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第4部 その6「嫁になりたいんです」

 突然の質問に、陽壱はそれなりに驚いた。まさか恵理花からそんな台詞が出てくるとは、思いもしなかった。


「どうなんでしょう?」

「あ、ああ、恋人ではないよ。まだ」

「うん、まだ……」


 それが陽壱としては精一杯の回答だった。

 美月も頬を染めて俯いた。


「まだ、ですか。うーん」


 神妙な顔を崩さないままの恵理花は、腕を組み考え込む仕草をする。ちらちらと陽壱たちの様子を伺いながら唸っていた。


「何かあったの?」

「よし、まだなら大丈夫ということにしましょう!」


 恵理花はぱっと顔を上げ、手を叩く。

 先程までの思い詰めたような表情は消えてなくなっていた。代わりに、日焼けしていてもはっきりわかる程度に頬を染めている。


「報酬についてです。魔獣を倒した時の」

「報酬?」

「はい、成功報酬なんですけどね」


 だんだんと恵理花の目が泳ぎ始めた。また言いにくいことに行き当たったのだろう。

 嘘がつけない性分だ。

 数日共に過ごす中で、この下級生の憎めない性格はだいぶ理解できてきた。


「私なんです」

「東?」

「はい。あの、婚約者、的な」

「こ、婚約者!?」


 美月にしては珍しく大声を上げる。


「昨日会った人族の長なんですけどね、私のおじいちゃんなんです」


 それは、隣り合う世界からの勇者に頼る計画が立ち上がった当初のことだ。例え連れてきたとしても、相応の見返りがなければ協力はしてもらえないだろうという意見があった。

 各種族の長同士で対策の議論を重ね『地位と名誉と女』という結論に達する。

 勇者は人族ということが判明しており、長の地位を与えるのは同じ人族と決定した。

 長になるにはその家系に入る必要がある。つまり、長の孫であるエリカとの結婚だ。

 ちょうどスカウトマンはエリカであるし年頃だ。現地や案内の途中で恋に落ちるだろうとの思惑も込みだったそうだ。


 ここまでが、恵理花の説明を必死に解読した成果だ。


「地位と名誉と女って、なんて短絡的な……」

「ほら、私って可愛いですよね? 充分報酬になると思うんです」

「ここでは、そうみたいだな」


 実際、この世界では恵理花はとんでもない美形と扱われている。人族はおろか、他の種族からも求婚が相次いでいたらしい。

 そんな中、勇者の嫁となるため、全てを断って陽壱たちの世界ヘ旅立ったと語る。


「お二人が既に恋人同士ならちょっと悪いなとは思いましたが、まだなら全く問題ないですよね」

「ちょっと悪いと思うだけなのか」

「ちょっとです」


 異世界なので、価値観が大きくずれている部分もあるということだろうか。

 というよりも、ただ恵理花が遠慮しない性格をしているだけな気もする。


「それで浅香先輩が良ければ、私とけ」

「待って恵理花ちゃん」

「はい? なんでしょう?」


 話を続けようとする恵理花に、美月が口を挟む。その顔は真剣だ。


「その前に、それでいいの?」

「いいのとは?」

「ほら、結婚って、好きな人とするものだと私は思ってたから、気になって」

「ああ、それはご心配なく」


 美月の問いに、恵理花ははっきりとした言葉で答える。


「こっちは、重婚も可能です。私が正妻という名目であれば、深川先輩も大丈夫です。浅香先輩ウハウハです」


 自信満々に的を外れた回答と、その内容に陽壱は思わず吹き出した。

 いつかは美月と結婚したいと考えているが、ついでのような重婚とは違う。

 やっぱり価値観の違いは、それなりに大きいみたいだ。


「違うの。そういう意味じゃなくてね」

「はぁ?」

「恵理花ちゃんは、よういちと結婚したいの? おじいさんに言われたからって、そんな無理矢理なのは」

「そうそう、別に無報酬でもやるぞ。ほとんどレイラのおかげだし、タダ飯食わせてもらってるし」


 陽壱たちの言葉を聞き、元々まん丸な目を更に丸くする。

 そんな意見が出ることは全く想定していなかったようだ。


「そうですね、確かにその説明が抜けていました」


 恵理花は三回ほど頷き、真っ直ぐ陽壱を見つめる。

 これまでも紅潮していたその顔は、より真っ赤に染まっていた。


「私、浅香先輩の嫁になりたいんです」

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