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笑い方を忘れた令嬢  作者: BlueBlue
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空の旅

『美しいな』

眩いほどの笑みを浮かべ竜たちを撫でているアリアンナを見て、自然とそんな風に思ってしまう。そしてふと、初めてアリアンナがここに来た日の王太子の言葉を思い出したのだった。


「どうだ?素晴らしいだろう、私のアンナは。欲しいなら死ぬ気で頑張れ」

どうしてそんな事を言われたのか、ジルヴァーノには王太子の考えがわからない。だが、アリアンナが素晴らしい女性であるという事はわかる。呆けるようにアリアンナを見つめる。


銀の竜がジルヴァーノに気付き、彼の方を見た。他の竜も釣られるようにジルヴァーノを見た。アリアンナも例外なくジルヴァーノの方に目を向ける。

「あ、ジルヴァーノ様。お邪魔しております」

遠くからでもわかるように、ジルヴァーノの方に身体を向けペコリとお辞儀をしたアリアンナ。


知らず知らずのうちにジルヴァーノの顔が赤らんだ。増々、彼女から視線が外せなくなる。

『定期連絡のレポートをまとめ上げねばならないのに』

自分に言い聞かせるが、なかなか踵を返して事務所に戻る事が出来ない。気付けばアリアンナの傍まで来て、一緒に竜の鼻先を撫でていた。


「ジルヴァーノ様も竜たちを撫でる事が出来るのですね」

アリアンナが微笑むと、慌てたように首を振るジルヴァーノ。

「いや、これはきっとアリアンナ様がいるから……普段は、ロワ以外は簡単には触らせてくれません」


「そうなのですか?」

首を傾げるアリアンナに、ジルヴァーノの心が落ち着かなくなる。

『一体どうしたって言うんだ?』

自分で自分に問うていると、アリアンナが質問をしてきた。

「竜たちに乗るのはどんな感じなのですか?」


思ってもみなかった質問に、現実に引き戻される。

「そうですね。爽快ではありますね。竜たちは風を操る事が出来るので、意外と安定しているのですよ」

「そうなのですか?いいですね、羨ましいです」

「アリアンナ様、竜に乗りたいのですか?」

「はい。でも竜騎士に女性がなれるとは思えませんし……夢ですね」


残念そうに少し俯いたアリアンナの姿にジルヴァーノは驚いた。

『この方は本当に竜に乗りたいと思っているようだ』

初めてだった。女性でそんな事を言い出す人がいるなんて。ここには自分の母や他にも何人か望まれて女性を連れて来た事がある。だが皆、大きいだの怖いだのと言って、すぐに退散していった。竜たちも、全く受け入れる姿勢は見せなかった。


唯一、母親とドメニカ副団長だけは近くまで行く事を許されたが、それ以上は受け入れられなかった。


「ロワはきっと、陽の光に当たってキラキラして綺麗なのでしょうね」

銀の竜を撫でながらうっとりするアリアンナに、再びジルヴァーノの心が落ち着かなくなった。


 その時。ジッとアリアンナを見ていた銀の竜が、突然首を下げたのだ。

「ロワ?」

ジルヴァーノが声を掛けると、銀の竜はアリアンナを鼻先に乗せた。

「まさか!?乗せると言っているのか?」

すると、ジルヴァーノを見つめた金の瞳がゆっくりと瞬いた。

「本当かよ」


鼻先に乗せられたアリアンナは戸惑っている。

「ロワ……いいの?」

アリアンナが問うと、銀の竜は彼女をそのまま背中に乗せた。

「鞍も着けずにか?」

ジルヴァーノが聞くと、再び金の瞳を瞬かせる。そして、おまえも早く乗れと言わんばかりに首を下げた。


二人を乗せた銀の竜は、そのままふわりと飛び立つ。驚いた事に、六頭の竜たちがまるで銀の竜を守るように両サイドに一頭ずつ、前と後ろに二頭ずつ。陣形を取って一緒に飛んだ。


あっという間に城が豆粒ほどの大きさになる。

「凄い、凄いわ!」

アリアンナは突然の空の旅に、怯えるどころか興奮した様子だった。


「アリアンナ様、私の腕にしっかりと掴まっていてください」

鞍がないため落ち着きどころがわからない。だからと言って、前にいるアリアンナを落とす訳には死んでもいかない。なんとか銀の竜の風を操る力を借りて、首元の鱗に掴まる。


「とっても速いのね。凄い!雲の間を飛んでいるわ」

嬉しそうなアリアンナに、ジルヴァーノは笑ってしまった。

『本当に物怖じしない方だ』

飛んでいる竜たちも心なしか、楽しそうに見えたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] まさに「いま、あなたのために飛ぶ」を彷彿とさせるお話です(※「ウォーターシップダウンのうさぎたち」カモメのキハールの台詞)
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