断罪
立ち上がった王が、シドニアの前に立つ。
「王弟であったダヴィデは、奥方だったナターラが亡くなった時にノヴェリアーナ公爵家を一代限りとした。自分が死んだ時にノヴェリアーナ公爵家は消えるようにしたのだ。アリアンナは名付け親である私が後見人となって、好きな男の元へ嫁げるように、家が重責とならないようにしたのだ」
「は?じゃあ私たちはどうなるのです?」
「おまえたちはそもそも、ノヴェリアーナ公爵の籍には入っていない。ダヴィデはボノミーア侯爵がノベリアーナ公爵家をいいように使おうとしている陰謀に気付いていた。だが、自分が病に侵されていた事で、少しばかり気が弱くなっていたようだ。籍には入れずアリアンナの為に、仮の母親と姉として迎える事にしたのだ」
「なんですって!?」
部屋にシドニアの声が響く。
「まさかアリアンナに暴力を振るような人間……人間なのかも怪しいが、そんな事態になるとは思っていなかったのだろう」
国王はギュッと目を瞑り、大きく息を吐いて再び二人を見据えた。
「ダヴィデが生きている間はいい。だがおまえたちはダヴィデの亡き後、湯水のごとく金を使いまくっていた。ノヴェリアーナの籍にも入っていないおまえたちがだ。これは立派な横領罪だ」
「そんなの。騙されたようなもんじゃない!」
そんなシドニアに、国王は冷たい視線を送る。
「ダヴィデの葬儀をしっかり取り仕切っていれば、すぐにわかった事だったのだがな。おまえは全て当時の家令に任せたままにした。だから知らないままだったのだ」
「だ、だったら!家令が教えてくれないのが悪いのよ。私のせいじゃないわ!」
王太子が声を上げて笑った。
「ははは、その家令をすぐに追い出したのは誰です?紹介状も持たせず、追い出したのは他でもない、あなた方だ」
「そ、それは」
「あれから2年経っていましたからね、探すのに苦労しました。ですがやっと全員と連絡を取る事が出来たのです。彼らには改めて王族から推薦状を書いて持たせました。希望者には王城で働いてもらってもいます」
「さ、これで詐欺罪と横領罪はわかったな。次は暴行罪と傷害罪だ」
王太子の声が低くなる。
「ほとんどは傷害罪でしょう。面倒ですから、全部傷害罪でいいでしょうに」
王太子がひとまとめにしようとすると、宰相が止める。
「別にしている方がいいのですよ。罪の重さだけではなく罪の多さでも裁くことが出来ますから」
ニコリとしながら答える宰相に、王太子が笑う。
「実はあなたが一番怖いですよね」
「恐れ入ります」
「褒めてませんがね」
そう言った王太子は、ヴェリアをジロリと睨んだ。
「よくもあそこまで酷く出来たものですね。王族の血を引く娘を、あんなひどい目に合わせて……出来る事なら同じ目に合わせてやりたいくらいです」
殺気まで出す王太子に、ヴェリアもシドニアもガタガタ震える。
「アリアンナが私たちを見た時の表情を知っていますか?生きているのが不思議なほど生気を感じる事が出来ない有様でした。アリアンナの世話をしていた侍女から聞きましたよ……アンナは死のうとした事があると」
話しているうちに、王太子の身体が怒りで震えた。口調が変わる。
「無抵抗の娘をいたぶるのは気持ち良かったか?一度は生死を彷徨う寸前まで痛めつけたそうじゃないか。どうしたらあんな事が出来るんだ?人としての良識が欠落しているからか?それとも人を害する事で気分が高揚したか?出来る事なら今すぐにでも、貴様たちをボコボコにしてやりたい……」
王太子の拳が真っ白になる程、強く握られた。そんな王太子の手を、宰相がそっと解く。そして二人の前に立った。
「全てを踏まえて、あなた方二人は北の鉱山へ行ってもらう事になります。北の鉱山で下働きをするのです。期間は無期限。下働きとは、鉱山で働く者たちの部屋の掃除、洗濯、汚物の除去、その他諸々の雑用全てです。あ、そちらにはボノミーア元侯爵も鉱夫として行かれますよ。親子三人でゆっくりとお会い出来ますね。精々、彼に守ってもらう事です。北にいる鉱夫たちは、皆犯罪者です。気の荒い連中ばかりですので……無事に生活できるといいですね」
宰相がいい笑顔で言った。