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第3部 その5「私もよういちが好きです」

 半ば強引に提案されたデートは、日曜日に決行されることになった。その前日となる土曜日の朝、美月は恭子からいつもの駅ビルに呼び出されていた。

 作戦会議がしたい、とのことだった。


「悪いね深川さん。無理を言って」

「大丈夫ですよー」


 口では大丈夫と言ってみるが、内心ではそれなりに緊張していた。

 それもそのはず、美月と恭子が二人で話すのは初めてのことだった。もう一年近い付き合いにはなるが、二人の間には常に陽壱がいた。


「作戦会議と言ったんだけどね、実はお願いしたいことがあって」

「お願いしたいこと?」

「そうそう、恥ずかしいんだけど、私はオシャレというものが苦手でね。服選びを手伝ってほしいんだよ。お礼にお昼はおごるから」

「そういうことでしたか。いいですよー」


 美月は改めて恭子を見つめた。よくわからない柄がプリントされた黄色い長袖Tシャツに、薄い青色をした太めのジーンズ。

 オシャレが苦手だという言葉に嘘はなさそうだ。陽壱を初恋の相手と言っていたことも、なんとなく理解できる。


「深川さんなら、浅香くんの好みも分かるかなっていう下心もあるんだ。やっぱり少しは意識してもらいたいからね」


 副会長とはいえ乙女だったんだと、微笑ましい気持ちになった。それと同時に、心が傷んだ。

 素直に気持ちを表に出せる恭子のことを、羨ましいと思ってしまったのだ。

 今の関係を崩したくないと言い訳する、そんな自分の臆病さを指摘されているようだった。


「よういちは、大人しめだけど女の子らしい服装が好きだと思いますよ」


 なんとか笑顔を作り、美月が知っている店を案内することにした。

 いくつかの店を見て回って、気付いたことがある。恭子はこれまで服装に頓着がなかっただけで、決してセンスが悪いというわけではなかったということだ。

 飾られているマネキン、美月や店員のアドバイスを参考にして、早々に自分に合う物にたどり着くことができた。

 もちろん前提は、陽壱に意識を向けさせるような服装だ。

 値段も予算内だったようで、恭子は満足したようだった。

 礼に昼食をおごると言われ、二人はビル内のカフェに入った。


「今日は本当にありがとう。私だけだったら途方に暮れていたところだよ」


 トマトソースのスパゲティをフォークに巻きつつ、恭子が改めて礼を言った。

 本当に困っていたようなので、助けになれたのは嬉しいが、感情としては複雑だ。敵を助けたようなものだからだ。

 ただ、現状の美月自身は恭子の敵ですらない。陽壱への好意を隠している時点で、その資格はないと思っている。


「大したことしてませんよ」


 猫舌だが熱いものが好きな美月は、スプーンですくったシーフードドリアに息を吹きかける。

 恭子の目を見て話せないのを、情けなく感じていた。


「つかぬことを聞くけどね、深川さんは浅香くんのこと好きなのかい?」

「んぅっ」


 美月は恐る恐る口に含んだドリアを、思わず吹き出しそうになった。


「違ってたら失礼だけど、昨日と今日で確信してしまってね。それまでは疑惑程度だったんだよ」

「ど、どうして確信?」


 質問に質問で返してしまったのはわかっているが、ストレートに答えることはできなかった。


「否定しないんだね。そういうところ、好きだよ。だってね、深川さんは浅香くんを見過ぎなんだよ。視線っていう意味ではなくて、思考が浅香くん中心になり過ぎてる。服の好みをスラスラ教えてくれたのも、証拠のひとつ。これは、友人に対する態度ではないよ」

「……その通りです」


 美月は観念した。

 ここまで言われた上で隠しても白々しくなるだけだ。


「勘違いじゃなくてよかった。って、偉そうに言っているけど、浅香くんに恋をしなければ気付かなかったと思うよ」


 恭子は小さく声を上げて笑う。唇についたトマトソースを舐める仕草が、妙に大人の女性に見えた。


「それとね、浅香くんはたぶんあなたのことが好きだよ」

「え?」


 美月にはその言葉が理解できなかった。

 陽壱が自分のことを好きなんて、そんなことはないはずだ。普段から友達と公言している。


「いやいや、よういちは私のこと女として見てないですよ」


 慌てて否定する。自分でもあまりに虚しい否定だと思う。


「そうかな? 私にはそうは見えない。あなたが彼を見るのと同じ目で、彼はあなたを見ているよ。嫉妬してしまうくらい」

「そんな、友達だっていつも……」

「そう、だから私は納得がいかないし、その隙に付け込もうとしている。私はどうしても彼が好きなんだ。私のことを好きになってもらって、浅香くんとお付き合いしたい」


 恭子の目は真剣だった。

 美月は言葉を返せなかった。


「私にとって、深川さんは最悪のライバルなんだ。幼馴染という立場を言い訳に動かないのなら、手段を選ばないで容赦なく奪いにいくよ。あなたのことは友人としてとても好きだから、できれば正々堂々としていたい」

「……はい」


 美月は大きく息を吸い込んだ。

 ここまで言わせておいて、黙ったままではいられない。いてはいけない。


「私もよういちが好きです。まだ告白する勇気が持てないのは情けないけど、取られたくありません」

「その気持ちが聞けてよかった。ただし、先に告白したアドバンテージは使わせてもらうからね。それで勝っても負けても恨みっこなし」


 恭子は微笑んで、綺麗にスパゲティを巻いたフォークを口に入れた。

 美月は頷き、負けじとスプーンを口に突っ込む。


「はふはふはふはふはふ」


 心構えだけでは猫舌を覆せなかった。

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