誕生日
アリアンナが王女となって数ヶ月が過ぎた。
「とっても綺麗よ、アンナ」
王妃が我が娘を満足そうに見た。
「これは私からよ」
伯母であるドメニカが、アリアンナのハーフアップに結われた髪に飾りをつける。
「ありがとう。お母様、ドメニカ伯母様」
青いドレスに青い宝石のついた髪飾り姿のアリアンナ。
「やっぱりアンナの瞳には負けるわね」
ドメニカが残念そうに肩を竦めた。
「そうね。この国の至宝とまで言われる青ですもの。同じ青はなかなか見つからないわ。デザイナーたちも躍起になって探したらしいけれど、同じ色には辿り着けなかったって、悔しがっていたもの」
肩を落とす二人にアリアンナが焦ってしまう。
「どちらもとっても素敵よ。本当よ。とっても嬉しいわ」
「ごめんね。アンナに気遣わせてしまったわ」
ドメニカがアリアンナを優しく抱きしめた。
「本当に嬉しいの。誕生日を祝ってもらうなんて久しぶりよ」
相変わらず表情は変わる事はないが、真っ青な瞳がキラキラ輝いている。
「私も楽しいわよ。王家には女児がなかなか生まれてくれないから。アンナが生まれた時は、私の時以上に王都がお祭り騒ぎになった程だもの」
「そうだったわね。私も女の子がどうしても欲しくなったのを覚えているわ。でも結局男の子だったのよ」
国王と王妃の間には、もう一人男子がいる。第二王子であるジューリオは、アリアンナの一つ下で現在は、隣国に留学している。
「いいじゃない。今はこんなに可愛らしい娘がいるのだもの。私の娘にしたかったのに」
「ふふ、まだ言っているのね。ダニエレに笑われるわよ」
「いいのよ。最近は新たな野望が出来たから」
「野望?」
ドメニカがアリアンナの前に立つ。
「ドマニのお嫁さんにならない?今すぐじゃなくていいのよ。いつか、お嫁に行ってもいいって思えるようになったらでいいから考えておいて」
「あ、それはズルいわ」
王妃とドメニカが笑いながらじゃれている横で、アリアンナは考えていた。
『結婚は正直、諦めている。こんな傷物を好き好んで受け入れてくれる男性なんていないもの。でももし……もしそれでもいいって言ってくれる人が現れたら……』
しかし、すぐにその思考を打ち消し、二人の美しい母と伯母を宥める事にするのだった。
「内輪だけでと、言っていなかった?」
ホールに到着したアリアンナは、たくさんの人がいる事に驚いてしまう。
「あはは、ごめんね、アンナ。本当に内輪だけで祝う予定だったのだけれどね、何処から聞きつけたのか、招待もしていないのにワラワラと集まって来ちゃってさ」
エスコートするようにアリアンナの手を取った王太子は、困ったと言いながらも楽しそうに笑っていた。
「こうなるであろうと予測していたくせに。本当に内輪で祝うつもりなら、ホールを使う必要なんてなかったでしょうに」
ドマニがぼやきながら、反対の手を取る。
「アンナ。とても綺麗だね。これは虫よけするのが大変そうだ」
ドマニの言葉に王太子が真顔で答える。
「それは兄である私と、従兄であるドマニ、おまえとで頑張るんだよ」
王太子の言葉に、ドマニがニヤリとした。
「勿論、けちょんけちょんに言い負かしてやりますよ」
「ドマニの口撃は、誰も勝ち目がなさそうだ」
主役であるアリアンナが登場した事で、国王が始まりの言葉を述べた。
「アンナ、こちらへおいで」
普段の重厚な雰囲気どころか、威圧も何もない甘い響きで娘を呼ぶ国王に、集まった者たちが口をあんぐりと開けて呆けている。
「父上、王の威厳は何処に置いてきてしまったんです?皆が驚き過ぎて固まっていますよ」
王太子の言葉に皆がどっと笑った。
「娘を呼ぶのに威厳などいらん。大体どうしてこんなに集まった?本当なら家族だけで娘の誕生日を祝おうと思っていたのに」
国王の言葉に再び、皆が固まる。そんな中、高笑いする声が聞こえた。
「ほほほほ。兄上の考えなどお見通しですわ。絶対にそう考えているだろうと思ったから邪魔してやったのです」
ドメニカだった。王妃と共に現れる。
「ごめんなさいね。ドメニカには勝てなくて」
にこやかに微笑む王妃の美しさに、ホール中からため息が零れた。
「こうなった以上仕方がない。今日は娘であるアリアンナの16歳の祝いだ。食事や飲み物も十分に用意されているだろう。存分に祝って楽しんでくれ」
国王の半ば投げやりな言葉に、ホール中が湧いた。




