地獄の釜の(ジャガ)芋煮パーティー
例)寿司
日本→握り寿司
アメリカ→カリフォルニアロール
本作)芋煮パーティー
日本→里芋
地獄→ジャガイモ(New!)
*この物語はフィクションです。
昔々、地獄の鬼は奇妙な断末魔を聞いた。
罰を与えていた亡者が倒れる間際にぽつりとこぼした言葉だ。
『あぁ、こげな目にあうなら……最後に食いたかったなぁ……芋煮パーティーのいも……』
どこにでもいる亡者のたった一言だった。
それが毎年恒例、地獄の一大イベント——地獄の芋煮パーティーの始まりだった。
***
ぼく は ジゴク で さいばい された ジャガイモ !
ジゴク で ジャガイモ が さいばい されている なんて 信じられない って ?
みんな も そう 思うよね !
ずっと ずーっと 昔 ジゴク では ジャガイモ は さいばい して なかったんだ !
でも ジゴク の おっきな イベント の 企画 で イモ が ひつよう に なったんだ !
その な も 芋煮パーティー !
その パーティー の ため に ぼくら が かいはつ されて さいばい される ように なったんだ !
ジゴク おりじなる の ぼくら ジャガイモ の 品種 は 459IMO と 呼ばれて いるよ !
すごく おいしい 品種 なんだよ !
ジゴク の えいよう たっぷり の 土 に ジャガイモ の 種芋 と 亡者 を 一緒 に 埋める と スクスク 育って ぼくたち みたいに 元気 いっぱい 飛び回れる ジャガイモ が たーっくさん 出来るんだ !
ぼく は 同じ 459IMO の みんな や 鬼さん 達 から は 2525番 と 呼ばれて いるんだ !
そして じつは ぼく 2525番 は 今日 いつにも まして にこにこ なんだ !
なんせ 今日 このひ こそ まちに まった 芋煮パーティー なんだ !
いちねん に いちど の たのしい パーティー !
亡者 や 鬼さん ぼく達 が あつまって いっしょうけんめい 芋 を おいしく 煮込んで つくるんだ !
やさしい えんま だいおう さま や 鬼さん たち みーんな 芋煮 を 食べに あつまる んだよ !
はっ !
ジゴク の 鬼さん が ひとり こっちに やって きたよ !
どうか した の かな ?
「おい、2525番! テンメェ、俺の備蓄芋を逃しやがったなァ!? 何してくれやがったんだ!!」
とっても おこった 鬼さん だ !
でもね この 鬼さん は ぼくら 芋煮パーティー の ジャガイモ たちを くすねて いたんだ !
なんて ひどい 鬼さん なんだ !
ぼく は それを しって さっき 仲間たち を 逃して きたんだ よ !
「 へへっ、まぁいいさ! お前が代わり俺のオヤツになるんだなぁ!」
ぺろり と 鬼さん が 金棒 を 舐めました。
そ そんな !?
それ は しんぴん の 金棒 に バター を ぬった 芋煮パーティー用 じゃないか !?
とっても きれい な 金棒 を 舌 で舐める なんて !
おくち の 中 には とても たくさん の 細菌 が 住んで いるんだぞ !
「じゃがバターにしてやらぁ!!」
!?
ぼく は じゃがバター なんて なる もんか !
ぼく は 今日 この 日 の ために !
年に いちど の 芋煮パーティー用 に うまれて きたんだ !
ぼく は ぜったい 芋煮パーティー の 芋 に なるんだ !
鬼さん は ぼく を マッシュポテト に してくる いきおい で おってきました。
ぼく は すたこら と にげます。
「オ゛ラ゛! 待てやァ!!」
鬼さん は かお を まっかっか に はしります。
ぼく も すたこら はしります。
そうだ このまま 芋煮パーティー へ いって しまおう !
「どこ行きやがる! このクソ芋ォ!!」
おいかけっこ して いる と め の まえ に 川 が みえて きました。
そうだ ! このまま きれい に なろう !
