表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

02:再会


いつものように、規則正しいアラーム音で目が覚めた

気分はあんまりよくない

昨日の、あの火だるま小僧のおかげで




「行ってきまーす」


「忘れ物は?」


「ない。…多分」


「そう、まぁあんたなら財布だけあれば生きていけるもんね」


「おかんひどい!」


「早くお行き!」




玄関先で少し母と揉めて、いつものように学校へ歩いて向かう


そう、全く同じ


いつも通りなんだ…


あんな生意気な火だるまとは出会ってない、出会いたくもない、出会わない…!




「で、出会ってたまるもんですか…っ」


「おっす、高村!」


「がはっ」




いきなりばしぃっと背中を叩かれる


朝っぱらから何でこんな目に合わなきゃいけないんだろうか…




「おはよう柊、早く女らしくなることを強くお薦めするよ」


「たはーっ、苗字呼びすんのん勘弁してやー、ゆーちゃーん」


「黙れこのゴリラ女めが!」


「おっそろしー」




ケラケラ笑いながら私の隣りを歩くのは友達の柊


澪と呼べ呼べうるさいのでわざと苗字で呼んでやっている


柔道部だか空手部だかに入っていて、早くも一年の練習試合で主将の座に登りつ

ようとしているらしい


そんな奴に会う度ばしんばしん殴られてたら本当に私死ぬ


それでいて『どこにそんな力あるの?』ってくらいほっそりしてるのは奴の七不

思議の一つだ




「それはそうと、大野君とは進展ないん?」


「な、何でそんなことあんたに言わなきゃいけないの」


「あちゃー、ないんかー。そら残念」


「勝手に話を進めるんじゃない!」




柊の言う『大野君』っていうのは私の一目惚れの相手

なんていうか、爽やかで優しい穏やかな人

隣りに立ってる馬鹿に言わせると“ありがちな王子様キャラ”らしいけど


一度、私が何も無い廊下で転びかけた時に彼は超ナイスタイミングで抱きとめてくれたのだ

そんな王子様に助けられしまいに“大丈夫?”なんて言われて惚れないのは柊くらいだ

隣りを歩いてたくせに『うははっごめんごめん。転びそうなん気付かんかった』とか言いやがるんだから




「そろそろ告ってもええんちゃう?ゆうこならもうガンガン脈ありやと思うねんけど」


「いやいや何を…」


「ほんまに。お前は奥手すぎんねんて。見ててめっちゃ気持ち悪いわ、どないしてくれんねんこの吐き気」


「知るか!そこまで面倒見切れるか!」




ギャーギャー言い争ってると教室に到着

柊の席は廊下側で私は窓側なのですごく遠い

けれど今はすごく幸せなのだ!




「おはよう、高村さん」


「お、おはよう大野君!」




彼が私の前の席だからさー!


もうね、授業中とか楽しすぎるんだよ!

ノートと黒板を見比べる時に揺れる黒い短髪だとかたまにちょいっと首を傾ける仕草とか他にも色々あるけど…

プリントを回してくれた時に手がちょっと触れると嬉しくて叫びたくなるんだ、いや本当に




「…高村さん?」


「へぁ?あっご、ごめん!」




宙を見つめてニヤニヤしてた私に恐る恐るといった感じで声をかけてくれた大野君

見たかな私の超ニヤけ面…!




「そういえば高村さん、こないだノート取り忘れたって言ってなかったっけ」


「あ、うん。日本史をちょっと全部ね」


「ちょっと全部…?よかったら俺の貸そうか」


「えっいいの!?」


「うん、汚くていいなら」




ゆ、夢じゃないよね…っ!?

悪い悪魔に騙されてないよね!?

ってか悪い悪魔ってどんだけ悪いんだよ!




「あ、ありがとう…!」


「いえいえ。わかんないとこ合ったら言ってね」


「うんっ。いつ返せばいい?」


「いつでもいいよ、次の日本史が金曜だからそれまでには」


「分かった!本当にありがとう」


「はいよー」




私にノートを預けて大野君は教室を出て行った




「ヘイそこの青春ガール!」


「…柊澪ちゃん」


「うおっ…!な、何や」


「私明日死んじゃうかもしれない!」


「なんでやねん!」




落ち着け!と私の頭を殴る柊

きっとからかいに来たんだろう




「だ、だってだって!お、おおおお大野君がっ」


「うん、見とった。なのに死んだらあかんて…」


「きっともう一生分の幸運を使い果たしちゃったよ…。そしたら私死んじゃう!今すぐ死ぬの!?」


「何やお前!めっちゃめんどくさいやっちゃな!」




ここまでされると本気で期待してしまう

いや、でも私みたいなタヌキ女が大野君みたいな王子様に告白なんて考えただけでもおこがましい…


…タヌキ女?




