第一章 - 犬猿の邂逅(A-4)
負けた。
完膚なきまでに。
あたしの目が、手が、腕が、脳が慣れる前に……タイブレークマッチは終わっていた。
結果的には、あたしが犯した3本目のストロークミスが勝負に響いたことになる。
……なんの言い訳もできない。
あたしは唇を噛みながら、喉を震わせて言葉を紡ぐ。
「あんたは何がしたいの? あたしと組んで、大会に出て。その先になにを求めてるの?」
精一杯の虚勢を張る。
相対する男……申渡は、勝ち誇った笑みを浮かべて、言った。
「俺の望みはたったひとつだ。もっと、もっとテニスを続けたい。いつか限界を迎えるその時まで。でも――ただ闇雲に続けるだけじゃ、そこに意味はないんだ。俺の生きる道に……人生に、限りなくテニスを近づけないと、本当の意味で『続ける』ことはできねえ……って、ごめん。ややこしいこと言ってるな、俺」
「……結論を先に教えてくれるかしら?」
バッサリ言い捨てた。だって負けたし。悔しいし。思いやりを与える必要はない。
硬式に転向したばかりの人間に、軟式の技で敗北した……その事実が胸に巣食う。
でも……一方で、どこか嬉しかった。
部活を辞め、一度は勝負の世界から身を引いたけれど――あたしの中に眠る勝利への執念が、消えていないことを確信できたから。
けれど、それを悟られるのは面白くない。ぎりっと歯を食いしばって視線を合わせる。
「俺は――」
返答は、いたって端的だった。
「――――大学に行きてえんだ」
「……………………え?」
思わず、純粋な疑問が喉から滑り落ちる。
大学に行きたい? だからテニスを続ける?
わけがわからない。
「どういうこと? ずっとテニスを続けていきたいんじゃないの?」
「そうだ。願わくば、高校生のうちに実績を作って、スポーツ推薦で進学したい。学費優遇とか、特別奨学金とか、いろいろな特待制度があるから、それを利用したい。まあ、推薦の枠は限られてるだろうし、高天原オープン優勝して、賞金ゲットして、それを入学金の元手にできればベストなんだが――」
「あっ、あの、ちょっとストップ! ほんとうに分からないんだけど」
いくつか湧いた疑問を、試合中のラリーのように一本ずつ処理していくことにした。
「大学に行きたいって……一般入試で入ればいいんじゃないの? それからテニス部に入って、選手として続けていけば――」
「あー……まあ。それが理想なんだけどな」
どこか照れたように鼻面を掻いて、男の子は続ける。
「俺ん家、先立つ物がなくってさ」




