80話 探偵、魔王とナルリスの攻略法を語る 1
ここから解答編です。
“――”で始まる文章は過去の話からの引用です。
地下迷宮を調査した日の夜。
俺は妖精の森で、アマミとルチルを前に立っていた。
夜が早い妖精たちは、すでに寝静まっている。
静かな森の一角で、光魔法がほのかに照らし出す中、アマミとルチルが座っている。
そんな2人を前に、俺は左右白黒のスーツに帽子――いわゆる探偵スタイルで立ち、今から推理を語り始めようとしていた。
「さて、明日だ。明日、俺たちは魔王を倒し、宝石人達を救い出す。やり方は推理で導き出した。その推理をこれから語る」
俺の言葉に、ルチルが「い、いよいよなのじゃな……」と息をのむ。
俺は話を続けた。
「本題に入る前に、まず一度状況を整理しようか。俺たちの目的は魔王討伐と宝石人救出だ。これらを実現するには、大きく分けて3つの謎を解かなければならない。何か分かるか?」
アマミとルチルが「えっと……」と考え込む。
先に答えたのはアマミだった。
「ええっと……第1の謎は『魔王のところにどうやって行くか?』ではないでしょうか?
魔王は地下迷宮のどこかにいますが、どこにいるのかは分かりません。地下20階の扉を開けた先にいる、とも言われていますが、扉は宝石のパズルのようなものでロックされていて開けられません。
この魔王を見つけ出す方法が第1の謎です……合っていますか?」
アマミの言葉に、俺は「正解だ」とうなずいた。
次に口を開いたのはルチルだった。
「第2の謎は、その……身内の話で申し訳ないが『宝石人達をどうやって救出するか?』じゃろうか?
宝石人達はナルリスに操られておるから、何らかの手を打たないと救い出せないのじゃが……悔しいが、その方法がわからぬのじゃ」
俺は再び「正解だ」とうなずいた。
高レベルのS級冒険者で、いざとなれば宝石人達を自爆させることもできるナルリス。
そんなナルリスを倒すなり何なりして、宝石人達を全員無傷で救い出すには推理が必要だ。
では、最後の謎は何か?
アマミが口を開いた。
「第3の謎は、当然、『魔王をどうやって倒すか?』ですよね?
ジュニッツさんの旅の目的は魔王討伐なんですから。
もっとも、魔王は強いです。目つぶしのスミや、強力な風の刃を放ってきますし、何より全身を破壊の粒子で覆われていて近づくことすら難しいです。S級冒険者のレコさんとキーロックさんの全力攻撃を、全く受け付けないほどです。
どうやって倒せばいいのか、さっぱりですよ。
これが最後の謎ですよね?」
アマミの言葉に、俺は「その通りだ」とうなずいた。
「まとめると、今回解かなければならねえ謎は、この3つだ。
1つめ。魔王のところにどうやって行くか?
2つめ。宝石人達をどうやって救出するか?
3つめ。魔王をどうやって倒すか?
今回、俺は1つめ、2つめ、3つめの順で推理を語ろうと思う」
ルチルとしては一刻も早く宝石人の救出方法を聞きたいだろうが、この順で語るのが一番話の流れとして分かりやすい。彼女には少し我慢してもらう。
ルチルも、俺の考えを察したのか、
「ジュニッツ殿の話しやすいように話して欲しいのじゃ」
と言った。
さて……。
ここからが本題。
推理を語る時だ。
まずは第1の謎、魔王の見つけ方だが。
「アマミ」
「はい」
「俺達は魔王の居場所が分からねえ」
「ええ」
「行きたいところの場所が分からない時、アマミならどうする?」
「うーん……地図を買います」
「地図はない」
「だったら……知ってる人に聞きます」
俺は「そうだ」とうなずいた。
「魔王も同じさ。知ってるやつに居場所を聞けばいい」
「えっ? で、でも、そんなの誰が知っているんですか?」
「レコさ」
別段、たいした話ではない。
書庫で読んだ、レコとキーロックによる魔王との戦いの記録。
その記録の中で、レコはこう書いている。
――もっとも今冷静に考えれば、迷宮には攻略法があった。
――つまり、迷宮の構造がどう変わろうと、その攻略法にしたがえば、簡単に魔王のところにたどりつけるのだ。
――攻略法は、ついさっき気づいた。
迷宮には攻略法があるのだ。
その攻略法をレコは知っている。
レコ本人は亡くなっているが、彼女の残した記録がある。
「無論、俺達が読んだ記録の中に、その攻略法は、直接は書かれていなかった。だが、間接的にであれば、攻略法が書かれているかもしれねえ。よく読んで推理すれば、それが分かるかもしれねえ。そう思ったんだ」
たとえば、仮に魔王の部屋が常に北西の端にあるとして、そのことが直接書かれていなくても、『魔王の部屋は暑い』、『地下迷宮は全体的に涼しいが、北西の端だけいつも暑い』と書かれていれば、魔王の居場所を間接的に読み取ることができる。
こういう手がかりがあるのではないかと思ったのだ。
「それで……どうだったのです?」
アマミがたずねる。
「残念ながらダメだった。間接的にでも、魔王の居場所を示す手がかりは見つからなかった。……だが、その時、俺はごく当たり前のことを思い出したんだ」
「というと?」
「レコの記録には2つの特徴があるんだ」
単純で明白な2つの特徴。
1つ目は、記録が断片的ということだ。
レコの記録は、あちこちが欠けている。
――アマミが言うには、レコの資料には後から町の役人が付け加えた注意書きがあり、それによると、資料はレコ自身の血でぐしゃぐしゃになって読めなくなってしまっている部分が結構あり、今残っている資料は断片的なものだという。
記録が欠けているということは、当然大事なことが書かれていない可能性がある。
そのことを前提として読まなければならないということだ。
2つ目の特徴は、レコがエルンデールの民ということだ。
彼女は生まれてからずっと、エルンデールの町から遠く離れたことはない。
彼女自身がそう言っている。
――わたしが生まれたのは内陸にあるエルンデールの町であり、生まれてからずっとこの町の近辺から出たことがない。
当然、エルンデール人としての常識・価値観で記録は書かれている。
「2つとも当たり前と言えば当たり前のことだが、ともあれ、この2つの特徴を踏まえて、改めて記録を読んだ。すると、1つの文章が気になった」
それは、レコがキーロックの外見を描いたこの文章である。
――真っ赤な短髪を逆立たせ、オレンジの色の瞳をギラギラさせ、深紅の鎧を身にまとい、朱色の大剣を武器にする。
ここには、ある1つの事実が隠されているのだ。




