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「なっ、言ったろ?」
光一が笑って、転がっていた空き缶を踏んづけた。
「いないんだよ、幽霊なんて。ぜんぶでたらめ、ぜんぶウソ」
「でも、見たって言ってたんだよ、悟の兄ちゃんは」
外の光の届かない、工場の奥のほうに目を細めながら、翔太がささやいた。
「はだかの女の人が、ふわふわ飛んでたって」
「こわがらせようとしたんだよ、オレらを」
圭介が、ひび割れた窓ガラスを棒でつつきながら、言った。
「ムリにきまってんじゃん。子どもじゃないんだから、そんなウソつうじないって」
暗がりの隅っこに、山のように積まれたバイクや自転車をぼんやり眺めていた光一が、大きなあくびをして、つまらなそうにその目を窓の外に向けた。
「もう帰ろ。ゲームのつづきやらなきゃ」
圭介が、棒きれを放りだして、両手をはたいた。
「いいな、塾いきたくねえな」
「ちょっと待ってよ」
翔太が、奥の暗がりに目をやりながら、歩きだしたふたりを追いかけようとしたときだった。