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神算日露戦争  作者: いばらき良好
第3章
14/33

3の4 怒りの黒溝台

 ロシアの極東総督アレクセーエフが解任され、満洲軍総司令官のクロパトキン大将が、極東陸海軍総司令官に格上げされた。

 クロパトキンは、ロシア満洲軍を三軍に分けた。


 第一軍司令官リネウィッチ大将、東部兵力一〇万。

 第二軍司令官グリッペンベルク大将、西部兵力一〇万五〇〇〇。

 第三軍司令官カウリバルス大将、中央兵力八万。


 新任のグリッペンベルク大将は、皇帝のお声掛かりで叩き上げ、クロパトキンより一回り年長の六十七歳。何かと反発してくる煩い人間だ。

「戦場は北にロシア軍、南に日本軍が陣を布き、東が高地、西が低地である。普通は高地から低地に向かって攻めるが、マイナス二〇度の冬では、川は凍結し、泥濘地の心配もないので、むしろ西の低地の方が平坦で攻めやすい。日本の乃木軍が旅順から移動して来る前に、自分に攻めさせてほしい」

 そう言ってグリッペンベルク大将は、クロパトキンに決断を迫った。

「だめだ、ハルビン決戦の前だ。兵力温存こそが大事である。日本軍を最大限北へと釣り上げてから叩くのだ」

 あせった末の作戦変更など認められない。

「総司令官は臆病者か。敵を叩くのに、前も後もない。今だ、今やるのだ」

 日本軍を弱らせるという意味において、グリッペンベルク大将の意見も正しい。臆病者かと言われれば、こちらにも前陸軍大臣の意地がある。面白くはないが、攻撃を認めた。

「いいだろう。好きにやってみろ。攻撃を許可する」

 グリッペンベルク大将は、クロパトキンより長い髭を満足そうに扱いた。

 この男とは合わない。古今、一人の蛮勇が組織を崩壊させるのだ。この戦争の最後は総司令官の自分が手綱を引いて暴走を止めるしかない。クロパトキンは、そう決心した。

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