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 辺境の街フォルテスの夕暮れは、モンスターの血と土埃の匂いが混ざり合った、荒々しい色をしていた。 赤く染まった空は、まるで今日も誰かが命を賭して戦ったことを告げるように、重く沈んでいる。 風が吹けば、剣戟の残り香と焦げた草の匂いが鼻をつく。 この街では、夕暮れは静寂ではなく、戦いの余韻だ。


 コーデリアは、愛剣を腰に納めながら、依頼の成功報酬として得た金貨の重みを確かめた。 革袋の中で金属が触れ合う音は、彼女にとって命の証であり、生活の糧でもある。 その音を聞くたび、今日も生き延びたことを実感する。


 彼女の足取りは迷いなく、街へと向かっていた。 この街での生活も、もう三か月になる。 夫から逃げて、街外れの教会の一室に身を寄せ、息子と二人、肩を寄せ合って眠った。 家事をするにもなかなかうまくいかず、仕事を探したが、子どもを抱えてできることは限られていた。 結局、彼女が選んだのは、かつてやっていた剣の仕事――日雇いのモンスター退治だった。


 今日の依頼は、骨が折れた。 亜人種の山賊団に混じって現れた、知恵を持つオークの群れ。 彼らは統率が取れており、罠を張り、連携して襲いかかってきた。 通常のモンスターとは違い、戦術を持つ敵との戦いは、命のやり取りが一層激しくなる。 だがその分、報酬も奮発された。 金貨の重みは、彼女の疲れた身体に少しだけ安堵をもたらす。


「これで今月も…何とか乗り切れそうだな」

 コーデリアは、誰にともなく呟いた。 その声には、少しだけ笑みが混じっていた。 彼女が稼ぐのは、もちろん自分のためだけではない。 5歳になる息子、ルークのためだ。

 彼の笑顔のために。 彼の食事のために。 彼の未来のために。

 コーデリアは、剣を振るう。 血に染まり、泥にまみれても、彼女は前を向く。 それが、母としての戦いで、誇りだ。しかしながら、最近は近隣のモンスター退治の仕事も尽きてきていた。コーデリアが倒しすぎているのだ。かといって、ルークを置いて長期遠征に行くわけにもいかず、コーデリアは今後どうすればいいか途方に暮れていた。


 教会に帰る前に、ルークが欲しがっていた絵本を買いに、コーデリアは裏通りを抜けて市場へ向かうことにした。 表通りは人通りが多く、騒がしくて歩きづらい。裏路地は遠回りだが、慣れた足なら早く抜けられる。 夕暮れの光が建物の隙間から差し込む中、彼女は静かに歩を進めた。

 裏路地に入った途端、鼻を突く下水とゴミの匂いが漂ってきた。 湿った石畳には、昼間の喧騒の名残が散らばっている。 果物の皮、破れた袋、誰かが吐き捨てた酒瓶。 この街の裏側は、表の活気とは違う、沈んだ空気に満ちていた。

 その一角、薄汚れた木箱の陰に、何か小さな影が隠れたのが見えた。 コーデリアは足を止め、目を細める。 ただの猫か、野犬か――そう思ったが、違った。 それは、人だった。

「誰かいるのか?」

 彼女は声を潜め、気配を殺して影に近づいた。 剣士としての本能が、何か異質な気配を感じ取っていた。

 それは、少女だった。 年齢はルークより少し上の、七歳か八歳ほどだろうか。 汚れた服を身にまとい、こちらを見つめている。 髪はきれいな金髪なのにもかかわらず、ぼさぼさで、肌は土と埃にまみれていた。 背中には、古びた革のリュックサック。 擦り切れた肩紐が、彼女の放浪を物語っていた。

「どうした? 一人なのか?」

 コーデリアは、できるだけ優しく声をかけた。 少女はビクッと体を震わせ、ゆっくりと顔を横に向ける。その時、少女のお腹がぐーきゅるるるると派手な音を立てた。少女は恥ずかしそうに俯く。

