03:慰め
「な、なんであんたがここにいんのよ!…ですか?」
「おい、下手な敬語使うな。気持ちわりー」
ただ一人屋上で傷心に浸ってやろうと思ったのに
なんでこいつがいるんだ!
「ここ生徒と関係者以外は立ち入り禁止ですよ」
「あー、俺ここに弟通ってるし」
「マジすか!」
「嘘だけどな」
「……」
躍らされた…っ
「つーかそんな遠いとこだと大声出さなきゃなんなくてめんどい。こっち来いや」
「やです。私高いとこ苦手なんで」
「厭かどうかなんざ聞いてねーよ」
「……」
拒否して殴られるのも困るので仕方なく火だるま小僧(そういえば名前知らないなぁ)のいる貯水タンクの上に登る
スカートなのに梯子登るなんて…最初で最後の体験だろうな…
少し時間かけて彼の隣りにすとんと座る
「来ましたけど」
「ご苦労」
申し訳程度の労いを私に投げかけながら、火だるま小僧はポケットから煙草をだしてライターで火を点けようとした
「未成年なのに吸うんですか」
「だって俺卒業してんもん」
「…制服着てるのに?」
「…うるせーなお前。俺の母ちゃんかよ」
「こんな出来の悪い息子は要りません」
「黙れ」
「ごめんなさい蹴らないでください」
彼はふん、と鼻で私を笑いながらライターで煙草に火を点ける
吐き出された紫煙はふわりと空に消えていった
「で?お前なに泣いてたんだよ」
「泣いてません。目にゴミが入っただけです」
「言い訳すんな」
言って、いいんだろうか
こんな名前も知らないような、素性もわからないような人に私のあんな痛々しいことを語っちゃって
「会ったばかりの人に…その、ご迷惑は」
「ごちゃごちゃうるせぇ。言えっつったら言え」
なんだこの横暴なやつ…
でもなんだか、“頼れ”って言われてるみたいで嬉しかった
それに誰か分からない人だからこそ話せるっていう気持ちがあるのかもしれない
気付いたら私の口は止まらなくて
さっきの出来事をべらべら喋っていた
「ほぉー。終わりか」
「終わり、です」
「思い出し泣きすんな。俺が泣かしたみてーじゃん」
「言えって言ったのそっちですよ…っ」
ぽたぽた零れ落ちる泪をぐしぐし拭っていると私の頭に大きな手がずし、と乗る
「まぁ、頑張ったんじゃねーの?」
驚いて顔を上げると、前を向いたまま頭を撫でる隣りの赤髪
「頑張った、と…思います、か?」
「頑張ってなくはねーだろ。じゃあ頑張ったんじゃね?」
「なんですかその理屈…」
「俺の中じゃプラスかマイナスしかねーんだよ」
へんなやつ。火だるま小僧
そんなイメージしかなかったのに
本当は見かけによらずいい人、だったのかなぁ
「泣くな。泣いたら不細工が目も当てられねぇもんになるぞ」
いい人、…
いやいや、これくらいで怒ったら流石に器が小さすぎるってもんだろう
「ちなみにこれ、返すわ」
「わっ。…私の携帯?」
「俺のアドレスと番号入れといた。入り用の時は呼べ、俺も呼ぶから」
「はぁ!?」
んじゃ、とそれだけ言ってさっさか去っていく
訂正、あいつ全然いい人じゃありません
ただの自分勝手バカです
「ったく、情緒もへったくれもないんだから…」
彼のアドレスを探してみると、あった
見覚えのない名前が
「泉、恭…」
いずみきょう、いずみきょう
意味もなく何度も何度もその名前をつぶやいてみる
泉が苗字で恭が名前
簡単で覚えやすい
「…ん?」
名前横の続柄って欄が私の目を引いた
「なんじゃこりゃああああ!」
そこにあったのは“私のご主人様”とご丁寧に語尾にハートまでつけてあって
普段ハートなんて使わない私はもう足元から旋毛まで鳥肌立っちゃって
「気分悪い!帰る!」
教室で待たせている柊が頭を過ぎったのでイライラしながら階段を下る
上ってきた時とは違う、軽快な足取りで
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~あとがき~
はい、とりあえず火だるまこz…げふんげふん
恭くんの名前を出してあげないとすごく可哀相だったので出しちゃいました
こんな横暴な不良さんいるんですかね?
っていうか不良って横暴ですよね?((
次回はアレですね、柊ちゃんが出ます
ちなみに柊ちゃんの下の名前は澪ですが読みは“みお”ですよ
“れい”って読まれそうなので言ってみただけですごめんなさい
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