序章 アフリカの傭兵
金志元は傭兵である。
「あぶない!」
銃弾がすぐ近くで弾け、反射的に仲間たちと地面に伏せた。日差しが強く、アフリカの赤い大地は焼けるように熱い。緊張を感じて、背中から汗が噴き出してくる。
「あいつら漢人だな」
アフリカ内戦の裏には、非公式で中国人民解放軍が関わっていた。やつらは資源に群がる蟻だ。そして漢人は少数民族の敵だった。
どうやら周囲を囲まれたようだ。
敵に察知されないように、無言のままハンドサインで仲間に合図し、突破する覚悟を決める。
3、2、1で飛び起きて、手にした古いライフル銃を撃った。隣の仲間は胸を撃たれ、あるいは足を撃たれて、次々に倒れていく。自分の銃もすぐに弾切れになった。
(ああ、こんな時こそ自動小銃が欲しい)
地面に伏せて、ただ死への時間を数える。額には恐怖の脂汗。もう限界だ。
「満洲族の意地を舐めるなよ。うおーっ!」
必死に匍匐前進をした。膝の内側が擦れて痛い。
その時、ヘリコプターが音を立てて急接近し、頭上でホバーリングした。
「もうダメだ。ハンス医師よ、さらばだ」
脳裏にはキューバにいる親友ハンス・コハン医師の顔が浮かんだ。ハンス医師は、いつもの様に静かに笑っていた。
ヘリから銃弾の雨が降って来た。絶体絶命のピンチ。いよいよ死ぬのかと観念し、両手で砂をギュッと掴んだ。……が、生きていた。
その銃弾は敵をなぎ払って、我を救った。
驚いているとヘリは着陸し、白人兵士とともに戦場に不釣り合いなダークスーツの男が下り立った。陽光にサングラスがキラリと光る。
「おい、立て。私はCIA(米国中央情報局)のミスターXだ」
「サンキュー、取り敢えずは、助けてもらったようだな」
殺気立った白人兵士の銃口は、今もこちらを向いている。両手を頭に乗せて直立した。
「君が発見したダイヤモンド鉱脈をこちらに頂きたい。ノーとは言わせない」
もし断れば、拷問の末に殺されるだろう。
「あの鉱脈は数十億ドル以上の価値がある。そこで交換条件がある」
「話だけは聞こう」
ミスターXは苦い顔でサングラスを外した。




