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供え物

作者: 泉田清

 テーブルの上にショートケーキがある。部屋に甘い香りが漂う。

 外は夕方になっても30℃を超えたままだ。朝からそこにあるショートケーキはもちろん、もう食べれない。


 子供の頃、幼馴染の誕生日会で、初めて生クリームのケーキを食べた。あまりの美味しさに「何か気持ち悪い」と感想を述べた。それ以来ケーキは食べてない。美味すぎるものに対する畏れ、があったと思われる。

 そういうわけで今、ケーキが食べれなくなったのは問題ない。前日、スーパーで売れ残ったケーキを目にした時から食べる気はなかった。明日は彼女の誕生日、プレゼントにケーキを買っていこう。と思い出したまでだ。


 「明後日が誕生日なんです!」。二日前の夜、仕事の帰りの車中でラジオをつけると、24歳になる彼女の声がした。彼女はアイドルグループに属している。各方面からお祝いのメッセージが読まれた後、グループの楽曲が流れた。陳腐な曲だ。「この見ず知らずの、彼女の誕生日をお祝いしよう」という考えが浮かんだのはこの時だ。とはいえ具体的なプランは思いつかなかった。帰宅すると、スーパーで思い出すまで、すっかり忘れてしまった。


 夕食の準備をする。ショートケーキはまだテーブルの上にある。今日という日はまだ終わっていない。彼女の誕生日はまだ続いている。

 独り暮らしで五十を超えると誕生日というものに縁が無くなる。自分のでも他人のでも。人付き合いはある。が、誕生日という家族的行事に関わろうとするのは無粋だと思う。久しぶりに「誕生日」というものを意識した。見ず知らずのアイドルのものであっても、傍にケーキがあるだけでいい気分だ。独りの夕食も華やかになる。何といってもショートケーキは見栄えがいい。


 寝る前にケーキを処分する。アイスクリームのように溶ける、という事は無いにしろ、全体が重力に負けくたびれているように見えた。ゴミ袋に突っ込む。

 ガサッと音がする。ドキリとした、これも食品ロス?。いやまて。なら墓前や神前への捧げものもロスというのか?このショートケーキはそれらと何ら変わらぬ。だからといって彼女が亡くなったわけでも、彼女を崇拝しているわけでもない。誕生日会ごっこをしたかっただけだ。


 今日という日を覚えておこう。来年、彼女は25になる。彼女のために新たな捧げものを用意しよう。あの子供の頃以来、二度目のケーキを口にするのも悪くない。

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