一年目・春・4月7日(月)・朝の選択
選んだのは、灯ちゃん!
悩みに悩んだんだけれど、男の子同士のイチャイチャも大好物ではあるのだけれど、やっぱり女の子同士のイチャイチャも見たいという思いが強かったからってだけなんだけれどね。
クリアしたら、響君ルートも堪能できると信じて、灯ちゃんルート堪能しちゃうぞっと。
まずはプロローグを読み進めないとね。
それもカーソルのお仕事お仕事っと。
本当に大好きだった。
心から愛していたし、ずっと一緒に歩いて行けると思っていた。
でも、運命というのは時に残酷なもので。
ずっとそばにあると思っていた存在を一瞬にして奪ってしまった。
あの粉雪が舞う、冬の晴れたあの日に。
私は世界で一番大切な人を失った。
それ以来私は、粉雪が降る日と、誰かとの距離を必要以上に縮める事が嫌いになってしまった――。
春、入学式の当日。
お父さんが運転する車で私達は喜多原学園へと向かっていた。
後部座席の隣では、双子の兄である響が眠そうに大きな欠伸を放っている。
私と響は二卵性双生児である為、体格も容姿もそこまでそっくりではないけれど、食べ物の好みや他にも好む物なんかは結構似ていると思っている。
「ねみぃ…」
「だから昨日は早めに寝るように言ったのに」
「早く寝ても眠いものは眠いんだよ」
「仕方のない兄さんだな」
「数分違いの差だけどな」
確かに、と頷く私を見て響は一瞬口を閉じて何かを考えこむような仕草を見せた後、もう一度ゆっくりと口を開いた。
「俺達もいよいよ高校生か」
「そうだね。何だかまだ実感わかないな」
「中学とはまた違った新しい出会いも沢山あるんだろうな」
「まあ、そうだろうね。中学までは小学校からの付き合いのある生徒が殆どだったから」
「だよな。……なあ、灯」
「うん?何かな?」
「お前も高校に入ったらまた……」
「よし、校門についたぞ。父さんは車を駐車場に止めてくるから、三人は先に降りて待っていてくれ」
何か言いかけた響の言葉を遮ったのは、お父さんの陽気な声だった。
「ええ、分かったわ。ほら、二人共降りるわよ」
「ああ」
「分かった」
お母さんの言葉に促されて、私達は車を降りて校門の前へと立つ。
「立派な高校ねー。こんなところで青春を送れる二人が羨ましいわ」
「おい、恥ずかしいからやめろって母さん!」
なんて感動しながら校内を門から覗き込むお母さんとそれにツッコミを入れる響を確認してから、私は響に改めて声をかけた。
「響」
「ん?何だ灯?お前も母さんを止めてくれよ」
「いや、さっき車の中で何か言いかけてたでしょ。何が言いたかったのかなって」
「あ、ああ。あれな。…いや大した事じゃないんだけれどな。高校でもまた同じ部活に入るのかって、少し気になっただけだ」
「なんだそんな事か。うーん、どうしようかな。吹奏楽は楽しかったけれど、高校は運動部に入るのもいいかなと思ってはいるよ。響はまた帰宅部?」
「多分な。折角の高校生活、部活で時間潰したくないし」
全くもって響らしい答えだな、なんて思いながら微かに苦笑を浮かべた時だった。
「あ!灯ちゃん!響ちゃん!おはよう!」
と言う聞きなれた声が背後から聞こえてきたのは。
ふり返ると、そこには私の同じ女子の制服に身を包んだ幼馴染みの少女の姿があった。
松波 美鈴。
私と響の幼稚園時代からの幼馴染で、親同士も仲が良く家族ぐるみの付き合いをしているため、もう一人の兄妹とも思っている少女だ。
そして、私の一番の理解者で親友でもある。
ふんわりと柔らかい長髪を背中の中央で一つ括りにして大きなピンク色のリボンをつけている美少女で、性格は私と違って優しく可愛らしくとても女の子らしい。
その為中学自体はとてもモテていたんだけれど、結局誰とも付き合う事はなかったから難攻不落の高嶺の花なんて言われていたけれども。
親友で幼馴染みである私には、美鈴が誰に好意を寄せているかなんてわかり切っているなんて思いながら、響と嬉しそうに話をしている美鈴の姿を見て、二人の邪魔をしないようにそっとその場を離れた。
幼い頃から美鈴が誰を見ていたのかなんて分かっていた。
あの響には美鈴は勿体ないと思わなくもないけれど、好きになってしまったものは仕方ない。
と言っても、響には全く伝わってはいないし、美鈴も伝える気はないようだけれど。
「近すぎても、遠すぎても、想いはなかなか届かないものなのかな」
