MY HERO
いくつかのエリアムーヴァーを乗り継いだ先で、その災厄は待ちかまえていた。
「よう、お2人さん。いい雰囲気だネェ。」
見るからに、という感じの3人組だ。年の頃は、ティモシーより1つ2つ年上といったところだろうか。
体を傾けながら、ゆっくり歩いて近づいてくる。
「ちょっとこっちにも、シアワセのおすそ分けしてくんなァイ?」
サラはうんざりした。
(どっこにでもいるんだよな、こういうアホ。)
せっかくいい雰囲気だったのに——。このクソガキども!
人の恋路を邪魔する奴は——って言葉があるんだぞ。ここに馬テレポートしてやろうかしらん。
「いやナニ、ちょっとカード貸してくれるだけでいいんだけどサァ——。」
「それとも、そっちのカノジョ貸してくれるゥ? 変わったコンタクトしてんじゃないの。」
1人が手を伸ばして、イツミのあごを触ろうとする。イツミは睨みつけるようにして体を引いた。
(こンの、アホども! 『イツミ』にインネンつけるたぁ、いい度胸だ。)
サラがESPで軽くお仕置きしてやろうと思ったその刹那、それよりも早くティモシーがイツミをかばうように前に出た。目に決死の覚悟が浮かんでいる。
(こっ、この子ったら・・・。)
サラは感動した。 それが、ESPを使うことを控えさせた。
この小さなヒーローの鼻先で超能力を使うなんて・・・。そんな野暮なこと、できるわけないじゃない?
それに、見かけによらず、意外にティムはケンカが強いかもしれないじゃない?
不良どもの顔つきが変わった。
「おお? 一人前じゃねーか。 けどヨ、女の子の前だからって、カッコつけてると怪我するゼェ?」
ティモシーは・・・・
見た目どおりだった。 ボコボコにやられている。
その間に1人がイツミを羽交い締めにした。好色な思念が伝わってくる。
それでもサラはESPを最低限に絞って、わからないようにティモシーだけに軽いバリアを張り続けてダメージを抑える程度にとどめていた。
「その子を・・・放せ!」
ティモシーは、殴られても蹴られても、イツミを助けるためにこちらに向かってこようとする。決して実ることのない恋を、その相手を、全力で守るために。
サラは歯を食いしばって、ESPの発動を抑えた。
小さなヒーロー。 わたしだけのヒーロー!
サラにがこれまで付き合っては別れた男たちの中に、こんなヒーローはいなかった。どいつもこいつも、結局は自分だけのことしか考えていなかった。
ちくしょう! この姿じゃなくって、あと15年若かったら・・・。それともこれは、ティモシーのこの年齢だからってことなんだろうか?
引きずり戻そうとする不良の手に、ティモシーが思いっきり噛みついた。
「ッッて! こっ、このヤロウ! もう、タダで帰す気はねぇ!」
噛まれたヤツが、近くにあった鉄パイプを拾った。
(もうだめだ。このままじゃ、ティムが大怪我をする。)
イツミの身体が、ぼっ、と光った。
鉄パイプが、ぐにゃりと曲がる。
「がっ!」
イツミの体を羽交い締めにしていた少年の両手両足が、ばん、と凧のように広げられて、そのまま体全体が宙に浮かんだ。
他の2人も同じようになって、宙に浮かべられている。
鉄パイプはさらに、ぐにゃりぐにゃりと曲げられてぐちゃぐちゃに結ぼれた。それが空中で10トンプレスにでもかけられたようにペシャンコになると、地面に落ちてからからと踊った。
「エ・・・エスパーなのか?」
1人が青ざめた顔で、絞り出すように言う。
「そうよ。黙ってれば、いつまでもいい気になって——。その鉄パイプみたいになりたくなかったら、わたしが怒りを抑えていられるうちに目の前から消えなさい。」
イツミはティモシーが聞いたことのないドスの効いた口調でそう言うと、テレキネシスを解いた。
どっ、どっ、どっ、と3人は地面に落ちたが、落下の痛みなどに構っていられないという体で、這うようにしてその場から逃げ出した。
「ティム! だいじょうぶ?」
イツミはティモシーに駆け寄って、治癒を始める。ティモシーの痣や擦り傷がみるみる消えていった。
「エスパーだったの・・・」
「ごめんなさい・・・。隠すつもりじゃなかったんだけど・・・」
「オレ・・・カッコ悪いな・・・。」
ティモシーがうつむき加減に、自虐的な声で呟いた。
「ちがっ・・・ちがう! ティムはカッコいい! わたしの知ってる男の子の中で、いちばんカッコいい! わたし!・・・」
イツミの目が潤んでいる。それはサラの本心だった。
「わたし、こんなふうに守ってもらったの、初めてなの! 人間のカッコよさは力の有る無しじゃない。ここ、っていう時に、どんな行動をとるかなんだよ。
わたしが、なんでESPをここまで使えなかったと思う?」
イツミはティモシーの顔を両手ではさんで、その頬に小さくキスをした。
(ここまでだよね・・・。これ以上は・・・)
イツミの目から、涙がひと粒、ぽろっとこぼれた。
正体を明かせない辛さを胸の奥にしまって、サラはその鳶色の瞳で黄金の瞳を突き抜け、ティモシーの碧の瞳を真っ直ぐに見つめた。
届け! この想い。
それから、ぎゅっと片手で涙を拭うと、戸惑うようにイツミを見つめるティモシーに微笑んだ。
「海、見せて。」