「ぐあああああっ」


「今度は何やねん!」


「超イヤなこと思い出しちゃった!」




あの赤髪に大野君を見せてやりたい

そして『お前と彼とじゃ三輪車とスペースシャトルだ!』つって笑ってやりたい

…直後に殺されそうだけど




「他人から見てもイケるでゆうこ」


「三輪車とスペースシャトル?」


「は?お前は急に何を言ってんねん。」


「え、ごめん何の話し?」


「せやからー。今日コクったれや言うてんの」


「……ハァ!?」




あんまりにも驚いて大声を出すと、教室にいた大半のクラスメートが私に注目する




「声がでかいわアホ」


「うん、ごめん…。今日っつった?」


「まぁ厳密に言えば放課後、やけどな」




小声でも聞こえる様に柊は私の隣りの席に腰掛けた




「どや、やるか?」


「こ、心の準備が…!」


「んなもんいらんねん。当たって砕く勢いで行けや」


「いやそこは砕いたらダメだと思う」


「あ、せやな。まぁ細かいことはおいといて!やれ、行け。お前はやればできる子や」


「う…うん」


「おー、言うたな」




柊の勢いに押されて思わず頷くと嬉しそうに背中をばっしばっし叩いてきた

今朝も叩いてたくせに!




そして放課後

結果は一番に聞きたいとやかましかった柊を教室に残し、私は国語準備室にて大野君を待っている

『来なかったら後日見つけてボコボコにシバいたるから安心しぃ』とか柊が言っていた

何でも腕力に任せようとするのはどうなんだろう…




――ガラッ




「あ…」


「高村さん?」




急にドアが開いたと思ったら大野君が立っていた

よかった、ちゃんと来てくれたんだ




「大野君!ご、ごめんね呼び出したりなんかして」


「大丈夫だよ。で、用事ってなに?」


「あ、えー…と」




しまった

告白のセリフを全く考えていなかった…!

ど、どどどどうしよう!

あんのバカ告白しろしろ言うだけでセリフなんかちっとも考えてくれやしなかった


もう『好きです』だけでもいいよね!?

それ以外何言ったらいいのか全然わかんないもん、恋愛経験とか皆無だし…




「あの…私、大野君が…す、す…しゅきです!」


「…え?」


「…あの、好きですって言いました…」




ジィィィィィィザスゥゥゥゥ!


何でそこ噛んだ!

私なんでそこ噛んじゃった!


おかげで人生初めての告白で大恥の上に言いなおしとかめちゃくちゃカッコ悪いじゃないの!




「高村さんが、俺を?」


「…はい」




申し訳ない気分でいっぱいになって思わず敬語になってしまう




「…それさ、本気で言ってんの?」


「は?」


「高村が俺を好き?ふざけんなよな」




…?

信じがたい彼が目の前にいる

いつも私が見つめてきた大野君じゃあない


教室にいる大野君とは正反対の大野君がここにいる




「ないわー、おまえみたいな奴に好かれるとかマジない」


「あははっ!マジで告白しちゃったんだー!」




急に入ってきた女子と同時に甲高い声が響く

同じクラスの中村沙紀だ

スカート短いしダンス部で、まさに今の時代の女子高生って感じの子

そして私の苦手なタイプの女子




「おいおい沙紀、まだ入ってくんのはえーって」


「いいじゃん、どうせ純だって断るつもりだったでしょ」


「まぁなー」


「ちょ、え…?」




展開に全くついていけず声にならない声を上げると中村さんが勝ち誇った様な笑みを浮かべて私を振り返った

右腕でしっかり大野君の腰を抱きながら




「残念だねぇ高村さん。純は私と付き合ってるんだよ」


「まっさか知らなかったとは思いもしなかったけどな」




あぁそうだったんだ

私そんなのも知らず告白なんかしちゃったんだね、馬鹿みたい


でもさ、




「高村さんに純はもったいなさすぎるんじゃない?もっとふさわしい男とかいるでしょー」


「端的に言えば“身の程を弁えろ”ってか?」


「そうそう!純サイコー!」




もうちょっと違う言い方があるんじゃないの

なんであんた達にそんなことまで言われなくちゃならないわけ


――気付いたら私は無意識のうちに出口へと足を踏み出していた




「おい、もう俺こんなんごめんだからな!」


「他人の彼氏盗ろうとしないでよねー」




“こんなんごめん”?




「…私のセリフだよ」


「あー?」


「“ごめん”なのは私の方だって言ってんの!」




鞄に手を突っ込み大野君、いやもう呼び捨てだ

大野のノートを引っ張り出して持ち主に投げつけた




「てめっ…」


「きゃっ。高村さんってやばーん!」




喚く二人を置いて私は逃げるように走った

階段を上り続け、気付いたら屋上についていて


軋むドアをなけなしの力で押し開けて外へと出た




「あー…やっちゃった」




馬鹿みたいに視界が霞む

何であんな大野ごときのことで泣いてるんだ

情けなくてフェンスに左手だけでしがみ付いた




「泣いてんじゃないよ私…馬鹿、馬鹿…フラれたくらいで何さ、」


「そうそう、そんな気に病むこたァないぜ」


「うるさいな…あんたは引っ込んでてよ…」


「そら無いんじゃねーの?せっかく慰めてやろうとしてんのによー」




って、私さっきから誰と会話して…?

あたりをキョロキョロ見回すと、なんと貯水タンクの上にその人はいた




「な、あんた…!」


「よう、また会ったなタヌキ女」


「火だるま小僧!」


「誰が火だるまだコラァ!」




なんと先日会ったあの火だるま小僧だった






.


~あとがき~


リアルの忙しさに目を剥きました

(いないかも知れないけどいたら嬉しい)待ってた方申し訳ありません

週一くらいの更新で頑張っていこうと思います


書いてて中村ちゃんと大野くんのコンビにイライラしました

これくらい悪い奴の方が後々いい味を出してくれる、と思います

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