一人そっと呟きながら、私は校門から未だに楽しそうに中を覗き込んでいるお母さんの所へ移動しようとしたその時だった。
どんっ。
「わっ!?」
「うわっ!?」
小さな衝撃音と共に誰かとぶつかる感覚を覚えたのは。
「すみません。大丈夫ですか?」
立ち止まり、謝罪の言葉を告げながら振り返った先にいたのは、同じ喜多原学園の真新しい制服の身を包んだ男子生徒だった。
私達と同じ新入生だとは思うが、初めて見る顔なので別の中学から来た生徒なのだろう。
「いや。俺の方こそ、御免!少し急いでいて、前見てなかったから!どこも怪我はない?」
「あ、はい。大丈夫です」
「そっか、それなら良かった…って」
私の言葉にそう言って、男子生徒は顔を上げ私の姿を確認する。
それと同時に、男子生徒の表情が一瞬にして驚愕のものと変わり、はっと息を飲む音が聞こえた。
「…えっ、まさか、君は………の…?」
「え?」
呆然とした様子で私を見つめたまま、そう告げてくる男子生徒の言葉が一部聞き取れなくて、怪訝気に首を傾げてしまう。
それと同時に少し離れた場所から、何人かの男子生徒達の集団の方から。
「おい、由希!お前なに入学式からナンパしてんだよ!早く来ないと先に行くぞ!」
という、恐らくは目の前の男子生徒のものであろう名前を呼ぶ声が聞こえ、それと同時に男子生徒は我に返ると。
「な、ナンパとかそんなんじゃないから!今行く!」
慌ててそちらへと向かって返事をした後、申し訳なさげに私の方へと顔を向け直したのだった。
「慌ただしくて御免!急いでるから俺もう行くけど、本当に御免ね。もし後から痛みとか出てきたら遠慮なく言いに来てくれていいから!」
そして、それだけを早口で告げて、男子生徒達の後を追って行ってしまう。
残された私は、思わずぽかんとして立ち尽くしてしまう事になったんだけれど。
「遠慮なく言いに来てって言われても…どこの誰かも分からないんですけど」
呟きながらも私は、立ち去って行った男子生徒の事を、
『なんか変な人だなと思ってしまった
何だか妙に気にかかる人だなと思ってしまった』
ピコーンッ!
『何だか妙に気にかかる人だなと思ってしまった。』
何だか妙に気にかかる人だなと思ってしまった。
全然知らない人なのは確かなのに、何故かはわからないけれど、どこかで会った事があるようなそんな感覚を覚えてしまっていたんだ。
でも幾ら記憶を辿っても、全く思い出せなくてなんだか不可解な気分に陥ってしまう。
けれど、そんな私の疑問は、車を止めてやって来たお父さんの写真を撮るぞという暢気な呼び声によってかき消される事になるのだけれど。
よしよしっと。
これでメインヒーローである彼との攻略開始フラグはちゃんと踏めたな。
攻略人数が多いんだけれど、一応響君にも灯ちゃんにもメインの攻略対象がいて、響君は幼馴染の美鈴ちゃん。
そして灯ちゃんはさっきの男の子がそうなんだよね。
別にメインだからと言ってイベント数とか贔屓されているわけではないんだけれど、ただ攻略するのが一番難しいのが、さっきの彼だから、フラグは確実に踏んでいかないといけないんだよな。
まあ、今はこの優秀はカーソルが付いているから絶対に大丈夫だけれどね!
えっへん!
なんて私は思いっきり胸を張ってやる。
いや、張れないんだけれどさ、カーソルだから胸ないし。
と、そんな事より次は入学式後に場面が切り替わるはず。
とりあえず午前中に灯ちゃんルートで踏まなきゃならないフラグはここだけなんだよな。
美鈴ちゃんとも出会っているけれど、灯ちゃんルートでの美鈴ちゃんの攻略開始フラグが立つのはまだまだ先だからね。
このゲームは、平日は学園で、午前中の休み時間に1回、お昼休みに2回、放課後に3回、街中で寄り道に3回と行く場所を選べるシステムになってるんだ。
発生したイベントによっては1回の行動だけで終わってしまう事もあるけれどね。
土日と祝日、春休み、夏休み、冬休みの期間は、朝・昼・夜とそれぞれ3回ずつ選べるようになってる感じで、その時にどこに行って誰に合うかが重要なんだよな。
まあ、今日はまだプロローグの段階だから、本格的に動くのは明日からなんだけれど、このプロローグ内であと二人、攻略開始フラグが立つ攻略キャラがいるから、昼と夜のターンも気を抜かないようにしないとね。
ファイト、おー!