ユーチューバーのクリスマス ~哀れな男の末路~
私は、どこで何をしていたか、記憶がなかった。
どうやら、病院風の建物の廃墟にいるようだ。電気は通っておらず、周りを月明りで判断している。
私の足元には、男が血を流して倒れている。サンタクロースの恰好をしているので、いまはクリスマス時期なのだろう。
スマートフォンの通知音が鳴った。画面を確認すると、『ひでお』という名前の人物からメッセージが来ていた。
『この動画を観ろ』
動画ファイルが添付されていた。
*
*
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「ハロー。ゆーちゅーぶ」
若い男が言った。この顔は誰かすぐにわかった。
間違いない。私だ。
「今日は、登録者一万人を記念して、いつもより過激なことしまーす」
動画の中の私は遠景を撮影した。
間違いなく、この廃墟だ。
「何をするかというと、いまから、この男を殺しまーす」
サンタクロースの恰好で、猿ぐつわをされている男がアップで映し出された。
間違いなく、私の足元に倒れている男だ。
私は、躊躇することなく、男の胸をナイフで刺していた。
*
*
*
動画を見終わり、私は呆けていた。
どういう状況なのだろうか。私は、人を殺した後に、記憶喪失になったということだろうか。
ふたたび、スマートフォンの通知音が鳴った。さきほどと同じく、ひでおからのメッセージだ。
『思い出したか?』
短い文章だった。
『誰なんだ? 君は』
私は返信した。
数分後、ひでおからメッセージが返ってきた。
『まだ記憶が戻っていないのか。そこにいろ。今向かっている』
*
コンクリートの床に尻をつけ、私は三角座りをして待っていた。
ガチャガチャと、廃墟のドアを開く音が聞こえた。足音が近づいてくる。
「あっ」
私は驚愕した。
月夜に照らされた男の顔は、私と瓜二つだったからだ。
「その表情を見る限り、まだ記憶がないのは、本当みたいだな」
男は床に転がる死体を蹴った。
物言わぬ、焦点の定まらない目が、私の方に向いた。
「折角、ここまでお膳立てしたのに」
「どういうこと……ですか?」
私は聞いた。
「おいおい。敬語はやめてくれよ」
「状況がわかりません」
私は頭を抱えた。
「あんたが記憶を取り戻すように、あんたが二十年前にしたことを、そっくりそのまま再現したんだよ。さっきの動画は、正真正銘、二十年前のあんただよ」
私は、男の発言に対し、言葉が出なかった。
「ここに転がっている死体は、二十年前の被害者の息子さ」
男は肩を竦めた。
私は、脳がピリピリと刺激されていた。
ああ。そうだった。私は……。
「おいおい。しっかりしてくれよ。あんたは殺人鬼一家の長なんだからな」
そう言って、私の息子の秀雄は笑った。
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