「……お腹空いてるのか?」

 コーデリアは、腰のポーチから携帯用の袋を取り出した。 中には、モンスター退治に持っていくために、固く焼かれた日持ちするパンが数枚。 水がなければ喉を通りづらい代物だが、空腹を凌ぐには十分だった。

「これ、あげる。あんまり美味しくないけど」

 彼女は、袋ごと少女に差し出した。 少女は一瞬、警戒の色を濃くした。だが、空腹には勝てなかったのだろう。 震える手が、ゆっくりと袋に伸びる。 そして、ひとつのパンを取り出し、口元へ運んだ。

 その瞬間――少女の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

 ぽろぽろと、音もなく頬を伝う涙。 パンを噛みしめながら、少女は嗚咽をこらえるように肩を震わせた。 その姿に、コーデリアの胸は締め付けられた。 この街の裏路地で、誰にも気づかれず、誰にも守られず、 ただ飢えに耐えていた小さな命。

「名前は?」

 コーデリアは、優しく問いかける。 少女はしばらく黙っていたが、やがて途切れ途切れに言葉を紡いだ。

「……わたし、エリス……」

 その声は、か細く、擦れた風のようだった。

「エリスね。分かった。エリス、親はどこにいる?」

 コーデリアは膝を折り、目線を合わせるようにして尋ねた。 エリスはパンを頬張りながら、小さな声で答えた。

「……おじさんと、いるの。でも、おじさん寝ちゃって…… 。わたし、おなかが空いちゃったから、食べ物を探してたの……」

 言葉の端々に、幼い混乱と不安が滲んでいた。 コーデリアは、エリスの細い手をそっと握った。 その手は冷たく、痩せていた。

「じゃあ、おじさんのところに連れてって。 こんなところで子どもを一人にさせるなんて、どんなやつなんだ」

 苛立ちが、思わず口をついて出た。 エリスがビクリと肩を震わせる。

「お、怒らないで…」

「あ、ごめん…怒ってないよ。行こうか」

 コーデリアは立ち上がり、エリスの手をしっかりと握った。 その手を離さないように、まるで自分の息子を守るように。


 エリスが指差した方向へ、コーデリアはエリスの手を引きながら歩き出した。 裏路地から一本入った、さらに人気のない寂れた一角。 石畳はひび割れ、壁には古びた落書きが残り、空気は湿り気を帯びていた。 この街の裏側――誰もが目を背ける場所に、彼はいた。

 背の高い男が、崩れかけた壁に寄りかかり、ぐったりと座り込んでいた。 ローブの裾は泥にまみれ、肩は落ち、顔は伏せられている。

「あんたが、エリスのおじさんか?」

 コーデリアは、腰の剣に手を添えながら声をかけた。こんな場所に、幼い少女を一人で放置するなど、まともな大人のすることではない。

 男は肩を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。 その動きは、まるで重い鎖を引きずるようだった。

 そして、コーデリアは息を呑んだ。

 男は、一見してただの放浪者とは違っていた。 ぼさぼさになった銀色の髪や髭は、かつて丁寧に手入れされていたであろう美しさをかすかに残している。 着ているローブは、上質な織りで仕立てられたものだった。 だが、今は汚れと破れが目立ち、かつての品位は見る影もない。

 そして何よりも――その青い瞳。 深く澄んだその瞳は、長年の研究と知識によって培われた、鋭く深い知性を宿していた。 だが今は、その光が、途方もない疲労と絶望に覆われていた。 まるで、世界のすべてを見通した末に、何もかもを失った者の目。

「おじさん!この人がパンをくれたの。おじさんも食べて」

 エリスが駆け寄り、コーデリアからもらった固いパンを差し出す。 その声は、無垢で、まっすぐだった。 男は、エリスの手元を見つめ、しばらく動かなかった。 そして、掠れた声で、ようやく言葉を紡いだ。

