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41 新たな混沌の魔獣

「お元気そうで何よりです! 兄上のご活躍はノウマッドまで届いていましたよ!!」

「そんな事はどうでもいい! 何故一人でノウマッドを出てきたんだ!!」

「そ、それです!! 実はノウマッドの前線にも混沌の魔獣が現れたんです!」


 そこにいたのはカーマ。

 あまりの出来事に一瞬ドットは呆気にとられたが、すぐに我を取り戻して一人で帝都まで来た事を叱ったが、どうもそれどころではない。

 カーマの話ではノウマッドの最前線に一切の攻撃が利かないドラゴンが現れた事でユージンが領地を持って以来、初めての敗走を喫したと伝えられた。


「父上や皆は無事なのか!?」

「負傷者は多いですが皆無事です。今は一度城まで引き返し、籠城戦の準備を進めている所です」

「すみません。皆さん。父上を助けるために力を貸して頂けないでしょうか!?」

「聞くまでもねえだろ。俺達のリーダーはお前だ」


 急変した事態にドットはすぐさまノウマッドへの帰還を決断した。

 ドットとしては今、自ら引き受けた異変の調査や黒衣の魔導師の捜索を中断してまで急行する事に引け目を感じていたが、皆の心は聞くまでも無かった。

 すぐさまドットはテレポートを発動し、ノウマッドの広場へと瞬時に帰還する。


「す、凄い! いつの間にこんな魔法を覚えたんですか!?」

「覚えたというか何というか……まあその話は後だ。父上の元へ急いで向かうぞ!」


 周囲の形式が瞬時にコストーラからノウマッドに変わった事でカーマは非常に驚いていたが、これらの魔法も正確には覚えたわけでは無いためドットには説明のしようがない。

 すぐさまドット達はノウマッド城へ向かうと、兵士達は皆ドットの帰還を見て色めき立っていた。


「ドット様が戻ってきたぞ!」

「お元気そうで何よりです!」


 ドットとその一行を前に兵士達は皆喜びの表情を浮かべており、思い思いの言葉をドットへと投げかける。

 それはまさに英雄の凱旋そのものだった。


「父上! ラインハルト!」

「ドット!? まさかもう戻ってきたというのか!?」

「カーマから事情は聴いています。此度の戦い、是非私めもお供させてください」

「私もお前の噂を沢山聞いた。若い頃の私なぞ目でもない程に目覚ましい武勲を次々と立てて……父として誇らしいばかりだ。だが……今回の敵ばかりはならん。アレは誰にも倒せぬ……」

「私はその倒せぬ敵をこの手でしかと討ち取ってきました。必ず父上に勝利を届けてみせます!」

「無鉄砲が通る相手ではない。……が、そう言って引き下がるような男ならクレースも旅に行かせておらん。ラインハルト、今呼べる各隊の隊長を呼べ。ドットを交え改めて作戦会議を行う」

「承知致しました。すぐに手配します」

「ありがとうございます!」

「男子、三日会わざれば刮目して見よ。とはよく言った物だ。この短い間に随分と良い顔になった」


 城内がまた慌ただしく人が動き出す中、ドットは短いながらも父と母、そして弟との少しばかりの家族の時間を過ごし、自らの成長を喜ぶ皆の顔を見て思わず涙を溢しそうになってしまう程嬉しかったが、父の前で泣くわけにはいかないと踏みとどまった。

 そしてすぐさま隊長数名を交えた会議が始まり、空気はまたひりついたものへと変わった。


「ここから更に東へ二〇五キロ。現在はガット野戦城跡地となった場所に例のドラゴンは鎮座しており、魔導師の情報では今も尚動き無しとの事です」


 ノウマッド周辺の地図を広げ、現在の状況をラインハルトがドット達へ説明し始めたが、状況はかなり悪い。

 ガットは元々魔王城への前線基地として魔物の殲滅を確認された際に築城された城だったが、今またその城が件のドラゴンによって攻め落とされ、今はドラゴンの寝床となっているとのことだった。

 死傷者多数を出したものの、本隊は撤退に成功し、今は失った土地をいかにして取り戻すのか? よりもそのドラゴンがいつノウマッドへ攻め込んでくるのか、その際に今の兵力でどうやって市民が避難するまでの時間を作るのか? といった方向で話が進んでいるような状況だった。


