26話 探偵、妖精を強くする
妖精たちは物覚えが良かった。
妖精王の魔法の誤字修正のやり方(無論、誤字修正などとは言わず、そこはごまかした)を教えると、瞬く間に飲み込んだ。
とても素直だ。
俺は妖精たちのことを保守的で伝統的と評したが、そういう表現よりも『尊敬する人に素直』と言った方が適切だったかもしれない。
そうして2日が過ぎた。
魔法実験は順調に進んでいた。
この日、早くも妖精王の魔法を1つ復活させた。
雷電流である。
「いくのです」
リリィは天に向けて手を突き出し、呪文を唱える。
たちまちのうちに巨大な雷が天に向けて伸びていく。
「おお、すげえな!」
俺は感嘆の声を上げた。
今まで出来なかったことが出来るようになったやつがいたら、問答無用で褒めるべきである。
拍手をする。
「えへへ、褒めてくれて嬉しいのです。ジュニッツ様から頂いた魔法ですので、がんばったのです」
リリィは顔を赤くしながら、照れ笑いをする。
「ああ、すごかったぞ」
「はい、もっともっとがんばるのです!」
◇
「あれはちょっと……ダメですね」
2人きりになった時、アマミは雷電流の威力についてそう言った。
「わたしが使う雷魔法より弱いくらいです。あれじゃあ、普通のドラゴンは何とか倒せても、魔王や国相手には勝てませんよ」
「妖精200人がいっせいに雷電流を使ってもダメか?」
「それでもダメでしょうね」
どうも妖精王の魔法は思っていたほどの威力ではないらしい。
ゴブリンより弱い妖精たちが、普通のドラゴンを倒せるだけでも大したものではあるのだが、今回の相手には意味がないと言う。
「まあ、まだ始めたばかりさ。妖精王の魔法は他にもある。様子を見ようじゃねえか」
◇
1週間が過ぎた。
雷電流を復活させたことで弾みが付いたのか、妖精王の魔法は次々とよみがえっていった。
敵を凍らせる魔法。
大きな風の刃を生み出す魔法。
熱光線を放つ魔法。
種々多様な魔法が復活していく。
「すごいのです。どんどん魔法がつかえるようになるのです」
「ジュニッツ様、ありがとうなのです。さすがは香りの天使様なのです」
「がんばったので、スリスリさせてほしいのです」
妖精たちはそう言って喜ぶ。
「愛を込めてがんばったのです~」
「たくさん祈ったのです……祈りながら実験したのです……」
愛派のアイナと、祈り派のイーノも、そう言う。
この2人は、愛と祈りという自分なりのこだわりを持っているのだが、それと折り合いをつけながら実験活動にいそしんでいるようだ。
何にせよ、今は非常事態である。
妖精一同が一致団結して頑張っているのはよいことである。
妖精たちは「ごほうびなのです」「すてきな香りなのです」と言いながら、俺にスリスリする。
妖精たちの帽子の白い星がピカピカと3度光る。
ちなみに、妖精の帽子の白い星が光るのには法則があって、妖精が自分の好きな『仕事』をやっている時に『あること』をすると光る。
『あること』は3種類ある。
1つ目は、誰かと体を触れあわせること。
3度光る。
アイナや語り部の妖精はこれである。
2つ目は、白い星を自分の近くに置いておくこと。
30秒ほど天に向けて光る。
ロードンがこれである。
3つめは、自分で白い星を触ること。
3秒ほど強く光る。
イーノや書写の妖精、それに妖精王(白い星の触り心地が大好きだと言っていた)がこれである。
今、目の前で俺にスリスリしている妖精たちの白い星は、ピカピカ、ピカピカ、ピカピカ、と3度光っている。
彼らが自分の好きな仕事をやっている証拠だ。
妖精たちは好きなことを一生懸命がんばっているのだ。
が……。
「……やっぱり全部ダメですね」
夜、2人きりになった時、アマミは断言した。
「やはり妖精王の魔法は弱えのか?」
「うーん、弱いわけではないんですよ。並のS級冒険者と比較しても、ひけをとらないです。でも……それだけです。魔王や国相手に勝てるほどかというと……」
「アマミの魔法でどうにかならねえか? 補助魔法で、妖精たちの魔法の威力を上げるとか」
「補助魔法で強く出来るのには、上限があるんですよ。ですから……今以上に威力は上げられません」
アマミは役に立てないのが申し訳ないような顔で言う。
「となると、アマミと妖精の魔法の別の組み合わせを考えるか、妖精の魔法同士を上手く組み合わせるか……。それとも月替わりスキルの他の能力で使えるのがあれば……」
俺は左右白黒スーツのズボンのポケットに両手を突っ込み、うなりながら考え込む。
水魔法と火魔法を組み合わせて、蒸気を発生させたら何か出来ないか。
火魔法と土魔法を組み合わせて、土器を作ってみたらどうか。
あれこれ思案する。
その日の夜も、翌朝も、妖精たちの魔法実験を見学している時も、延々と思案する。
が、何も浮かばない。
それどころか、難しい顔をして考え込む俺を見て、妖精たちがこんなことを言い出す始末である。
「香りの天使様が不機嫌そうなのです。怒っているのです」
「あわわわわ。嫌われたくないのです。ジュニッツ様に嫌われると死んじゃうのです。嫌なのです」
「どうするのです? どうするのです?」
「きっとわたしたちの魔法がダメダメだからなのです! 妖精王様と比べてダメダメだからなのです!」
俺はあわてて妖精たちをなだめるのだった。
◇
その日の夜、俺はふと考えた。
妖精たちは今日、こう言っていた。
『妖精王様と比べてダメダメだからなのです!』
本当だろうか?
