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声がしぼんでゆくのと同時に、暗がりの奥のほうに、ちらりと白いものがあらわれた。
床だ。
床の上だ。
床の上で、白いものがぬたくっている。
手だ。
人の手だ。
ふたつの手が、コンクリートをひっかいている。
かと思うと、ずずっ、ずずっ、ずずっと床を引きずる音がして、陰から頭がのぞけてきた。
見おぼえのある顔だった。
少年だ。
少女を脅かしていた、あの少年だ。
それが真っ青な顔をくしゃくしゃにして、上半身裸で、コンクリートの床を這いつくばってくる。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
肩で息をしながら、二本の腕だけを使って、ずずっ、ずずっ、ずずっと下半身を引きずってくる。