「ああ……ありがとう……」

 その声は、乾いた風のようだった。 感謝の言葉でありながら、どこか痛々しく、重い。 パンを受け取る手は、細く、震えていた。 その指先には、かつて魔導書をめくっていたであろう繊細さが残っていた。

 それでも…

「あんた、体が悪いのか?」

「いえ…お腹が空いて…」

「お金はないのか…?」

「……」

 コーデリアは、深くため息をついた。 夕暮れの冷たい風が、裏路地の空気をさらに重くする。

「……行く宛ては、あんのか?」

 静かだが、どこか鋭さを含んだ声で問いかける。 男は答えなかった。 ただ、俯いたまま、沈黙を返す。 その沈黙が、すべてを物語っていた。

「……エリスとあんた、とりあえず教会に行くよ。そこで、これからのことを考えよう」

 コーデリアはそう言って、エリスの肩に手を置いた。 男は、まるで耳を疑うように顔を上げた。 その表情には、困惑と戸惑い、そしてわずかな希望が混じっていた。

「とりあえず、今日一日だけでもいい。エリスに温かいものを食べさせないと。あんたも、まともに休んでいないんだろ?」

 男は、信じられないものを見るように、コーデリアを見つめた。 その瞳には、長い孤独の果てに差し込んだ一筋の光を見つけた者のような、 そんな揺らぎがあった。

「なぜ……見ず知らずの我々を?」

 掠れた声で、男はようやく問いかけた。 その問いには、疑念ではなく、戸惑いと戸惑いの奥にある、 “信じたい”という願いが滲んでいた。

 コーデリアは、少しだけ目を細めて、静かに答えた。

「私も子どもがいる。子連れの苦労は、痛いほど分かる。そして――この子たちに罪はない。この子に、不自由はさせたくないんだ」

 その言葉は、まっすぐだった。 飾り気も、見返りもない。 ただ、母としての本能と、矜持がそこにあった。

 男はしばらく黙っていたが、やがて小さく頭を下げた。

「……あ、ありがとうございます……」

 エリスは、そんな二人のやりとりを見上げながら、 コーデリアの手をぎゅっと握った。 その小さな手の温もりが、コーデリアの胸にじんわりと広がっていく。

「さ、行こう。教会まで、もうすぐだ」


 フォルテスの教会。 扉を開けると、一日の終わりを告げる喧騒が耳に飛び込んできた。 子どもたちの笑い声、食器の音、薪のはぜる音。 それらが混ざり合い、教会の広間はまるで小さな村のような温もりに包まれていた。

「かあしゃん!」

 ルークが、大きな木製ブロックで築いた城の陰から、泥だらけの顔を上げて駆け寄ってきた。 同じくらいの年の子どもたちと遊んでいたのだろう。 服には土と、おやつのビスケットのカスがこびりついている。

「ただいま、ルーク。今日もいい子にしてたか?」

 コーデリアは膝をつき、ルークの頬にそっとキスをした。 その顔には、モンスターと戦う時の獰猛さはなく、 ただ一人の母親としての、柔らかな微笑みが浮かんでいた。

「うん!ねえ、見て!今日はぼく、これを作ったんだよ!」

 ルークが誇らしげに指差すのは、木製ブロックで作られた小さな城。 塔も門も、彼なりに工夫が凝らされていた。 コーデリアはその作品を褒め、ルークを抱き上げる。 彼の重みと体温が、戦いの疲労をじんわりと癒してくれる。

「コーデリア、お疲れ様でした。ルークは、今日もとても良い子でしたよ」

 シスターが微笑みながら声をかけてくる。 コーデリアはシスターに、金貨の袋を渡した。

「いつも本当にありがとう。それで、ちょっと拾いものをしてきたんだけど…」

 コーデリアはそう言って、後ろに立つ二人――エリスと男を振り返った。

「あらまあ……」

 シスターは目を見開いた。 エリスの痩せた体と、男の疲れ切った顔を見て、すぐに状況を察したようだった。


 まずはお風呂にどうぞ、とシスターが言い、エリスは教会の浴室へと案内された。 コーデリアは自ら桶に湯を張り、エリスの体を洗ってあげた。 金色のくせっけは、しっかりと泡立つまで丁寧に洗われた。 エリスは水が苦手そうだったが、泣き言ひとつ言わずにじっとしていた。 それを見て、コーデリアは「ルークなら、もうとっくに泣いてるな」と、少しだけ笑みがこぼれた。