本当に妖精たちは妖精王と比べて劣っているのだろうか?
妖精王はゼロからオリジナル魔法を生み出した。
こんなことを成し遂げた妖精は他にいない。
天才である。
そんな天才の真似は普通の妖精にはできない。
だから、俺は妖精たちには、オリジナル魔法の開発ではなく、妖精王の魔法の修復をやらせた。
だが、本当にそれでいいのか?
何か違和感がある。
何か……。
「あっ!」
俺は声を上げた。
「いきなり、どうしたんです?」
「アマミ……どうも俺はうかつだったらしい」
「ジュニッツさんがうかつなのは、いつものことでは?」
「うるせえ。いいから聞け。俺はな、妖精王だけが実験の天才だと思っていたんだ。実験して新しい魔法を生み出す天才だとな。だが、そうじゃなかった」
「違うのですか?」
「歓迎会のことを思い出してみろ。妖精たちが魔物肉を調理した時のことだ」
あの時、妖精たちは肉という初めて見る食材にとまどっていた。
――「はわわわ、こんな食材見たことがないのです!」
――「なんなのです? これは一体なんなのです!?」
――聞くと、肉自体を見るのが初めてらしい。
妖精王のレシピにない料理だと抵抗もした。
――「妖精王様のレシピにも載っていないのです! どう料理すればいいのかわからないのです!」
――「うー、でもでも、レシピががないと……」
だが、歓迎会直前ということもあり、俺とアマミいう大事な客をもてなすためということもあり、レシピに頼らず、自力で料理する決意を固めた。
――「で、でも、仕方ないのです! 緊急事態なのです!」
――「そ、そうなのです! 歓迎会なのです。大事な大事なお客様なのです。料理してみるしかないのです!」
――「そうです、やるのです!」
その結果はどうか?
すばらしいとしか言いようのないものだったではないか。
――絶品だったのは、俺たちが食材を提供したカバ型の魔物の肉だった。
――正直、アマミが料理したものよりもおいしかった。
――中に肉汁が閉じ込められた絶妙な焼き加減。噛むと肉汁があふれ、こくのあるソースとからみ、すばらしいとしか言いようのない味わいである。
そのすばらしい結果はどうやって導き出したか?
実験である。
――聞くと、何十回とやり方を変えて調理と味見を繰り返し、失敗作は料理担当の妖精たちで食べ、やっとおいしく出来たのだという。
妖精たちは、何十回も方法を変え、調理と味見の試行錯誤をしたのだ。
まさに、実験である。
そして、たった1日の実験で、見たことも無い食材から、あっという間に絶品料理を作り上げてしまった。
これで実験の才能が無いだなんてありえない。
「アマミ、俺は、実験の才能があるのは妖精王だけだと思っていたんだ。彼だけが天才で、あんな天才はめったにいないと思っていたのさ。
だが、違っていた。妖精たちは、みんな実験の才能があったんだ。ただ伝統的な価値観に縛られて、それが発揮できていなかっただけだったのさ。
妖精王は、その伝統的価値観を打ち破ったという点では確かに天才だったが、実験の才能だけなら他の妖精たちも負けてはいなかったんだ」
ならどうするか?
