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廃工場にて  作者: Sigint
5/13

05

 声がしぼんでゆくのと同時に、暗がりの奥のほうに、ちらりと白いものがあらわれた。

 床だ。

 床の上だ。

 床の上で、白いものがぬたくっている。

 手だ。

 人の手だ。

 ふたつの手が、コンクリートをひっかいている。

 かと思うと、ずずっ、ずずっ、ずずっと床を引きずる音がして、陰から頭がのぞけてきた。

 見おぼえのある顔だった。

 少年だ。

 少女を脅かしていた、あの少年だ。

 それが真っ青な顔をくしゃくしゃにして、上半身裸で、コンクリートの床を這いつくばってくる。

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 肩で息をしながら、二本の腕だけを使って、ずずっ、ずずっ、ずずっと下半身を引きずってくる。

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