第一章 崩れ去る日常①
「……眠い……」
俺、神北英俊は目の前に広げられている答案用紙をうとうとしながら見つめ、窓から暖かく心地よい風を感じながらぼそりと呟く。
それは誰もがそう呟くだろう事は自然の摂理だ。
そう。歴史のテストの真っ最中なのだから。
「……はぁ…何というか無駄な時間だよなぁ」
頬に手を当て机に肘をつきながらまたも誰に向けた言葉なのか文句を吐く。
「主よ、文句を言っても無駄であろうことは以前にも申していたではないか」
そんな時、英俊の頭の中で一人の女性の声が聞こえてくる。
初めて自分以外の知らない声が頭の中で聞こえてきた時は何事かと慌てふためき、動揺を隠せないほど驚いたが、今になっては俺にとっては日常の一部である。
「…あぁ…わかっているよ義経。文句を言うことすら無駄だってことはさ。でもさ、理屈じゃないんだよ…わかるか義経?」
声の主である女性を英俊は義経と呼ぶ。
そう、平安時代に軍神とまで呼ばれ平家を滅ぼした立役者である源義経。
何故英俊の頭の中で義経の声が聞こえてくるのか未だわからないが、そういうこともあるかと何故か納得した。
つまり何も考えていないただの馬鹿なのである。
「わからぬ。ひとつ分かるとすれば…」
「…分かるとすれば?」
「主は我慢を知らぬただの馬鹿じゃと言うことじゃな」
「んなっ!!馬鹿だと!?」
俺を馬鹿と呼ぶ義経に反論する英俊は、ガタンッと椅子から勢いよく立ち上がる。
「こら!!神北君!!」
すると前方から俺を注意する若い女性の声が教室内に響き渡る。
「…あ…えと…すいません」
「まったくもう神北君はこれで何度目かな?いい加減にしないと異世界に飛ばしちゃうぞ?」
「どんな脅し方ですか…。全然怖くないで……す……よ………?」
言い終える瞬間に視界が暗転し、突然視界に飛び込んできたのは今までいた教室ではなく、ただただ広大な草原。
周りに建物や人の姿はなく、草原に俺一人だけが存在している。