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笑い方を忘れた令嬢  作者: BlueBlue
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拒絶

 ふと、フィガロ王子はジルヴァーノの隣にアリアンナがいる事に首を傾げた。

「団長殿。アリアンナ嬢はここにいていいのですか?いくら竜に好かれていると言っても、少々危険では?」

ジルヴァーノとアリアンナが顔を見合わせ笑う。

「アリアンナ様はいいのです。逆に、屋敷に入ってしまった方が銀の竜の機嫌を損ねますから」

「そう、ですか?」

王子はいまいち納得が出来ない様子のまま、竜が飛んでくるであろう上空を見上げた。ほどなくして、遠くに飛翔物が目に入る。それはグングンと近付いて、あっという間に屋敷の真上で黒い大きな影となった。

『お、大きい』

フィガロ王子が思っていたよりも遥かに大きい。そんな竜に、王子は少しだけ恐怖心が湧いてしまう。


数度、上空を旋回した銀の竜は、そのまま真っ直ぐに庭に降り立った。そして当然のようにアリアンナの頬に鼻先を摺り寄せる。

「ロワ、いい子ね」

アリアンナもいつものように、鼻先を撫でてやる。

「す、凄いな」

なんの躊躇もなく竜に触れるアリアンナの姿に、王子がぼそりと呟いた。そして自分も触れてみようと一歩近付く。

「私も……」

そう言いながら手をそろりと伸ばす。だがその途端、銀の竜は大きく咆哮した。威圧こそなかったが明らかに拒絶をしたのだと、竜をよく知らない王子ですらわかった。その様子を黙って見ていたジルヴァーノが小さく息を吐く。

「どうやらダメだったようですね」

「何故だ!?」

訳も分からず拒絶された事に怒りを露わにした王子だったが、再び大きく咆哮した銀の竜に怖気づき身を竦めてしまった。


「竜がどのような基準で人を選んでいるのかはわかりませんが、一度拒絶されてしまうとどんなに努力しても、受け入れられる事はありません」

「なんだって!?では、もう竜には?」

「残念ですが、乗る事はおろか近寄る事も出来ないでしょう」

突き放すような言い回しのジルヴァーノに、憤慨した王子が掴みかかろうとすると、銀の竜が大きく息を吸い込んだ。

「いけない!ダメよ、ロワ!」

危険だと察知したアリアンナが慌ててロワを止めた。

「フィガロ殿下、もう離れた方が。銀の竜が怒り出しています」

「しかし、私は!」

アリアンナの忠言に、納得いかないフィガロ王子が食い下がった。

「殿下、この子に認められなかった以上、これ以上ここにいるのは危険です。どうかここからお離れになってください」

尚も言い募るアリアンナに、王子はガックリと肩を落とした。


「……失礼する」

そして、そのまま去って行ってしまった。


目障りなものがいなくなったとばかりに、途端に嬉しそうに甘えて来る銀の竜を見て、アリアンナは溜息を吐く。そしてジルヴァーノを軽く睨んだ。

「ジル……わかっていましたね」

すると、ジルヴァーノがニッコリと微笑んだ。

「はい、勿論です」

「何故拒絶するとわかったのですか?」

ジルヴァーノは銀の竜の好みを把握しているとでも言うのだろうか。不思議に思うアリアンナに、今度は不敵な笑みになったジルヴァーノ。

「アンナ、あなたのせいですよ」

「え?私?」

どうして自分のせいなのか。彼女には見当がつかない。そんな彼女を見たジルヴァーノは小さく微笑み、自分の肩を突いてみせた。

「お分かりになりませんか?これですよ」

そして今度は、赤くなっているアリアンナの肩にそっと触れた。

「アンナに傷を付けたのがフィガロ殿下だと、ロワは初めから気が付いていたんですよ。だから最初から受け入れる気なんてなかったんです。おそらく旋回している時に気付いたのでしょう。降りた時にはもう、機嫌が悪かったですから」


してやったりという表情をしているジルヴァーノの顔を見たアリアンナが何かに気付いた。彼と銀の竜を交互に見る。

『似ているわ』

今の銀の竜と、ジルヴァーノの表情はよく似ていた。

『まるで悪戯兄妹みたい』

アリアンナの口元が緩む。そのままクスクスと笑ってしまう。

「もう、ロワもジルも。仕方がないんですから」


ところが、そんな風に笑うアリアンナに対して、真剣な顔になるジルヴァーノ。触れていた彼女の肩を見て小さく舌打ちした。

「その忌々しい痣を、一刻も早く消し去りましょう」

彼の言葉が終わるのと同時に屋敷の扉が開く。中からスラッとした白髪交じりの紳士が、薬を載せているらしい銀のトレーを持ってこちらにやって来た。


「え?」

紳士の姿を見たアリアンナが固まった。

「嘘……」


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