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31話 探偵、行き倒れに出会う

<三人称視点>


 ゴドフ伯爵という男がいる。

 年齢は50歳。自ら剣闘大会に出場するほどの武闘派だ。

 伯爵は、戦闘能力の高い人間が好きである。伯爵領で最強の『剣の魔王』という名の魔王のことを、「魔王様」と呼んで崇拝するほどだ。


 いっぽう、レベルが低くて戦闘が苦手な人間のことを、虫けらのように嫌っている。


「ふん、低レベルのゴミどもは、皆殺しにするのが正しいのだ。世の中をきれいにしてやるのだ」


 常々、そう口にしている。


 その言葉通り、伯爵の領地では、生まれつきレベルの上がりにくい人々が『魔王の生け贄にされる』という形で、おおぜい殺されてきた。

「やだぁ、助けて!」と泣く女の子も、「死にたくないよぉ!」と叫ぶ少年も、伯爵の命令で強制的に魔王の生け贄にされ、命を落としてきた。


 レベルの低い人間を殺すたびに、伯爵は「実にいいことをした」とすがすがしい気分になっていた。

 自分が悪いことをしているとは、まったく思っていないのだ。


 伯爵は、まだ知らない。

 彼の崇拝する『剣の魔王』が、もうじきレベル1の探偵ジュニッツによって倒されてしまうということを。

 そして伯爵自身も、因果応報とでも言うべき罰を受けてしまうということを。


 ◇


<ジュニッツ視点>


 妖精の森を出発した後、俺たちはゲルダー王国から出るためにひたすら歩いた。

 この国の魔王を倒してしまった以上、次の倒すべき魔王を探す旅に出る必要があるからだ。ついでに言うなら、この国の王様だの大臣だのをまとめてぶちのめしてしまったので、おたずね者になっているかもしれないとも思っていた。


 俺たちは街道を避け、山の中を歩く。


「ふふふ、前に魔王を倒した時も、こうでしたよね。普通は魔王を倒したとあれば、パレードだのパーティーだので持てはやされるというのに、ジュニッツさんときたら、まるで借金取りから逃げ出すみたいなんですからねえ」


 アマミはそう言ってクスクスと笑う。


「うるせえぞ。黙って歩け」

「はいはい」


 アマミは楽しそうに笑った後、こうたずねてきた。


「で、この国を出たらどうするんです、ジュニッツさん?」

「どこか近くの町に入ろう」

「入ってからは?」

「普通の冒険者として暮らす」

「探偵稼業から足を洗うんですか?」

「バカヤロウ。そんなわけねえだろ」

「ふふふ、ですよねえ。ジュニッツさんみたく、執念深く魔王を倒してまわる人が、今さら普通になろうなんてしませんよねえ」


 アマミは、からかうように笑う。


「誰が執念深いんだ、誰が。いいから聞け」


 俺はアマミに説明した。

 これから先、魔王退治のために町での活動が必要な局面が何度も出てくるはずだ。

 魔王の情報を集めたり、あるいは魔王を倒すのに必要な武器や道具を購入したりと、人間の町で活動することは必要不可欠になる。


「だから、今のうちにどこか適当な町で、普通の生活の練習をする。いかにも『そこらへんによくいる流れ者の冒険者』のふりをするんだ。俺たちの関係は、そうだな……年の離れた兄妹ってことにしておこう」

「ふふ、わかりました、お兄さま。ああ、でも……」


 アマミは銀色の艶やかな髪を揺らし、かわいらしい顔をちょこんと傾けながら言った。


「その左右白黒スーツは町では目立ちますねえ。わたしが、魔物の皮を魔法で加工して、目立たない服を作ってあげますよ」


 ◇


 2週間後、目立たない服に身を包んだ俺たちは、国境を越えて隣のカルスラ王国という国に入ると、最初の町で冒険者活動をした。

 俺はC級冒険者、アマミはD級冒険者、ということにした。冒険者としては中の上といったところである。


 実際はC級だのD級だのという身分は嘘なのだが、俺たちはレベルボードを偽造できる。

 レベルボードとは、誰でも自由に空中に出すことができる光の板である。その人のレベルや名前や身分が書かれており、身分証として扱われている。これを偽造できるということは、いくらでも身分を詐称できるということである。


 偽の名前、偽のレベル、偽の身分。

 そんな偽物コンビとして、俺たちは1ヶ月ほど、人目につかないところで魔物退治をしていた。

 もっとも実際に魔物と戦っていたのはアマミ1人で、俺は単に「ジュニッツさんはそこで応援ダンスでも踊っていてくださいね」と言うアマミに対して「誰がそんなもん踊るか」と言い返していただけなのだが、ともかくも目立ち過ぎない程度に活動した。


