉に、ノエルは一瞬言葉を失った。 そして、深く息を吐き、頭を切り替えた。

「……分かりました。でも、無謀な突撃はいけません。僕が、戦略を考えます」

ノエルは手に持っていた羊皮紙を広げ、古代語で何かを書き込み始めた。 その筆致は迷いなく、まるで魔法陣を描くような緻密さだった。

「ミノタウロスの脅威は、その皮膚の硬度と、周囲に撒き散らす瘴気です。 瘴気は、あなたの体力をじわじわと奪います。そこで――ミランダさんの出番です」

「えっ、私?」

ミランダは、眉をひそめながらも興味津々でノエルに近づいた。

「瘴気のミノタウロスは、魔力が濃い『光るキノコ』の巣に引き寄せられています。 そのキノコは、特定の音波に過剰に反応し、一時的に強い光を放つ。 その光は、ミノタウロスにとって致命的な目眩を引き起こすはずです」

ノエルは羊皮紙に、特定の周波数帯を記しながら続けた。

「ミランダさん、あなたの格闘術は、内側に魔力を集中させることで打撃の威力を高めていますよね? その力を、敢えて『音』として放出してください。叫びでも、強力な手刀による『空気の壁』でも構いません。 その音波でキノコを一斉に光らせるんです」

ミランダは、興奮に頬を染めた。

「へえ!私にそんなことできるかしら?ミノタウロスを悩殺ね!」

「悩殺ではありません。目を眩ませるんです。その隙に――」

ノエルは、コーデリアに向き直り、羊皮紙に描いたミノタウロスの解剖図を指差した。

「コーデリアさん、あなたがミノタウロスの皮膚で最も薄い箇所――『背中の付け根』に、一点集中で剣を叩き込むんです。 そこだけが、瘴気の膜が薄く、直接心臓に近い。そこを突けば、倒せる可能性があります」

コーデリアは、図を見つめながら静かに頷いた。

「了解。あんたの頭脳、頼りにしてるよ」

ノエルの天才的な知性は、この絶望的な状況を打開する唯一の希望だった。


まず、コーデリアとミランダは「硬質トカゲ」の巣へと向かった。 森の奥、岩場に囲まれた湿地帯――そこに、太陽の花は咲いていた。 しかし、その周囲を守るように、巨大なトカゲがのっそりと鎮座していた。 その皮膚はまるで岩石のように硬く、剣も拳も跳ね返す。

「うわ、ほんとに硬そうね……」 ミランダが眉をひそめる。

「ノエルの言ってた通りだ。正面突破は無理だな」 コーデリアが剣を構えながら、周囲を見渡す。

だが、ミランダはニヤリと笑った。

「硬いだけのトカゲちゃんには、これよ!」

彼女は構えを取り、地面を思い切り踏み込んだ。 ドンッという音とともに、衝撃が地中を伝わり、トカゲの足元がぐらりと揺れる。 バランスを崩したトカゲが一瞬怯んだその隙に――

「今だ!」

コーデリアは一気に駆け寄り、太陽の花を素早く摘み取った。 その花は、朝日に照らされて黄金色に輝いていた。

「フフン。作戦通り。コーディ、あなた、意外とやるわねェ!」

「そっちこそ、いい踏み込みだったな」

二人はすぐに村へ引き返し、花をノエルの元へ届けた。

「太陽の花だ!」

ノエルは目を輝かせ、すぐに調合に取りかかった。

「よし、これで薬の半分は完成します!あとは……月影の蜜だけです」

その言葉に、空気が再び張り詰める。 次なる目的地は――瘴気のミノタウロスが巣食う洞窟。

コーデリアは剣を握り直し、ミランダは拳を軽く鳴らした。

「さあ、次は本番よ。悩殺の準備はできてるわ」

「だから悩殺じゃないって言ってるでしょう…」

ノエルの小声は、誰にも届かなかった。


次はミノタウロスの洞窟に、ふたりはついにたどり着いた。 中は瘴気に満ち、空気は重く、肌を刺すような冷たさが漂っていた。 視界はぼんやりと霞み、呼吸をするたびに喉が焼けるように痛む。

それでも、コーデリアの足は止まらなかった。

ミノタウロスの巨体が、唸り声とともに洞窟の奥から現れる。

その背後で、ミランダが一歩前に出る。 彼女は深く息を吐き、拳を握った。

『ミランダさん、あなたの格闘術は、内側に魔力を集中させることで打撃の威力を高めていますよね?その力を、敢えて『音』として放出してください。叫びでも、強力な手刀による『空気の壁』でも構いません。その音波で、キノコを一斉に光らせるんです』

ノエルの声が蘇る。ミランダは目を見開き、ニヤリと笑った。

「……面白い、やってやろうじゃない!」

彼女は両足を踏みしめ、魔力を拳に集中させる。 その気配は、まるで空気が震えるような圧力を帯びていた。

「いくわよォォォォォッ!!」

叫びと同時に、ミランダの手刀が空を裂いた。 空気が爆ぜ、洞窟の壁に衝撃波が走る。 その音波が、洞窟の奥に群生していたキノコたちに届いた瞬間――

ポンッ……パァァァァァッ!!

