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第2部 その5「私、我慢できなさそう」

 午後の授業もあと一限で終わる。

 本日最後の休み時間、陽壱は席に座ったままで大きく伸びをした。


「よし」


 自分に対し一声かけ、立ち上がる。

 いろんな覚悟は決まった。昼休み後に携帯電話からメッセージを送り、美月にも賛同してもらっている。


「はい聞いてー」


 教壇の前に立った陽壱は、声を教室に響くような声を上げる。休み時間の喧騒が一瞬止まり、クラスのほぼ全員が陽壱を見る。

 午前中よりも小さくはなっているが、輪に囲まれているレイラも視線を向けた。


「レイラの歓迎会をしたいの、です!」


 陽壱の提案に、各々が顔を見合わせて首をかしげたり頷いたりしているのが見える。何度かこの手の企画をしているが、毎度反応には緊張してしまう。

 当のレイラは突然のことにポカンとしていた。


「レイラは今日の放課後、時間ある?」

「え? えっと……あ、あるヨ!」

「カラオケからのファミレスはどう? 日本の定番コース」

「楽しそウ!」

「はい、主賓が参加してくれるって!」


 レイラの返事を期に、徐々に「おおー」という歓声と拍手が広がる。


「こんなこともあろうかと、クラス名簿を用意しておいたので、行く人は放課後までに名前に丸つけてなー。その人数で予約するから、ヨロシク」


 黒板横の掲示スペースに、名簿を画鋲で留める。


「用意いいなおい」

「ナイス浅香くん」

「またお前かありがとう」


 ぞろぞろと、判断の早い数人が丸をつけにきた。部活やバイトなどの都合もあるだろうが、そこそこの人数は集まりそうだ。


「レイラの分は皆でワリカンなー。あと、手持ちない人はイベント予算から貸し出しでいいよな?」

「「賛成ー」」


 イベント予算とは、突発での集まりがあった際、手持ちがない人へ貸し出しすためのの基金だ。陽壱発案のもので、今のところ貸し出し後の未回収はゼロだ。みんなきっちりしていてありがたい。

 そして、既に駅前にある、ドリンクバーすらないが格安なカラオケ店に仮予約をしてある。こういった点の抜かりはない。

 そろそろ休み時間も終わりそうだ。陽壱は自席へと戻る。

 その途中、レイラに袖を引っ張られた。


「へへー、ヨウイチー、ありがとうネ」

「こういうの、好きかなと思って」

「大好きだヨー」


 レイラは目を輝かせていた。彼女の性格からして、嫌がることはないだろうと確信していたが、本人の反応を見てホッとした。

 そんな笑顔を見て、陽壱は自分の価値観を再確認した。騒ぎになりたくないとか、目立ちたくないとか、無駄に警戒しすぎていた。

 誰かのために行動することが、陽壱の本質だったのだ。

 さて、大人しく勉学に励もう。


 最後の授業が終わり、掲示スペースにはちょっとした行列ができている。その様子を、レイラは嬉しそうに見つめていた。

 陽壱の視線に気づいたのか、席を立って近づいてくる。


「んふふ、ヨーイチ、嬉しいねー」

「それはよかった」

「あのね、ふたつお願いがあるノ」

「うん、いいよ」

「ミツキも呼んでほしいな。友達になったからね。それと……」


 レイラはそっと陽壱に近づき、耳打ちした。朝と同じように、細く長い金髪が頬をくすぐる。


「あのこと、ヒミツにしておいてほしいノ」


 陽壱から顔を離し、照れくさそうな苦笑いを浮かべた。


「バレそうになったら、助けてネ。三人のヒミツ」


 そう言って手を振り、行列の中に入っていった。

 後から聞いた話だが、レイラの好きなアニメは『装甲少女シリーズ』と言われているそうだ。現在放映中なのが『装甲少女トップス』で、初代が『装甲少女ルージュ』というタイトルらしい。

 思い返すと、なんか聞いたことがあるような気がする。


 歓迎会のカラオケでは、レイラの独壇場となった。日本でも知られているくらいの有名な洋楽を、振り付きで完璧に歌っていた。

 最後のポーズで、カラオケボックス内は拍手の渦に包まれる。一部、泣いている男子もいた。


「どうだっタ?」


 軽く汗ばんだレイラが、美月と陽壱の間に座る。

 装甲少女ではなくてもアニメは好きらしく、タイアップした歌が流れる度にソワソワするレイラを静止するためのポジションだ。

 そのため、レイラの定位置となっていた。


「レイラちゃんすごいねー」

「うん、上手い。プロ並み」

「えっへっへー」

「次私だー」


 レイラの歌唱力も素晴らしいが、美月の絶妙に上手くない歌声は陽壱を幸福にさせた。


 大盛り上がりでカラオケを終え、二次会はファミレスのドリンクバー。レイラは初めてだったらしく、ジュースを上手くブレンドするのに真剣になっていた。

 門限のあるクラスメイトがパラパラ帰り、気付けば夜の七時を回っていた。


「じゃあ、そろそろ解散しよう」


 陽壱の宣言で、歓迎会はお開きとなった。


「ヨーイチ、ミツキ」


 並んで駅に向かおうとした二人に、レイラが声をかける。


「今日はありがとうネ。とっても楽しかった」

「どういたしまして」

「あのね、二人にお願いがあるの」

「なぁに?」

「今度、三人でカラオケ行きましょウ。私、我慢できなさそう」


 後日、陽壱と美月は、レイラのアニソンメドレーを聞くことになる。プロ並の歌唱力と情熱が入ったアニソンメドレーを。

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