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神算日露戦争  作者: いばらき良好
第3章
20/33

3の10 怒りの黒溝台

 総司令官のクロパトキン大将は、グリッペンベルク大将の戦死を聞いて、全軍奉天への退却を命じた。

 日本軍は、乃木第三軍ともう一軍の新戦力を投入したことが分かった。乃木軍五万五〇〇〇。新軍は三万だったようだ。

 翌二十六日には、北方一〇〇キロの鉄嶺の柴河に掛かる鉄道橋が破壊された。

 このままでは補給出来ずに孤立してしまうと、クロパトキンは全軍北へ退却を命じた。

 二十七日には、鉄嶺のさらに北方一五〇キロ先の、四平と長春間の東遼河に掛かる鉄道橋も落とされた。通信で鉄橋防衛を再確認、強化させたところだった。

 二十八日、さらに一八〇キロ先の、長春とハルビン間の松花江に掛かる鉄道橋も落とされた。もう嫌だ。敵はいったい何者なのだ。

 クロパトキンは、当初予定のハルビンまで下がり、そこで決戦に及ぶ事にした。

 三十一日、ハルビンの遥か西方チチハルの近く、嫩江に掛かる鉄道橋までも破壊された。

「またか!」

 怒髪天を衝く。いったい日本軍は、どうやって移動したのだ。この寒波の中を。


 散々なクロパトキンに止めを刺したのが、皇帝からの罷免状であった。

 新極東陸海軍司令官には、リネウィッチ大将が指名された。しかし、立て直すにも、兵は離散して六万も残っていない。鉄道補給も無くなったので、リネウィッチ大将は、ウラジオストクに退いて籠城した。


 日本軍は乃木第三軍約五万の協力で、ハルビンまで追撃戦を行った。これに怪我や脚気治療で復帰した四万が加わった。総勢二四万。

 だが、もう弾が無い。ハルビンは空で、敵はウラジオストクだった。

 児玉は、チチハル方面からハルビンまでの鉄道を破壊させ、ハルビンに一個師団を置いて、残り全軍でウラジオストクを包囲した。

 旅順のように無理攻めをすれば、死者が増えるので、この辺りで日露講和を望んだ。


 二月十七日、社会革命党戦闘団の団員、イワン・カリャーエフが、モスクワで馬車に乗ったセルゲイ大公に、爆弾を投げて暗殺した。

 セルゲイ大公は、皇帝ニコライ二世の叔父でモスクワ総督であった。

 血の日曜日事件で点いた導火線の炎は、ついにロシア皇族殺害にまで波及した。

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