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神算日露戦争  作者: いばらき良好
第3章
18/33

3の8 怒りの黒溝台

 満洲の冬の日の出は、日本時間の八時だ。

 ロシア西軍本陣を探して、多数の斥候を出した結果、敵は南へ移動して、黄臘坨子に在る事が判った。

 しかし、規模について夜間目視は出来ない。焚き火の数からは推定五万、その南に同数の日本軍が対峙しているという報告だ。

 児玉総参謀長は、どうやって増派したのだろう。乃木大将が来たのであろうか。

 二十五日朝六時、うっすら空が白み始め、敵将は伝令を多数、頻繁に出し始めた。かなり煩い人間なのであろう。そのお陰で秋山には、敵将の居場所が判った。

 工兵五〇〇を下がらせた。

 秋山は、第三、五、八、十三、十四の五人の連隊長に攻撃目標を伝え、一〇分後に突入するとした。

 竹筒の酒を飲む。数が少ないとか、寒いとかは関係ない。

「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」

 節を付けて詠んでみた。上杉鷹山だ。

 物事の結果は、人の「情熱」と「運」で決まる。

 秋山はそっと騎乗した。雪と氷の静かな世界だ。

 廻りには配下の騎兵が寄せて来て、整列した。互いに覚悟を決めた良い面構えだ。

 秋山は号令を発した。

「いざ、突入。大将首を討て」

 一団は原野を疾駆した。


 秋山も馬で先頭を駆ける。二〇〇〇の人馬は、一気に敵軍へと雪崩れ込んだ。

 ロシア軍後方の荷駄兵は逃げた。

 秋山は拳銃を放ち、逃げ遅れた敵兵には、蹴りを入れる。乱戦だ。雪の大地には、真っ赤な敵の血がにじむ。

 遠くから歩兵が散発的に撃って来たが、ここで止まるつもりはない。ひたすら本陣へ。


 コサック騎兵が、一〇〇人規模で打ち掛かって来る。

「何が最強だ。日本男児ここにあり」

 秋山の銃弾が部隊長の頭を撃ち抜いた。残りは味方のAKMが薙ぎ払う。

 次から次へと迫るコサック騎兵。

 しかし、目標はまもなくだ。

「行け、行け」

 秋山は配下にも、愛馬にも気合いを掛ける。

「敵を撃て」

 命令一下、AKMが連射する。そこに左横合いから鉄砲玉の雨が襲った。

「うわっ!」

 秋山の左腕に当たった。熱く強烈な痛みだが、まだまだ。死ぬまでは死んでない。

「片腕など、くれてやるわい」

 敵本陣に突入した。あわてるロシア参謀連中を、拳銃で撃ち殺す。味方も集まって来て、AKMを連射する。

 敵大将は、馬上で背を向けた。戦場で目立つ勲章を着けるなど馬鹿野郎だ。見栄を張るのもいい加減にしろ。

「あそこだ。逃がすな」

 秋山は、拳銃二丁とも全弾撃ち切った。左手がこれでは弾込めが不自由だ。


 ならばと太刀を抜いた。重い割にはバランスがよく、しっくりと手に付く。

 感覚の重い左手で手綱を引き、距離を詰めた。

 敵将は立派な髭の爺さんで、口に泡を吹いて口汚く罵った後、サーベルを抜いた。

 騎士魂はあるらしい。それでも煩くわめきながら逃げる。

「問答無用、陣定に勝負せよ」

 秋山の渾身の一撃は、敵サーベルごと身体を真っ二つに斬った。

 敵将の亡骸は、馬ごと地面に転がった。

「うおーっ、やったぞ、引き上げじゃ」

 秋山騎兵二〇〇〇は、怒濤の勢いのまま引き上げた。

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