沈黙の中の歩幅
大学生の椎(しい)は、自分の感情の起伏にほとんど気づくことができない。それでも、日々に支障はなく、淡々と理屈で行動を選び、必要な課題をこなしている。けれど最近、囲碁の実力が落ちていたり、会話のテンポに乗れなかったり、自分の判断力が鈍ってきた感覚があった。人と関わらず、刺激を避けて過ごしてきた影響かもしれない――そう考えた椎は、読書をしたり、体を動かしたり、会話を増やしてみようと試みる。感情ではなく「合理的な理由」でそう行動する彼だが、日々のなかで他者の感情や行動に触れるたび、わずかずつ理解の幅が広がっていく。理解はしても、自分が感情で動くことはできない。それでも、少しずつ、確かに、「感情で考える」世界の仕組みに歩み寄っていく――静かで揺るがない、ひとりの学生の記録。
第一話「囲碁の手が止まる」
2025/07/30 21:01
第二話「合理的な理由」
2025/07/31 21:00
第三話「歩幅のずれ」
2025/08/01 21:00
第四話「頭とからだのあいだ」
2025/08/02 21:00
第五話「理解しないままに寄る」
2025/08/03 21:00
第六話「言葉になる前のもの」
2025/08/04 21:00
第七話「寄ること、離れること」
2025/08/05 21:00