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アズラードの囚人

「12時間。それで必ず帰ってくるように。」

 長官室で、フォー・クセス長官が紅い髪の少女に念を押した。

「はい!」

 少女は黄金きん色の瞳を輝かせて応える。


 少女の名はイツミ。

 ただし、中身はサラ・ファ・ロン・ミマナ連邦軍副長官。変換を終えて、長官室にテレポートしてきたところだ。

 今回のミッションは、テイィ・ゲルの残党狩りのための情報収集と、古くなった『イツミ』のワードローブの整備だ。

 大統領には、テイィ・ゲルの捕縛を含む「一連の作戦」として、フォー・クセス長官が一括して許可をとっている。


 まあ、実態はサラが長官と2人で『イツミ』を運用していくための経験値のアップが目的で、いわば「演習」みたいなものだ。

 しかもその内容たるや、情報収集はオマケみたいなもので、サラの若い感覚を活かして『イツミ』のワードローブの整備をする——というのだから、つまりはショッピングミッション。半分は『イツミ』になっての休暇みたいなものだ。

 もちろんリスクはあるが、そんなことはサラにとっては問題ではなかった。


「残党狩りそのものは、軍のエスパー部隊にやらせるから、君はあくまでも情報を収集してくれればいいよ。」

「はい!」

「あとはショッピングを楽しみながらでいいから、『イツミ』運用時の問題点や感想を整理しておいてくれ。後日、2人でつき合わせてみよう。」

「了、解!」

 少女は明るい笑顔で敬礼すると、その場から消えた。


(さーて、どんな顔をして帰ってくるか?)

 デイヴィはサラに対して、あのイツミ独自の「意識」のようなものについては一切話していない。

 先入観なしのサラの感想を聞いてみたいのである。





 アズラードは最終刑務所と呼ばれる終身刑務所である。そこに入った者は二度と出てはこない。

 ESP中和物質で何重にもシールドされ、極寒の宇宙空間に浮かぶこの人工衛星型刑務所からは、いかなるエスパーであっても脱獄は不可能だった。

 P66恒星系の辺縁軌道を回るこの人工衛星には、人間の刑務官は乗っていない。全ては自動化され、刑務所自体が独立して運営される巨大なマシンなのだ。


 残酷、ということで連邦全体から死刑が廃止されてからというもの、人格調整すら認められない(それは「更生」を認められないということ)凶悪犯が送り込まれる終身刑務所としてアズラードは建設された。


 「更生」を期待されていないのだから、「刑務」も存在しない。

 送り込まれた囚人は、ただ、与えられた4m四方の「個室」の中に閉じ込められるだけだ。あとは何の義務も課されない。

 一見、お気楽なようだが、人間はそういう環境で長く正気を保てるものではない。あらゆる外部の情報から遮断され、自分と部屋だけがある世界・・・。

 たとえ舌を噛み切ったとしても、医療用ナノマシンが自動的に治療を行うので、死ぬこともできない。その生体としての寿命が尽きるまで、この灰色の空間で生かされ続けるのだ。

 はたして、死刑とどちらが残酷だろうか。


 閉ざされた自動化刑務所であるだけに、ほとんどの「善良な」人々はここの実態を知らないが、知れば、あるいは「人権派」の弁護士たちが「死刑復活運動」を起こすかもしれないシロモノだった。


 そんなアズラード刑務所の「個室」で、テイィ・ゲルはずっとぶつぶつと独り言を言い続けていた。

 ほぼ無駄な努力だが、ここに入れられた囚人の多くが、初めのうち、筋トレなどで日々自分に日課を課して正気を保とうとする。

 テイィ・ゲルの場合、それは自身の頭の中にある膨大な物理学の知識を反芻することであった。


 そういうテイィ・ゲルの前に、突如1人の少女が出現したのは、彼が投獄されてまだ3週間と経っていない時だった。


 紅い髪。 黄金の瞳。


「お・・・おまえは・・・!」

 彼を連邦軍に引き渡した、あの名前も知らないエスパーだ。

「どこから・・・入ってきた?」

「そんなの、別にどうだっていいじゃない?」

「幻覚・・・・か?」

「んなわけないでしょ。ちょっと欲しい情報があってね ♪ 」

 少女がテイィ・ゲルの額に指先を触れる。男の額にやわらかな感触があった。


 実体か!?

 ならば、あの時オレを拘束した本人か? このアズラードにも、自在に出入りできるというのか?

 不可能を持たないというエスパー。名前を・・・何とかいう・・・・。思い出せない・・・名前が・・・。

「こ・・・ここから、出してくれ・・・。何でも言うことを聞くから!」

「それ、ムリ。」

 少女は少しだけ気の毒そうな表情を見せたが、それでも言葉だけは冷たく言い放った。

「だって、あなた何万人も殺しちゃってるんだもの。——情報、ありがとね。」


 少女の姿が、ふい、と消えた。

「ま・・・待ってくれ! ここから連れ出してくれ! せめて・・・オレを、殺してくれぇ———!」


 絶望は、それしかない時よりも、わずかな希望が見えて、そして消えた時の方が残酷なほどに深いだろう。

 サラには悪気はない。そういうことを知るには、彼女はまだ少し若く、経験も不足していた。ただ、効率的に残党の情報を手に入れようとしただけに過ぎない。


 あるいはこの残酷な瞬間は、テイィ・ゲルの背中にまとわりついた何万人という亡者の怨念が演出したものなのかもしれなかった。





 サラはアズラードの警備システムが作動しない程度の距離まで離れた宇宙空間に浮かんで、今しがた手に入れた残党の潜伏先情報をフォー・クセス長官にテレパシーで送り始めた。

(も・・・もう少しゆっくり送ってくれ! 『イツミ』の能力ではそれが普通なんだろうが、私の脳がついていかない。)

(あ、すみません!)

 デイヴィもそれなりのエスパーだから、テレパシーの処理速度はかなり速い。それでも『イツミ』のテレパシーの情報量に、普通のエスパーの脳がついてゆくのは無理があった。

(情報量を絞らないといけないんですね。)

(そうなんだ。)


 そうか。前回、わたしと通信している時、長官はちゃんと絞り込んでいてくれてたんだ——。

 サラは、長官のそういう行き届きぶりに感心すると同時に、もう1つのことにも気がついた。

 テイィ・ゲルの脳をスキャンした時、『イツミ』の名前とG弾のデータがまるっとなかったのだ。

 それはつまり、前回の時に長官がそれを消した、ということだ。ならば・・・


 その時にこの情報だって取り出せたはずじゃない? これって、つまり・・・これを口実に、わたしにショッピングさせてくれようっていう、長官の計らい?

 そこまで考えが至ったとき、テレパシーを逆流するようにして悪戯っぽい色を帯びたデイヴィの軽いレスポンスがサラに到達した。

 やっぱり!


 いやあ! 長官、話わかるっていうか——!

 フォー・クセス長官! 大好き ♪


 たぶんサラの無意識だろうが、残党の情報に混じってこのテレパシーが届いたときには、デイヴィは長官室で苦笑した。

 はいはい。嫌われるよりはいいですが・・・。ハメ外すなよ。一応、公務だってことはわきまえてな——。



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