ぼく は さんず の 川 に ざぶん と はいります。
ひんやり して とっても きもち いい !
からだ の どろ も きれい に おちて います !
「川に入って逃げようってかァ!?」
鬼さん も ぼく を おって ざぶり と 川 に あし を ふみいれ ます。
しかし そのとき です。
鬼さん に だつえば さん が こえ を かけました。
「待ちな! 通るなら六文だよ!」
「んだとコラ! 俺は鬼だから要らねぇだろ! ババァはすっこんでな!!」
「カネが無いならその腰巻き頂くよ!」
「ハァ!? おいっ、辞めろ! 離せ!」
鬼さん と だつえば さん が けんか して います !
パーティー 会場 は 川 の じょうりゅう です !
いまの うちに いそいで およごう !
ざぷん ざぷん と ぼく は およぎます。
しばらく およいで 川 から あがります。
このまま すすめば パーティー 会場 まで もうすぐ だ !
しかし うしろ から ざぷり と 水 の 音 が きこえました。
「ハァ……ハァ……追いついたぜぇ……クソ芋ォ……!」
なんと 鬼さん が 川 から あがって きた では ありませんか !
鬼さん は ぼろぼろ の こしまき を 手 で ささえて います。
だつえば さん と なかなおり した の でしょう か ?
でも ぼく との けんか は つづいて います。
はやく にげなきゃ !
ぼく は すたこら にげます。
「逃すか芋ォ!!」
ジゴク の ふかく ふかく おいかけっこ して です !
あ ! なかま の 459IMO たち が みえた ぞ !
みんな 鬼さん が ふるう かたな で 皮 を むかれて いるんだ !
ぼく も いこう !
とうっ !
ぼく は かたな を ふるう 鬼ねぇさん に とびこみ ます !
かたな が ひとふり されました !
それだけで しゅるり と ぼく の 皮 が きれい に つるり と むかれ ました !
すっきり だ !
「クソ芋、待てやゴルァ!」
「なっ!? 刃物の前に飛び出して来るんじゃないよ! 変態!!」
「誰が変態だオ゛オン!?」
鬼ねぇさん と 鬼さん が けんか しています。
いまの うちに 芋煮パーティー 会場 へ !
ぼく は すたこら と はしります !
あっ ! めのまえ に おおきな 釜 が みえて きました !
しんぴん バター ぬり の ジゴク の 釜 だ !
ぼく は いっしんふらん に はしり ます !
もうすぐ だ !
「テメェは……ぜってぇ許さねぇからな……! クソ芋ォ……!」
鬼さん が また うしろ から おいかけて きました !
とても ふらふら な あしどり です !
きっと ぼく には おいつけない !
とぅっ !
ぼく は ジゴク の 釜 へ とびこみ ます !
アッ ! と 鬼さん は おどろいた かお です !
おいかけっこ は ぼく の かち だ !
ぽちゃん と ぼく は 芋煮 に とびこみ ました !
おいしく なります よーに !
そのあと つるり と すべる 音 と 悲鳴 が どぼん と おちる 音 が しました !
***
巨大な地獄の釜が見下ろせる特別な部屋の一室にて、閻魔大王は待っていた。
空腹を漂う香りが近づいて来る。
頭を下げた鬼がやって来て、閻魔大王へとあるものを掲げる。
お盆に乗せられている茶碗の中には、出来立ての芋煮が湯気を立ち上らせていた。
「どうぞ! 閻魔大王様、お召し上がりください!」
「うむ」
閻魔大王は器を手にし、箸でほくほくの芋を口に運ぶ。
「ほぅ、今年の芋煮は一風変わった味よの」
「……!? お、お気に召しませんでしたか……?」
「いいや、美味いぞ。わし好みの味じゃ」
「そ、それはようござりました!!」
笑顔で芋煮を頬張る閻魔大王。
鬼たちの大歓声が地獄中に響き渡った。
そうして今年も芋煮パーティーは大盛況で終了しました。
めでたし、めでたし。