「ママとパパは?」

 コーデリアがそっと尋ねると、エリスは小さく首を振った。

「……わかんない……」

 その声は、湯気の中に溶けていくように、か細かった。


 その夜、エリスは長旅の疲れと安堵から、ルークのベッドで寄り添うように眠っていた。 ルークも、隣に誰かがいることを気にする様子もなく、すやすやと寝息を立てている。

 その傍らで、男――ノエルと名乗った――は、静かに二人の寝顔を見つめていた。 教会の一室は、夜の静けさに包まれており、ステンドグラスから差し込む月明かりが、彼の横顔を淡く照らしていた。

 風呂場で髭を剃って、こざっぱりしたからか、思ったよりも若々しい印象を受ける。 年齢はコーデリアと同じくらいだろうか。 知的な雰囲気に包まれた彼の顔立ちは、整っていて、どこか繊細さを感じさせる――いわゆる“隠れイケメン”というやつだ。

 だが、その表情はまだ硬く、眉間にはわずかな皺が寄っていた。 何かを警戒しているようでもあり、何かを失った者の痛みを抱えているようでもあった。

 彼の視線は、エリスの寝顔にそっと注がれていた。 その瞳には、魔導師としての冷静さではなく、保護者としての不安と優しさが滲んでいた。

 月明かりの中で、ノエルは静かに息を吐いた。 その仕草ひとつにも、過去の重みと、未来への小さな希望が宿っているようだった。

 コーデリアは、ノエルをじっと見つめた。 その視線は、モンスターを睨む時よりも鋭かった。

「あんた、なんでエリスを一人にさせてた?子ども一人、あんな裏通りにいちゃ危ないだろ?」

 ノエルは肩をすくめ、苦い顔でうつむいた。 まるで自分がモンスターにでもなったかのような表情だ。

「も、申し訳ありません……」

「賢いんだろうが、頭の使いどころ間違ってないか?」

 コーデリアの容赦ない一言に、ノエルは項垂れた。

「で、どっから来たんだ?」

「僕は……姉夫婦と一緒に魔法研究所に勤めていたんですが……」

 ノエルは、どこか遠くを見るような目で語り始めた。

「……あまり深くは話せないのですが、姉夫婦の研究でトラブルがあったらしくて。とにかくエリスを連れて逃げろと言われて、姉の子どものエリスを連れてここまで逃げてきました」

 コーデリアは、聖書の置かれた机に手を添えながら、静かに耳を傾けていた。

「ですが、お金も食料も尽きてしまい……このようなことに」

「お姉さんは……?」

 コーデリアの問いに、ノエルは目を伏せた。

「わかりません。でも、もしかしたら……」

 その言葉に、さすがのコーデリアも言葉を詰まらせた。 教会の鐘が、遠くで静かに鳴った。

 ノエルは、頭を抱えるようにして、続けた。

「僕は魔法を扱うことはできるんですが、子育てには全くの素人でして……」

 彼は一度深く息を吐き、肩を落とした。

「エリスは大人しい子ですが、それでも子どもは子どもで。 子育ては難しくて……まして、子どもを連れての旅なんて、どうすればいいのか途方に暮れていました。ご迷惑をおかけして、すみません……」

