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笑い方を忘れた令嬢  作者: BlueBlue
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 ロワに吹き飛ばされた件から約3カ月程経った。未だにピアの心はアリアンナに対する憎しみで染まっていた。初めのうちは同情していた友人たちも、あまりの執着ぶりにうすら寒いものを感じるようになり、いつの間にかピアの周りには人が寄らなくなっていた。


そんな中、未だに彼女と付き合っている男子生徒が一人。この国の北東で隣接している国、メアラーガ王国の第三王子だ。昔からの友好国であるメアラーガ王国。その第三王子であるフィガロ・キエーザは、交換留学生としてやって来ていた。あちらの国には今、第二王子のジューリオが留学に行っている。


午後の休憩時間。夏を感じる風に当たりながら、ピアとフィガロ王子は中庭のベンチに腰掛けていた。

「君のアリアンナ嬢に対する恨み言は、もう何度聞いたかわからないくらい聞いているけれど……何度聞いても逆恨みですよね」

ケラケラと笑うフィガロ王子をピアは思い切り睨んだ。

「逆恨みなんかじゃないわ。あの人がロワを手懐けて、ジル様を誘惑したのよ。あの人が全ての元凶なの。あの人さえいなければ、ロワはきっと私と仲良くなったし、ジル様も結婚してくれると言ったはずなの」

そう言い切るピアを見て、フィガロ王子の笑い声が更に大きくなった。

「あっははは、どうしてそんなに都合よく考えられるんでしょう。でも、君のそういう自己中心的な所、嫌いじゃないですよ」


そんなフィガロ王子は、笑いがおさまると今度は溜息を吐いた。

「ああ、僕も一度でいいから竜舎に行ってみたいですねぇ」

王子のセリフに今度はピアが笑い出す。

「ふふふ。いくら友好国の王子でも、竜舎に入る事なんて出来ないに決まってるじゃない」

馬鹿にしたような口調のピアを、フィガロ王子が軽く睨む。

「そんな事はわかっています。でも、竜さえ手に入ったら……王になる近道なんですよね」

「あっはは、例え竜が手に入ったとしても無理でしょ。もう第一王子殿下が王太子になっているんだもの」

メアラーガ王国の王太子は、第一王子に決定している。フィガロ王子が留学する直前に決定した事だ。しかし、フィガロ王子は大きく首を振った。

「それでも、ですよ。竜騎士団はどこの国でも喉から手が出る程欲している組織なんです。しかし、どういう訳か竜はこの国でばかり多く生息している。そんな竜を見事に手懐けて、国まで連れ帰ったりしたらきっと、僕の評価は一気に跳ね上がります」


興奮気味に語ったフィガロ王子が、今度は真剣な表情でピアに詰め寄る。

「ですからピア嬢。なんとか竜舎に入れるように手を回してくれませんか?」

請われたピアの方は表情を暗くした。

「無理……禁止されてしまったもの」

「ですよねぇ……」

暫し無言になる二人。そんな空気を変えたのは、何か考えを巡らせているらしいフィガロ王子だった。にんまりとした笑みを浮かべてピアを見る。

「では、アリアンナ王女に会う算段を付けてくれませんか?」

「アリアンナ様に?」

「そうです。アリアンナ王女と親しくなれたら、もしかして竜舎に連れて行ってくれるかもしれないですし。僕の魅力でアリアンナ王女を落とす事が出来たら、君のジル様でしたっけ?その人とどうこうなる可能性はなくなりますよ」


そんな都合のいい事があるものかと訝しげな顔でピアは、まるで品定めでもするかのようにフォガロ王子を見る。

「……フィガロ殿下の魅力で、アリアンナ様を落とす事が出来るかしら?」

濃茶の髪に水色の瞳。顔の作りは悪くない。学園でも人気が高いのも事実だし、背は低めだけれど何と言っても王子だ。


瞬時にピアの頭の中の計算機が作動した。そしてニヤリとした笑みを浮かべる。

「いいわ。おば様に上手い事言って、アリアンナ様が参加するであろう、お茶会か夜会を聞いてくる」

「ふふ、お願いします。上手く行けば、僕も君もハッピーになれるかもしれません」

「なんとしても上手く行かせなさいよね」

二人は互いに上手く行った未来を想像して笑った。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「綺麗」

アリアンナは銀の竜の足元にある卵を見つめた。淡く銀に光っている卵は、思った以上に大きかった。


「ロワ、凄いわ。ママになるのね」

アリアンナが笑顔で言えば、銀の竜は嬉しそうに金の瞳を閉じた。


「竜の卵と言うのは、孵るまでに1年以上かかるんでしたよね」

ドマニの言葉に驚いたアリアンナが、ドマニと卵を交互に見た。

「1年以上?その間、ずっとロワがこの卵を温め続けるの?」


アリアンナの言葉に、王太子とドマニが笑った。笑いながら彼女の頭を撫でる王太子。

「ははは、そうじゃないよ。卵は温めなくてもいいんだ。ドラゴンというのはね、そもそも雌雄というものがないんだよ。群れの中で優秀な竜が自然と卵を産むんだ。そして、群れ全体で卵が孵化するまで大切に守るんだよ。時が来れば自然と孵化する。生まれた後も、皆で子育てをするんだ」


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