01:始まり
「じゃあな、タヌキ女」
そう言って彼は去って行った
第一話 〜始まり〜
生来、私は一人っ子だった
だからクラスメート達の兄弟の話に入れず、よく憧れたものだ
逆に一人っ子がうらやましいと言われることもあったけれど
「いいなー、高村さん一人っ子なんて」
「でも兄弟いないと寂しいよ、家の中いつも静かだし」
「それがうらやましいんだよ!私ん家なんかね、」
こんな具合だ
『弟がうるさくて』『妹の我が儘でさ、』『姉さんったらね』『うちの兄ちゃんひどいんだぞ』
いいなぁと思いつつ、愚痴を笑いながら語る友人達が好きだった
そんな時に、私は彼らと出会った
ある日の学校の帰り道、コンビニに立寄ろうとした時のこと
この辺ではあまり見ない不良が四人ほど入口近くでたむろし、怖がった人々が入れないという状況だった
けれどそこで足踏みしていても仕方ないので、私は細心の注意を払って入ったつもり、だった
「うおっ痛ってぇ!」
それでも不注意ってものはあるらしい
鞄の端が一番入口近くにいた男性…と言うにはだいぶ幼く、男の子と呼ぶには少々大人びた少年の後頭部に激突してしまったのだ
しかも何とその頭は、目を見張る様な鮮やかな赤
「んにすンだコラァ!」
赤髪の少年が立ち上がって私を思いっきり睨みつける
やはり彼のほうが身長はずっと高いが、顔立ちが私のクラスメート達とよく似ている
年齢はそんなに変わらないんだろう、同じか一つ上程度だ
「な、なんだよ」
まじまじと見つめる私に少年が半歩だけ後退する
その時のコンクリを引っ掻く様な音で私はハッと我に帰った
「すいません、悪気は無かったんです。お怪我ないですか、血とか出てませんか」
「い、いや、別に出てねぇけど…」
「そうですか。本当にすいませんでした。以後気を付けます」
以後、なんてないのにそう言ってみる
それから深深とお辞儀をしてとっとと入ろうとした
と、いきなり赤髪の少年が私の手首を掴んだ
「待てよ、タダじゃ行かせられねぇ。名前と学校名置いてけ」
住所だきゃァカンベンしてやる、と少年
私は迷わず本当の事を口に出した
「城北第二高校一年D組、高村ゆうこです」
「嘘ついてねぇだろな」
「嘘じゃありません」
店員さんがオロオロした目で私達を見る
他のお客さんが何事かと集まりつつある
早く解放してほしいんだ、嘘なんかつくものか
「…まあいい。嘘だったら意地でも暴いてやるしな」
やめてください
「じゃなタヌキ女。次会うのを楽しみにしとけよ」
「誰がタヌキですか!」
「お前だよ」
バァカ、と鼻で笑って、赤髪少年と他の不良達は大音量でエンジンをふかしながらバイクに乗り去って行った
失礼な奴だ。私がタヌキならあいつなんか火だるまじゃないか
今度会ったら火だるま小僧って呼んでやる
……って、
「(次会うのを楽しみに、とか言ってた…!?)」
確かに言った
人を小バカにしたような目で私を見ながら
「(誰が楽しみにするかっ…!)」
ギリギリと歯を食いしばりながらレジでミルクティーを出すと、店員さんに「ヒッ」と言われた
とんだ災難とはまさにこのことだろう
私はとってもめんどくさいことに足を突っ込んでしまった様だ
何となくイメージの出来上がりつつあった高校生活が、たった一度鞄をぶつけただけでモロに崩れ落ちたのだ
今度あの火だるま小僧に会ったら一発くらい怒ってやろう
そう決意して、私は帰路についた
.
〜あとがき〜
不良さんと女の子の学園モノがやりたくて気付いたらこうなってました
後悔はしていない…!