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「山の中で迷ったりなんかしないさ。こう見えても僕は『立派な鬼』なんだよ。失礼しちゃうな」
と玄関で笠を脱ぎながら角の生えた女の子は言った。
「ごめんさない。そうだったわね」
と薄明の冷たくて柔らかいほっぺたを触りながら白兎姫は言った。
「君は美人なのにもったいないな。こんな山奥に隠れ住むようにして外の世界に出ていかないなんて」
と薄明は言った。
「私は、別に美人じゃないもの」
と(褒められて)ちょっとだけ嬉しそうにしながら白兎姫はいう。
「そんなことないよ。白兎姫。あなたよりも綺麗な人は都にも、あるいはもしかしたら、この国をすべてくまなく歩き回ったとしても、出会うことはないと思うよ」薄明は言う。
薄明に煽てられて、白兎姫はその雪のように真っ白な頬を赤く染めた。
「まったく惜しいな。僕が男の子なら、絶対に君を一人になんてしておかないのにさ」
ふふっと笑いながら薄明は言う。
「もう、薄明ちゃん。お世辞を言っても、なにも出ないわよ」と薄明の荷物を片付けながら白兎姫は言った。
小屋の中には暖かい火の灯ったところがある。
薄明はその火に手をあてるようにして暖をとっている。