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笑い方を忘れた令嬢  作者: BlueBlue
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家族

 湯あみを済ませドレスを着たアリアンナは、王城の居住地区にある居間に通された。国王も王妃も、王太子も揃っている。

「アンナ、さっぱりしたようだね」

金の髪をサラリとなびかせた王太子が、アリアンナをエスコートしてソファに座らせる。


「あの……皆様、お仕事はよろしいの?」

夕方ではあるが、まだ仕事を終わらせるような時間ではないはずだ。彼女の言葉に、国王たちが顔を見合わせ笑みを浮かべた。


「いいんだよ。今日は家族水入らずで過ごす事に決めたから」

王太子は優しい手つきでアリアンナの頭を撫でる。

「家族?」

不思議そうな声を出すアリアンナに、国王が言った。


「これは……最終的にはアリアンナに決めてもらう事になるが」

優しい笑みでアリアンナを見つめる国王。アリアンナの父、ダヴィデに面差しが似ている。

「私とマッシマの娘にならないか?」


「え?」

アリアンナが思わず問い返してしまう。隣に座っていた王太子が、アリアンナの手を握った。


「私の妹になって欲しいという事だよ」

「ジョエル兄様の?」

「そうだよ」


国王が立ち上がり、アリアンナの前に膝をついた。

「その話を進める前に改めて。アリアンナ、本当にすまなかった。迎えに行くのが遅くなってしまったせいでアリアンナを辛い目に合わせてしまった」

頭を下げる国王に、アリアンナは慌ててしまう。

「そんな、頭を上げてください。伯父様は、ちゃんと助けに来て下さったわ」


「いや、本来ならばダヴィデが亡くなったらすぐに迎えに行くはずだった。しかし、不甲斐ない事に身体を壊してしまった私は、完治するまでの間、アリアンナを助けに行く事が出来なかった。それどころが、自分の事に精一杯で忘れてしまっていたのだ」

フルフルと肩を震わせ顔を伏せる国王に、アリアンナが大きく首を振った。


「私はダニエレ伯父様の病が良くなってくれた事が嬉しい。それに今はこうして一緒に居て下さる。それだけで十分」

想像を絶する程の辛い日々を過ごしたであろうに、自身のことよりも伯父を労わる言葉が先に出てくる優しさに感極まった国王は、愛しい姪を抱きしめた。


「ありがとう。私も、アンナを抱きしめる事が出来て嬉しいよ」

そう言った国王の顔が、少しばかり悪い表情になる。


「アリアンナが眠っている間に、ノヴェリアーナ公爵家の事は全て片付けておいたよ。ダヴィデの希望通り、ノヴェリアーナ公爵家は跡継ぎがいないという理由で終わらせた。義母と義姉は、実はノヴェリアーナ公爵家の籍には入っていなかった。ダヴィデは最初からあの二人を信用していなかったのだ。既に二人は元の男爵位のまま罪人として判決が下っている。ボノミーア侯爵もな。あの変態も二人も、仲良く北の炭鉱行きだ」


あの伯父がいない。それだけでアリアンナは心から安心する事が出来た。自然に涙が流れる。

「あ、でも。ドメニカ伯母様は……」

ダヴィデの死後、一度も顔を合わせていない伯母を思い出す。自分の夫が自分の姪を囲おうとしていた事を知った伯母はどう思うのだろうか。伯母の気持ちを考えるとアリアンナの胸が痛くなった。


「それは心配ない。あれはそもそもボノミーア侯爵に愛情があった訳ではないからな。可哀想な男を貰ってやったのだと常に言っていたくらいだ。優秀な息子のドマニと二人で、騎士たちが到着する前に自分の夫を断罪していたらしい」

元々、騎士団で副団長として活躍していたドメニカ元王女は、流石に逞しかったようだ。


「ドメニカもアリアンナを養子にしたいと言ってきたのだがな。侯爵を思い出す事になっては可哀想だと思い留まった」

そう言った国王に王太子が笑った。


「どうしてそこだけ本当のことを言わないのです?アンナ、父上と叔母上はね、どちらもアンナを譲らないって駄々をこねて大変だったんだよ。危うく決闘にでもなりそうな勢いにまでなってね。仕方がないからドマニと私で言いくるめてくじ引きさせたんだ。そうしたら、くじに外れた叔母上が暴れてしまってね。父上の執務室は片付けの真っ最中で仕事にならないんだ」


「それは……」

二人の大人が真剣にくじを引く姿を想像したアリアンナは可笑しくなった。しかし、石膏で固められてしまったかのように表情が動かない。先程も感じた違和感が現実となって自身の前に立ち塞がった。何故なのか理解出来なくて、アリアンナは怖くなってしまう。


「ダニエレ伯父様……私……笑い方がわからない……」


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