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廃工場にて  作者: Sigint
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 床から顔をあげ、あたりをゆっくりと見まわす。

 濡れているのか、べたべた光る長髪のあいまから、男の顔がようやくのぞけた。

 黒いゴムの皮膚に、大きなアクリルガラスの目。つきだしたフィルターの口。

 マスクだ。

 ガスマスクをしている。

 ゆらゆらと波打つ髪の陰で、ふたつのレンズが光った。

 腰を落として、大男が用心深そうにふり返る。

 しばらく、あたりを舐めるように見まわしていたが、その動きが一点でとまった。

 こちらだ。

 まちがいなく、こちらを見ている。

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