 稼いだ金で、服や武器防具、食糧や日用雑貨を買った。


 情報も集めた。

 一番知りたいのは『魔王がどこにいるか』である。

 あっさりとわかった。

 魔王は、北の山を越えた先にいるらしい。

 もっとも、山の向こうということもあり、あまり詳しいことはわからなかった。


「まあ、詳しいことは現地で調べりゃいいさ」

「ですね」


 俺たちが今いるカルスラ王国という国は、山が多い。山々の中に、盆地が点在する。

 点在する盆地を、それぞれ伯爵だの侯爵だのが治めている。魔王のいる北の盆地を治めているのは、ゴドフ伯爵という人物である。

 目指すはそこだ。


 5日後、特にこれといった事件もなく、俺たちは山を越えた。

 ここからはゴドフ伯爵領である。


 ほどなくして、伯爵領を南北につらぬく街道にたどり着く。

 事前に聞いていた話だと、この街道をまっすぐ北に進めば、伯爵領の中心都市である伯都(はくと)という町に着くらしい。

 その伯都を目指して、俺たちは歩く。大きな町で魔王の情報を集めようという算段である。


 しばらく行くと、道の左右から植物が消え、茶色っぽい荒れ地になる。

 ゴツゴツした岩が転がり、乾燥している土地である。

 そんな道を俺とアマミは歩いていく。


 その時である。


「おや?」


 アマミが声を上げた。


「どうした?」

「人がいます」

「また商人か?」


 ゴドフ伯爵領は良質の金属が産出することもあり、鍛冶が盛んな土地であるらしい。

 剣や鎧を求めて、商人がよく訪れる。

 山を越えられる丈夫な脚の馬の背に武器防具を乗せた商人たちと、これまで何度かすれ違っている。


「ああ、いえ、そっちではなくてですね……」


 アマミが指をさしたのは街道から離れた方角だった。岩がゴロゴロ転がっている荒れ地である。普通なら人がいるはずもない。

 が、目がいいアマミは、そこに人がいると言う。


「岩で半分隠れていますけれども、男の人がひとり、倒れています。行き倒れですかねえ」

「死んでるのか?」

「まだ生きています。放っておくと死んじゃうかもしれませんけど」

「ふむ」


 魔王のいる土地で、なぜか街道から離れた場所に倒れている男。

 何かありそうである。


「助けよう」


 俺の言葉にアマミは「わかりました」とうなずいた。

 俺たちは街道を外れ、荒れ地へと足を踏み入れる。


 近づいてみるとアマミの言う通り、男がひとり、倒れていた。

 年齢は30代半ばくらいだろうか。育ちの良さそうな雰囲気があるが、体はよく鍛えられている。使い込まれた鎧をはじめとして、装備にも無駄がない。ベテランの冒険者だろう。

 意識はないようだが、口からは時折苦しそうなうめき声を出しており、まだ生きていることがわかる。


「治せそうか?」

「ええ、治せます。限界まで消耗しているだけっぽいですからねえ。ロクに食事も取らずに、このあたりをかけずり回っていたのでしょう。治しますか?」

「ああ、やってくれ。警戒はしておけよ」


 行き倒れのふりをして、助けようと近づいてきた者を襲うなんてのは、よくある盗賊の手口だ。

 もっとも、だとしたらこんな街道から遠く外れた目立たないところで倒れているはずがないので、その可能性は低いのだが、念のため警戒はうながしておく。


「ええ、わかりました」


 アマミはそう言うと、手当を始めた。

 魔法をかけ、水を少しずつ飲ませ、といったことを繰り返していると、男は意識を取り戻した。


「うっ、ううっ……こ、ここは……」


 男はしばらく、ぼんやりした様子であったが、突然「はっ!」と我に返った。


「メ、メイが! メイが魔王に殺される! とにかく……とにかく何でもいいから何とかしてあの()を助け出さないと!」


 男はよろよろと立ち上がる。

 が、まだ回復しきっていないためか、すぐに脚をもつれさせ、地面に倒れる。


「ほら、ダメですよ、まだ治療中なんですから、おとなしくしていないと」

「ぐっ……うっ……」


 男は育ちの良さそうな顔をゆがめ、何か言おうとしたが、アマミの言うことが正しいと理解したのだろう。

 ぐっと歯を食いしばって、おとなしく治療を受ける。


「あんた、名前は?」


 俺は、地面に横たわっている男の近くにしゃがんで、たずねた。


「え? あ、ああ……私はエヴァンスだ」

「エヴァンス。今の状況はわかるか?」

「……ああ、君たちが私を助けてくれたんだろう? すまない。金は払う」

「金はいらねえさ。それよりあんたの事情が聞きたい」

「私の?」

「そうさ。なぜ、こんなところで行き倒れていたのか。そいつが知りてえ」


 エヴァンスは「どうしてそんなことを知りたがる?」と言いたげな顔をする。


 俺は自分のレベルボードを見せた。

 偽のレベルボードではない。本物のほうである。

 そこにはこう書かれていた。


『ジュニッツ レベル1 G級冒険者』


 エヴァンスは目をパチクリとさせた。

 それから口をぽかんと開けた。


 あぜんとするエヴァンスに、俺はこう言った。


「エヴァンス。あんた、さっき『メイが魔王に殺される』って言っただろ? 話しぶりからして、メイってのはあんたの仲間か身内だろ? そいつが魔王に殺されようとしている。

 あんたが俺に協力してくれるなら、魔王を倒して、ついでにメイを助け出してやれるかもしれねえ。どうする?」


 自分で言うのもなんだが、俺は有名人である。

 神の知らせにより、ジュニッツという名前は『魔王を2回倒した男』として世界中に知れ渡っている。


 一方、エヴァンスは、メイという名の身内を魔王に殺されようとしている。

 いま、彼は必死になって……それこそぶっ倒れるほど死にものぐるいで、メイを助けようとしている。

 が、おそらく助け出せる算段は立っていないのだろう。エヴァンスは先ほど「とにかく何でもいいから何とかしてあの()を助け出さないと!」と言っていた。具体的な算段が立っていれば、「とにかく何でもいいから何とかして」なんて言い方はしない。


 要するにエヴァンスは『メイを魔王から助けたいけど、助けられる見込みがない』状態なのだ。


 そんな時、目の前に二度も魔王を倒した男が現れたらどうか。


「あ……あ……あああっ!」


 エヴァンスは声を上げた。

 それから、俺を見てこう言った。


「た、頼む、ジュニッツさん! 何でもする! だから娘を……娘のメイを助けてくれ! 私の娘は魔王の生け贄として、どこかに閉じ込められているんだ! レベルが低いからというだけの理由で!」


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