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笑い方を忘れた令嬢  作者: BlueBlue
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姫神子の力

 近付いて来たのは、首の周りが少し白っぽい黒竜だった。アリアンナのすぐ目の前に黒竜の鼻先が来る。ジルヴァーノが咄嗟に剣に手を置いたが、銀の竜が視線で制止した。


竜はクンクンと彼女の匂いを嗅いでいる。ドキドキと心臓の早い鼓動を感じながらもアリアンナは一歩も引かず、黒竜のする事を大人しく受け入れていた。彼女の全身の匂いを嗅いだのではないかと思う程、黒竜は長い時間をかけて彼女の匂いを嗅いでいたがやがて、匂いを嗅ぐのをやめ彼女の頬に静かに鼻先を摺り寄せた。そこからは早かった。黒竜がアリアンナに擦り寄った途端、他の竜たちもワラワラと周辺に集まって来て、あっという間に彼女の姿は見えなくなってしまった。


『流石、竜の姫神子。皆に受け入れられたようだ』

ジルヴァーノが安堵の息を吐く。が、すぐに無表情になる。

「え?あの……待って、ちょっと……あっ、ん……」

首筋を鼻先で撫でられ、くすぐったさに、アリアンナの口から艶っぽい声が出てしまう。声を聞いたジルヴァーノはひたすら無表情を貫く。

「だから首はダメって……あん……くすぐったいから」

どうやら野生の竜たちは、スキンシップが激しいようだ。尚も漏れ聞こえる甘い吐息にジルヴァーノは手で顔を覆った。

『勘弁してくれ……』

項垂れながら、こめかみをピクピクさせているジルヴァーノを見て、バカにするようにフンと鼻息を漏らす銀の竜。


岩山の竜の住処が、あっという間に楽しそうな雰囲気に包まれた。


 最初に近寄って来た、首元が白っぽい竜の鼻先に乗せられたアリアンナは、森にやって来た。

「範囲は広くはないですが、思った以上に焼け落ちていますね」

待機していた竜騎士たちと合流して森に入ると、一人が周囲を見渡して言った。

他の者たちも痛ましい表情で辺りを見渡している。全てを焼き尽くす程の火力ではなかったようだが、火をつけられた周辺の木々は炭のようになり、葉も枝も焼け落ちていた。ひどい所は地面も真っ黒になっている。黒竜が悲しげにクウと鳴いた。その声を聞いたアリアンナの胸がツキンと痛む。

『竜たちが悲しんでいる……』

同調したからだろうか。背中がほんのりと温かみを帯びた。


「……やってみます」

今なら竜たちの力になれる気がすると感じたアリアンナがジルヴァーノを見つめると彼は大きく頷いて見せた。

「アンナなら大丈夫です。きっと出来ます」

「……はい」

ジルヴァーノの言葉に更に勇気をもらい、不安は消え凪いだ気持ちになる。

『ジルに言ってもらうと、不思議と出来るって思える』


皆から少しばかり距離を取り、改めて森の中を見る。姿は見えないが、竜以外にもたくさんの動物たちがいる気配を感じた。

『皆、きっと怖かったでしょうね』

もしかしたら、火事の犠牲になってしまった動物もいたのかもしれない。

「辛かったでしょうね……」

そう思ったアリアンナの青い瞳に涙が浮かんだ。


後ろを振り返ると、竜たちがアリアンナを見つめていた。銀の竜もアリアンナを見つめ金色の瞳をゆっくりと瞬きさせた。

『アンナなら出来る』

まるでそう言っているような優しい瞳に、アリアンナは軽く頷いた。


竜たちが見守る中、胸の前で手を組みひたすらに祈った。

『ここは竜たちの大切な住処なのです。それに……竜たちだけではなくたくさんの動物たちも住んでいます。だからどうかお願いです、元に戻ってください。皆が楽しく穏やかに過ごせる森に戻って』


すると、アリアンナの背中が淡く輝き出した。輝きは次第に強くなり、一瞬、目を開けていられない程の輝きを放ち、そしておさまった。


「あっ!」

一人の竜騎士が声を上げた。その声に反応したアリアンナが閉じていた目を開けると、彼女の目の前で、焼け落ちていたはずの木々が元に戻って行く。まるで時間が逆行しているかのように再生して行くのだ。焼け落ちた枝は消え、炭のようになっていた木も元通りになる。見れば焼けた全ての場所で同じような事が起こって、数分後には何事もなかったかのように、青々とした森が広がっていた。


竜たちは嬉しさを表すようにクルルルと謳い始め、気配しか感じられなかった動物たちが木の上を走り回り、鳥たちの囀りが森に響いた。竜騎士たちが手分けして燃えていた場所を確認しに行くと、やはり全てが元通りになっていた。

「良かった。成功したのね」

安堵の声を漏らした途端、アリアンナの足から力が抜けた。予想していたのか、いつの間にかすぐ傍に来ていたジルヴァーノが抱きかかえる。

「アンナ。竜の姫神子。お疲れさまでした」

「はい。元に戻って良かったです」

見つめ合った二人が微笑み合うと、いつものように割って入るかのように、鼻息が二人を襲う。

「ロワ、いい加減に」

いつものように銀の竜を諌めようとしたジルヴァーノの言葉は、最後まで続かなかった。


割って入ったのは銀の竜ではなく、首周りが白っぽい黒竜だったからだ。黒竜の向こうには、馬鹿にしたようにジルヴァーノを見ている銀の竜の姿があった。

「くそ、どいつもこいつも」

悪態をつくジルヴァーノに、アリアンナは笑ってしまうのだった。


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