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笑い方を忘れた令嬢  作者: BlueBlue
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襲われていた竜

 王太子たちが冒険者たちを捕縛し終わった頃。

「ロワが呼んでる……」

突然そう言ったアリアンナは、一目散に走り出した。一緒にいた竜騎士たちが慌てて呼び止めるが、アリアンナは止まらない。1頭の竜が、アリアンナを追い鼻先で掬った。そのまま銀の竜の方へと飛ぶ。


「ロワ!」

銀の竜がいる場所まで来たアリアンナがロワを呼んだ。彼女の声に一番慌てたのは王太子だった。

「アンナ!?どうしてここに?」

悪い顔を急いで戻す。


「ロワに呼ばれたの」

竜の鼻先から降りたアリアンナが、銀の竜の傍に駆け寄った。

「危ない!」

慌て過ぎて足がもつれたアリアンナを、銀の竜から降りていたジルヴァーノが慌てて支える。

「ごめんなさい、ありがとうございます」

「いいえ、落ち着いてください」


ジルヴァーノの言葉で、自分が慌てていたのだと気付いたアリアンナは、大きく息を吐く。そして改めてロワに近づいた。

「ロワ、私を呼んだ?」

銀の竜は瞳をゆっくりと閉じた。そして目線で自分が匿っている竜を指す。

「その子は……」


銀の竜の下で、明らかに怯えている様子の竜。襲われた竜だ。このままではパニックになって誰彼構わず襲ってしまうかもしれない。アリアンナは、若い竜にそっと話しかけた。

「大丈夫、大丈夫だから。皆、あなたを助けに来たのよ。良かったわ、間に合って」

話しかけながら少しずつ近付いていく。ジルヴァーノも王太子も、他の騎士たちも、捕らえられた冒険者たちでさえ固唾を飲んで見守っていた。


「あれは……」

王太子がボソリと呟く。ほんのりだが、アリアンナの背中が光っているように見えたのだ。ちょうど竜の紋様がある辺りだった。


近付きながらアリアンナはそっと、若い竜に向かって手を伸ばした。ピクンと震えた竜だが、こわごわと彼女の手に鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。すると、ぎこちなくも自分から鼻先をアリアンナの手に擦り付けた。


「良かった。もう大丈夫」

アリアンナはそのまま軽く鼻先を撫で、そのまま鼻先に顔を寄せた。竜は小さく「キュウ」と鳴いた。


息を詰めて見ていた皆から、安堵の息が洩れる。


「あなたの仲間が今何処にいるかわかる?ちゃんと皆と合流出来る?」

竜に話しかけると、竜は首を伸ばすように上を見上げた。

「迎えに来ていたのね」

釣られるように見上げれば、逃げたはずの2頭の竜が戻って来て、上空を旋回していた。


「良かった。ケガもないようだし、仲間の元に戻って大丈夫ね。もし何かあったら、この子の気配を辿っていらっしゃい。いつでも助けになるわ」

そう言って銀の竜を指さすと、若い竜は分かったとばかりに首を下げ、再び首を上げて飛び立って行った。


「竜の方は大丈夫そうだね。人嫌いにならなくて良かった」

アリアンナがいつまでも飛び立った竜を見送っていると、王太子がニッコリ笑った。

「それからアンナ。これからちょっとこいつらとお話しなきゃならないんだ。アンナはドマニの所に行って待っておいで」


「ええ、わかったわ」

素直に了承したアリアンナは、先程乗せてくれた竜の鼻先に再び乗せてもらい、ドマニの待つテントへと向かった。


アリアンナの姿が見えなくなると、王太子は捕らえられた冒険者たちの方へ向き直る。

「ふふふ、おまえたち、ラッキーだったね。綺麗だっただろう、私の妹は」

すると、数人の冒険者たちがコクコクと頷いた。

「だろう?我が国の宝をその目で見ることが出来たのだから、心置きなく死ねるね」

そう言った王太子の顔は、再び黒い笑みを浮かべていた。


「馬鹿な!?別に殺した訳でもないのに、死刑になる訳ないはずだろう」

アリアンナがリーダーだと言っていた男だった。

「へえ、そう思う根拠は?」


「俺たちは正式に、ギルドからの依頼でここに来た。入国の際も何の問題もなく入ったし、ギルドの依頼書だってある。それなのに処刑されるなんておかしいだろ」

「へえ、依頼書、持っているんだね。じゃあ見せてもらおうか?」

「は?拘束された状態で、どうやって見せろって言うんだ?」

アリアンナがリーダーと言っていた、長い黒髪の男だ。拘束されている状態なのに挑発的だ。

「ああ、そうだね。ではこちらで取ってあげるよ」


王太子の言葉を合図に、ジルヴァーノがリーダーの男の前にしゃがんだ。

「何処に入っている?」

「胸の内ポケットだ」

言われた通りに、男の上着の内ポケットを探る。

「ないぞ」

「あれ?表のポケットだったか……」

馬鹿にしているのかとぼける男。すると、ジルヴァーノの目付きが変わった。

「面倒だな。死んだ方が探しやすいか?」

そう言いながら殺気をリーダーの男に向ける。更にその男を見下ろすように銀の竜がやって来た。


銀の竜はブレスを吐こうと身構える。冒険者の男たちから「ヒッ」と声にならない悲鳴が上がった。


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