「そのドラゴンの能力とは?」

「一切の攻撃が通りません。我々の戦力が遠く及んでいないのではなく、まるでドラゴンの形をした霞とでも戦っている、といった方が的確でしょうか……」

「霞……?」

「目の前に確かに存在し、多くの兵士がそのブレスや爪撃を防いでいるというのに、こちらから反撃しようとしても宙を斬ったのと同じで全く手応えがない状態なのです」


 ラインハルトの話を聞くだけで分かる明らかな異常性。

 新たな混沌の魔獣が現れたという事は、間違いなくその裏に黒衣の魔導師の存在があるという事でもある。


「……ドラゴンからの攻撃があって、一応盾や鎧で防げている事は防げている。という事か?」

「ええ。ですので今観測隊は重装騎士隊が当たっています。もしもの場合は魔導師から連絡が入るはずです」

「であれば。私に考えがあります」

「本当か!?」


 ラインハルトの言葉を聞いてドットが策があると答えると、皆の表情が少しだけ明るくなったが、それを制止するようにライオネッタがドットの横へ歩み出た。


「少々すまないが口を挟ませてもらう。ドット、まさかとは思うがまたあの無茶をするつもりか?」

「大丈夫だ。あの時はただ耐えるしか無かったが、今なら攻撃を受けた程度では何ともならないようにはできる」

「そういう問題じゃない。勝てる算段はあるのか?」

「必ず勝てるという策はない。だが持久戦なら歩はこちらにある。もう無茶ではない」


 ドットの言葉を聞いてもライオネッタの表情が晴れる事は無かったが、かといってそれを止められる存在は最早この世には存在しないだろう。

 混沌の魔獣相手に有効打を与えられるのはドットしかいない以上、ドットは必ず矢面に立たなければならない。

 これまでライオネッタ達がドットの盾となり矛となり戦ってきたからこそ、混沌の魔獣を相手に何もできない子の現状が歯痒かったというのもあるのだろう。


「それに……ライオネッタ達には混沌の魔獣を相手にするよりももっと大切な任がある。それも含めて今から皆に私の考えた策を聞いてもらいたい」

「本気で言ってるのか? 混沌の魔獣、しかもドラゴンを相手にするんだぞ?」

「私の能力は知っているだろう? それよりも、私が長丁場になればその分皆の負担も増える。ライオネッタも、他の皆も私と共に戦ってくれる覚悟はあるな?」


 ライオネッタへ向け、そして背後にいるアンドリュー、マリアンヌ、ワワムの三人へ向け、ドットは一人の指揮官として堂々たる自信を持ってそう言い放った。

 迷いのないその言葉に一同は快諾したのを見ると向き直って父とノウマッドの騎士隊長達へも同様にその覚悟を確認する。


「……ならば此度の戦、その指揮権をドットへ委ねる」

「いえ。指揮は変わらず父上が執ってください」

「何故だ? その策は最早お前無しでは成り立たんのだろう?」

「その通りですが、私の指揮はライオネッタ達と共に旅をしていた時から同じです。事前に策を講じ、戦うための準備を整え、実際に戦い初めてからはライオネッタの経験とその指揮能力に助けられてきました。今回も私の作戦と指揮系統のあり方に変わりはありません。そのため総指揮は父上でなければならないのです」

「クレースと同じ程に私に意見を申せるようになったな。よかろう。ドットの策を以て全体の陣を伝える。ガットを我々の手に取り戻すぞ!!」


 今一度、ユージンの鼓舞によって城内の士気は高まっていた。

 大きな戦を前にドットはユージンと共に作戦の仔細を詰め、ライオネッタとマリアンヌは大規模な作戦の為に、アンドリューとワワムは城内に居る負傷者の手当ての為に忙しなく動き回っていた。


「ドット。少しこちらへ」

「母上? 承知致しました。少し失礼致します」


 忙しなく動き回る作戦室へ来たクレースの姿に気が付き、ドットは一度執務室へと向かった。


「母上、何か……わぶっ!?」

「本当に……本当にお前が無事でよかった……」


 ドットにとって母と二人きりの時間はあまりなかった。

 だがそれは決して不仲ではなく、一人の施政者と次期領主として他人の目を気にしなければならなかったというだけだ。

 ドットを気丈に見送り、旅を許可したはずのクレースのその目には涙が零れていたが、それすら気にする素振りすらない程、本当は心配で仕方が無かったのだろう。

 クレースの心が鎮まるまでドットはただ静かに母の背を撫で、静かながらも確かな親子の時間を過ごした。


「取り乱してすまない。お前の噂は常々届いていたが、それでも心配で心配で仕方が無かったのだ」

「温かく送り出してくれたではありませんか!」

「城内の壁に日々を入れる程に吹き飛ばされる者を何の心配もなく送り出せると思っているのか?」

「やはり母上はご存知でしたか……」

「当たり前だ。だが……お前が大丈夫だと言ったのだ。そしてちゃんと成し遂げた。それだけで誇らしいというのに……ユージンにも物怖じせず進言したとラインハルトから聞いた。良き旅であったようで心底安心できた」

「ありがとうございます」

「私からはそれだけだ。最早お前の言葉を疑う必要はない。成すべき事を成し遂げてくるとよい」


 クレースはそう言うと優しく微笑み、執務室からドットを送り出した。


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