まばゆい光が洞窟内に一気に広がった。 キノコたちは音に反応し、青白く、そして虹色に近い光を放つ。 まるで星が爆ぜたような閃光が、瘴気を押しのけるように洞窟を満たしていく。

コーデリアとミランダはすかさず目元に手をかざした。 すると、魔力の薄膜がふわりと展開される。 それは、ノエルが以前の爆発実験用に編み上げていた“視界保護の結界”―― あらかじめ二人の魔力に同調させていたため、発動は一瞬だった。

青白い光が洞窟内に広がる中、その光に、ミノタウロスが反応した。 巨体がビクリと震え、目を覆うように腕を上げる。 視界を奪われ、動きが一瞬、止まった――その刹那を、コーデリアは見逃さなかった。

「今だッ!!」

コーデリアは地を蹴った。 剣を握り直し、光の中を疾風のように駆け抜ける。 ミランダも拳を構え、後方から追いかける。

ミノタウロスが咆哮を上げるが、視界はまだ戻らない。 その隙に、コーデリアは背後へと回り込み、ノエルが示した急所――背中の付け根へと剣を突き出す。

「これで終わりだッ!!」

剣が閃き、岩のような皮膚を貫いた。 同時に、ミランダの拳が横腹に炸裂する。

「ミランダ式・雷鳴突きィィィッ!!」

ズバァァァァンッ!! ドゴォォォォンッ!!

剣と拳が交差し、ミノタウロスの体が大きく揺れる。 咆哮が洞窟に響き渡り、そして――

「グ……オオオオオ……!」

その巨体が、地響きを立てて崩れ落ちた。 瘴気が霧散し、洞窟の空気が澄んでいく。

「……や、やった……!」

コーデリアは膝をつき、深く息を吐いた。 巣の奥に咲いていた「光るキノコ」が、青白く脈打っていた。

ミランダの歓声が響く。

「やったわね!最高よ、コーディ!あんた、ほんっとにカッコいいわぁ!」

「ふっ、ミランダも……!」

ふたりは、笑いながらハイタッチをした。


村に戻ったコーデリアは、そっと「月影の蜜」をノエルに手渡した。 ノエルはそれを受け取ると、まるで壊れ物を扱うように両手で包み込み、目を細める。

「これで……これで、あの娘の命は助かります……!」

その声には、安堵と決意が入り混じっていた。 彼は興奮気味に、すぐさま調合に取りかかる。

太陽の花と月影の蜜―― 二つの希少な素材を、慎重に、慎重に混ぜ合わせていく。 その手つきは、まるで高級スイーツの仕上げをしているパティシエのようだった。 指先の動きは繊細で、魔力の流れを乱さぬよう、息を止めるほどの集中ぶり。

