君の奇妙な愛
一番昔の記憶。
まだ五つにもなっていない頃の僕の隣を歩いている君。
僕は君が嫌いだった。
僕はこの小さな国を治める王の息子で、僕の隣には誰だって近づけないようなっているはずなのに。
それなのに君は何故か僕の隣に居た。
「私と友達になってくれる?」
君がそんなことを大きな声で言うものだから、兵士がやってきて君は蹴られ殴られ、そして人か物かも分からない状態にされてから外に投げ捨てられた。
こうして考えてみても、あの時の君は確実に死んでいたはずだ。
それなのに君は翌日も当然のように現れて言った。
「私達、もう友達だよね?」
兵士達がやってきて、君の体を槍で突き刺した。
何度も何度も突き刺して、君の体はズタズタになって、そのあと君は広場で燃やされていた。
少しだって哀れに思わなかったよ。
だって、燃やされながらも君は僕のことをじっと見つめていたから。
あぁ、素直に言うよ。
僕は君が怖くて仕方なかったんだ。
数えきれないほどの兵士に守られた城の中に平然と入って来る君のことが。
確実に死んでいるはずなのに僕の下に何度も現れた君のことが。
怖くて怖くて仕方なかったんだ。
次の記憶は今でもありありと思い出せるよ。
僕は十三歳になって、他国の第三王女と政略婚させられることになったんだ。
僕より少し年上だったけれど、温かくて優しい王女様だったよ。
はっきりと言えば、政略結婚だったけれど憧れの人だった。
だから、恥を忍んで言えば僕は嬉しくて仕方なかった。
夜、王女様の寝室に行くときだって、胸が大きく脈打っていて苦しいほどだったよ。
そして、寝室のベッドの上を見れば君が居た。
王女様をナイフでめった刺しにして、その返り血で真っ赤に染まりながら君は言った。
「この人、君を殺そうとしていたよ」
僕の悲鳴を聞いて集まった兵士達はすぐに君を捕らえて連れて行った。
そのあと、君は生きているのが不思議なほどの傷を与えられてから放置され長い間苦しんで死んだ。
けれど、君がどれだけ残酷な死に方をしたかなんてどうでもよかった。
だって、憧れの人が殺されたという事実だけで僕の中は満たされていたから。
三年前のことを僕はよく思い出すよ。
第三王女が殺された事により、僕の国と彼女の国の戦争が始まったから。
君も知っているだろうけど、僕の国はとても弱かった。
あっと言う間に蹂躙されてたくさんの人が殺された。
僕を逃がそうとして多くの兵士が犠牲になったけど、それでも僕は逃げ切れなかった。
十数名の兵士が僕を取り囲み剣や槍で威嚇しながら言った。
「王女様の敵討ちだ」
逃げられないと理解していた僕はうなだれていた。
槍の一突きを待つだけ……そう思っていたのに僕はまだ生きていた。
不思議に思い顔を上げるとそこには血だらけになった君がいた。
「大丈夫? 怖かったね。もう大丈夫だから安心して」
君はそう言ってにこりと笑い腕を差し出した。
僕の心は一瞬の内に憤怒に満たされて君の首を刎ねた。
君が何で生きているのかなんて分からないし、なんで僕を救ってくれたのかも分からない。
けれど、君のせいでこうなっていることは知っていたから。
その日、僕の故郷は永遠に失われた。
だけど皮肉なことに僕の命は今もまだ続いている。
去年のことを僕はよく覚えているよ。
国を失った僕は一人の旅人として自由に暮らせていた。
だからこそ、何度も殺されても僕の前に現れる君のことを調べることが出来たんだ。
けれど、君のように何度も蘇る命について語る文献はいくら探しても見つからなかった。
ただ唯一、近いかなって思ったのは、旅の途中で立ち寄った教会に居た司祭さまの言葉。
「それは愛の成す奇跡かもしれません」
その言葉がとても、とっても怖かった。
そして、その夜、君はまた僕の隣に現れた。
「久しぶり!」って言いながら。
「ねえねえ」
今、君が僕に声をかけてくるけど僕は君を無視する。
「無視しないでよ。いじわる」
そう言ってケラケラ笑いながら僕の頬を指でつつく君の体を突き飛ばす。
「いたたた……もう少し優しく扱ってよぅ」
あまりにもうざったらしくて、僕は君を殺そうかと思ったけどやめた。
どうせ復活すると知っていたから。
何度も何度も蘇って、何度も何度も僕の前にはせ参じる。
この字面だけ見ればとても素敵だけれど。
「ねえ! ねーえ!」
纏わりついてくる君を突き飛ばして僕はため息をついた。
一方通行の愛ほど気持ちの悪いものはないって、僕は思うんだ。