12
光一が、翔太を抱きかかえる腕に、ぎゅっと力をこめた。
反対側の圭介が、翔太のベルトをつかみ直して、ごくっと喉を鳴らす。
肩と肩のあいだに埋もれるようにして生えている太い首をかしげて、大男がこちらに歩いてこようとしたとき、がちゃがちゃと騒々しい音が壊れた戸口から入ってきた。
蜘蛛男だ。
手足が異様に長い、あの黒ずくめの男だ。
雑草の中からあらわれ、引きずってきたスクーターを一台、また一台と、工場の隅っこに放り投げると、積み重なっていたバイクと自転車の山がなだれ、埋もれて、すぐに二台とも見えなくなった。
その陰から、見たこともない奇妙な姿をした虫がぞろぞろ這いだし、別の陰へもぐっていった。
「ふふふっ……」
もしかしたら、男ではなく、女なのかもしれない。
かん高い声で笑いながら、あらわれたときと同じように、すべるように暗がりへ消えていった。
向きなおると、ガスマスクの大男が汚れを踏み消しながら、ふたたび歩きはじめた。
そのがっしりした肩の上、天井近くでふわふわと、少年が舞う。
手足をふりまいて、宙を漂うようすはまるで、空を飛んでいるかのようだ。