料理はできない。鍋を爆発させるほどの腕前だ。 だが、調合となれば話は別。 ノエルの魔導師としての技術は、薬草と魔力の融合においては一級品だった。

「ノエル、手震えてるわよ」 ミランダがくすくす笑いながら茶化す。

「これは繊細な魔法薬なんです!笑わないでください!」

完成した薬は、淡い金色に輝いていた。 それを少女に飲ませると、数時間後――奇跡のように熱が引き、彼女は目を覚ました。

「……ママ、パパ……?」

その小さな声に、村中が歓喜に包まれた。 村長の甥夫妻は、何度も何度も頭を下げて、コーデリアたちに感謝を伝えた。


夜。 子どもたちが寝静まり、静かな焚き火の音だけが、パチパチと耳に心地よく響いていた。 コーデリア、ノエル、ミランダの三人は、焚き火を囲んで腰を下ろしていた。

「まったく、ヒヤヒヤものだったわァ。でも、あの子の命が助かって、本当によかった……」

ミランダは、火の揺らめきに照らされながら、優しく微笑んだ。 その表情は、いつもの豪快さとは違い、どこか母のような温かさを帯びていた。

「本当にそうですね」 ノエルも静かに頷く。

「コーディもノエルも、すごかったわね」

「ミランダもすごかったよ。あの“音波手刀”がなかったら、キノコは光らなかったし」

「うふふ、もっと褒めていいのよ?」

三人の間に、ふっと笑いがこぼれる。 だが、ミランダはすぐに真顔に戻り、焚き火の炎を見つめながら言った。

「でもね……これからは、無茶しちゃダメよ。 コーディがもし死んだら、ルークがみなしごになっちゃうじゃない」

その言葉に、焚き火の音が一層大きく聞こえた気がした。 ノエルが、少し間を置いて口を開く。

「……そうですよね。どこかで線引きをしなければ。コーデリアさん、あなたがいなくなったら、ルークくんは……」

コーデリアは、黙って焚き火を見つめていた。 炎の揺らぎが、彼女の瞳に映り込み、過去の記憶を静かに呼び起こしていた。

「私は……」 言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。

「目の前で助けられる命があるなら、どれだけ危険でも、見過ごすことはできないと思う。それが、子どもなら尚更。……以前、私はルークを殺しかけたことがあるんだ…」

「え?!」 ミランダが思わず声を上げる。

「ど、どういうことですか……?!」 ノエルも驚きに目を見開いた。

コーデリアは、深く息を吸い込み、静かに吐き出した。 そして、炎を見つめたまま、ぽつりぽつりと語り始めた。

「ルークが生まれて、すごくかわいいと思った。世界が変わったような気がした。 何もかもが輝いて見えたんだ。でも、それはほんの一瞬で…。毎日の世話、寝不足、家事は……まあ、ご想像の通りで。 加えて、ダンナは昼から酒を飲んでギャンブルをしては、家では暴力をふるって……」

「え……」 ミランダが眉をひそめる。

「それは……ひどいですね」 ノエルが静かに言った。

「…言い訳にしかならないけど、私はいっぱいいっぱいだった。全てが思い通りにいかなくて、ストレスで……“ルークさえいなければ”って、一瞬だけそう思って、ルークの首を絞めそうになってしまったことがある…すぐに後悔したけどな」

焚き火の音が、静かに空気を埋める。 誰もすぐには言葉を返せなかった。

「……その気持ち、わかる気がします」 ルークが、焚き火の向こうからぽつりと声を上げた。

「僕も、慣れない子育てがある日突然始まって、思い通りにいかないことばかりで。自分一人だけならなんとでもなるのに、子どものこともなんとかしなきゃいけない。コーデリアさんに会ったときには、正直すごく疲れていました……エリスはかわいい子です。でも一人で育てることは辛かった…」

「そうなのね……」 ミランダは静かに頷いた。

「ノエルの言うこと、わかるよ…。だから、少しでも役に立てることならしたい。助けたい。もちろんルークも大切だ。でもそれが、私の生き方だから」

その言葉に、ミランダが少し声を強めて言った。

「それでもし、コーディが死んだらどうするのよ? あんたがいなくなったら、ルークはどうなるの?」

コーデリアは、静かに笑った。 その笑みは、悲しみでも諦めでもなく、確かな覚悟のにじむものだった。

「……もしかしたら、それでもやるかもしれない。 でも、私は今、独りじゃない。ノエルがいて、ミランダがいる。頼りにしてるよ」

その言葉に、ノエルが小さく息を吐いた。

「……なら、僕も全力で支えます。あなたが無茶をしなくて済むように。僕の魔法も、誰かを守るために使いたいです」

「私も!」 ミランダが拳を握りながら、にやりと笑った。

「コーディが突っ走るなら、私が後ろから蹴り飛ばしてでも止めてあげるわ! もちろん、愛情たっぷりの一撃でね!」

「それ、止めるっていうか、加速しそうなんだけど……」 コーデリアが苦笑する。

三人の間に、ふっと笑いがこぼれた。 焚き火の炎が、ゆらゆらと揺れながら、彼らの影を優しく包み込む。

「そろそろ寝ようか」

「そうね。睡眠不足は美容の大ミランダがすかさず返し、髪をかき上げながらウインクする。

「確かに。明日からは『硬質トカゲ』の皮を剥ぎに行くし。ミノタウロスの角も取って来なきゃな。しばらくは生活の足しになるだろ」

コーデリアは立ち上がり、二人の肩を軽く叩いた。 その仕草には、仲間としての信頼と、ささやかな労いが込められていた。

「明日もよろしくな」

三人はそれぞれの寝床へと向かいながら、焚き火の残り火が静かに夜を照らしていた。

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