 コーデリアは、しばらく黙っていたが、ふと口を開いた。

「……あんた、魔法で仕事はないの?」

 ノエルは、少しだけ苦笑した。

「僕の魔法研究は……あまり仕事には結びつかず」

「どんな研究なんだ?」

「時間を止めるものです」

「え、それ、本当にできたらすごくないか?」

「でも、0.3秒とか。止めたからといって何かできる時間ではなくて……なかなか……」

「へえ~。魔法で料理とかできないの?」

「試しました。けれど爆発したりするので辞めました……」

「……ああ」

(私と一緒か……)とコーデリアは内心思ったが、黙っておいた。

 ノエルは、しょんぼりと頷いた。 その姿は、魔法使いというより、ちょっと不器用な保護者だった。

「でも……エリスが笑ってくれると、少しだけ救われる気がするんです。僕にできることは少ないけれど、守りたいという気持ちだけは、確かにあるんです」

 ノエルは、窓の外の光を見ながら、ぽつりとつぶやいた。

「助けていただき、本当にありがとうございました」

 彼の言葉には、心からの感謝が込められていた。 その姿は、どこか頼りないが、憎めない。 コーデリアはため息をつきながらも、どこか放っておけない気持ちでノエルを見つめていた。

 コーデリアは、ノエルの古びた革のリュックを何気なく覗き込む。 中には、魔法の道具や書籍がぎっしり詰まった「魔法陣を刻んだ木箱」が鎮座していた。 木箱の表面には、複雑な紋様が刻まれており、うっすらと魔力が漂っている。 見るからに「研究者の命」的なオーラを放っていた。

「ノエル、エリスを育てることを手伝ってやってもいい」

 コーデリアは剣を磨きながら、さらっと言った。

「その代わり、あんたには別のことをやってもらう」

 ノエルは、磨かれる剣の光にビクッと肩をすくめる。

「べ、別のこと……ですか?」

「私はモンスター退治で稼ぐ。あんたは子どもたちを守る。私が怪我をすれば治す。 回復魔法は使えるんだろ?それから、あんたの魔法の知識で、私のモンスター退治を手助けする。 そしたら、ここから離れてもう少し遠くまで足を延ばせる」

 ノエルは目をぱちくりさせた。

「えっ、僕、戦闘なんてしたことありませんよ…?モンスターって、こう……牙とか爪とか、すごいじゃないですか」

「だから、あんたのできることをやれって言ってんの。お金ないんだろ?」

「は、はあ……まあ、確かに……」

 ノエルは自分の財布を思い出し、顔をしかめた。 中には、銅貨が数枚と、謎の魔法触媒が一粒。 「これで何買えっていうんだ」と自分でも思っていたところだった。

 コーデリアは剣を鞘に収めながら、真顔で言った。

「いいか、あんたが倒れたら、困るのはエリスだ。 正直別にあんたがどうなろうと知ったこっちゃない。でも子どもは別だ。私が全力で剣を振るうために、あんたが後ろで万全の体制を整えてくれれば私は助かる。回復魔法は?」

 ノエルは静かに頷いた。

「ええ……大丈夫です。回復魔法は一通り使えます。爆発とか、感電とか、異次元に片足突っ込むとか……そういうのを治すのは得意です」

「……異次元に片足?」

「ええ、あれはもう、足が戻ってきたのが奇跡でしたね。あと、モンスターの研究をしていたら、尻尾が生えた同僚もいました。それも治しました」

「……あんたの研究所、モンスターより危険じゃない?」

 ノエルは苦笑しながら肩をすくめた。

「まあ、そういう意味では、モンスター退治のほうが安全かもしれません」

 コーデリアはため息をつきながら、ルークとエリスの寝息に耳を傾けた。

「じゃあ決まりだ。あんたは後方支援。私は前線。子どもたちは、絶対に守ってくれ」

 ノエルは、少しだけ背筋を伸ばした。 その顔には、ほんのわずかに「役に立てるかもしれない」という自信が芽生えていた。

「了解しました。後方支援、全力で務めさせていただきます。 ……ただ、料理だけは、できれば回避したいです」

「それは、私もだ。稼いで調理されたものを食べるしかないな」

 二人は、どこか同志のような空気を漂わせながら、笑いあった。


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