決まっている。
ステップアップだ。
妖精たちにも、オリジナル魔法を作らせる。
「でも、どうやってオリジナル魔法を開発させるんです?」
「妖精は呪文さえわかれば、どんな魔法でも使える。その呪文を見つけさせるんだ」
「当たりを引くまで、適当に呪文を唱えさせ続けるんですか?」
「無理だな。何しろ呪文の組み合わせ数は膨大だ。呪文が20文字あるとして、1分1回の魔法実験を1日12時間のペースでやるとしたら、全ての呪文の組み合わせを試すのに400兆年かかる」
「じゃあ、どうすれば……」
「簡単さ。魔法の法則を見つけりゃあいいのさ」
俺がさっき言ったように、適当に呪文を唱えても、ほぼ100パーセント失敗する。
青い花が出てきて終わりである。
ただ失敗の仕方によって青い花の形が違う。
妖精の森を訪れた初日、俺とリリィはこんな会話をした。
――「魔法に失敗すると、青い花が出るのか?」
――「は、はいなのです」
――「花びらの枚数が全部違うな」
――「えっと、魔法の失敗の仕方によって、いろいろ違ってくるのです……」
リリィは魔法の失敗の仕方によって、出てくる青い花が『いろいろ違ってくる』と言っている。
花びらの枚数だけでなく、形や大きさや色合いや匂いなど、本当に『いろいろ』と違ってくるのだろう。
「であれば、こうやりゃあいい。まずなんでもいいから、呪文をわざとギリギリのところで間違えるんだ」
たとえば、風魔法の正しい呪文が『アアアアアアアアアアアアアアアア』だとする。
この呪文は5文字までなら間違えても発動する。
しかし、6文字間違えると発動せず、青い花が出る。
すると、6文字間違えた時に出る青い花は、『あと1文字合っていれば魔法が成功していた、すごく惜しい青い花』だ。
この青い花に、こんな特徴があったとしよう。
・花びらが7枚 ★
・色は濃い青 ★
・澄んだ香りがする ★
・形は角張っている
・大きい
次に、同じことを光魔法でもやってみる。
こっちの青い花は、こんな特徴があったとする。
・花びらが7枚 ★
・色は濃い青 ★
・澄んだ香りがする ★
・形は丸っこい
・小さい
わかるだろうか。
★をつけた部分の特徴が一致している。
つまり、『あと1文字合っていれば魔法が成功していた、すごく惜しい青い花』には『花びらが7枚で、色は濃い青で、澄んだ香りがする』という法則があることがわかる。
無論、これはあくまで例であり、すごくおおざっぱな法則でしかない。
実際はもっとたくさんの魔法を試して、より精密に分析しないといけない。
が、ともかく、こんな風にやれば『すごく惜しい青い花』の法則がわかる。
法則がわかったら、今度は適当に呪文を唱えてみる。
当然失敗する。青い花が出る。
こんな青い花だったとしよう。
・花びらが5枚
・色は薄い青
・香りは無し
もちろん『すごく惜しい青い花』とは似ても似つかない。
花びらが少ないし、色も薄い。
なら、どうすればいいか?
誤字を修復したやり方で、呪文を1文字ずつ変えてみるのだ。
変えているうちに、出てくる青い花が『すごく惜しい青い花』に近づいていくかもしれない。
花びらが少し増えたり、色が少し濃くなったりするかもしれない。
そうなれば、しめたものだ。
その調子で、『すごく惜しい青い花』になるまで、どんどん呪文を変えていけばいい。
その結果、すごく惜しい青い花、つまり『あと1文字合っていれば魔法が成功していた、すごく惜しい青い花』ができたら?
あとは1文字変えるだけで魔法が発動する。
元が適当な呪文だ。当然、発動するのは『未知のオリジナル魔法』である。
そうやって、どんどんオリジナル魔法を発掘していけばいいのだ。
「うーん、そう上手くいくでしょうか?」
「もちろん、実際はこんな単純にはいかねえだろうな。だが、妖精王だって、たった1人で数々の魔法を生み出したんだ。200人もいる妖精たちがやりゃあ、妖精王以上の成果だって期待できるさ」
◇
翌朝、俺は妖精たちに、オリジナル魔法の開発方法を教えた。
妖精たちの魂の奥に刻み込んだ魔法を掘り起こすための新たなる儀式だとかなんとか言って、教えた。
結果は予想よりも早く出た。
1週間後、妖精たちが早くも新魔法を生み出したのだ。
ただの新魔法ではない。
「すごいですよ、これ……妖精王の魔法以上かもしれません」
きれいな青い目を見開きながら、アマミが感嘆の声を上げる。
リリィたちが見せてくれた新魔法、それは結界魔法だった。
そう、妖精の森を囲む結界――S級冒険者すら突破できないというあの結界を、自ら作り出したのだ。
妖精たちが呪文を唱えると、俺たちの見る前で、直径約5メートルのシャボン玉のような半透明の球が生まれる。
球は、ぷかぷかと宙に浮いている。
「ちょっといいですか」
アマミはそう言って球の破壊を試みたが、彼女の強力な魔法の前にも結界の球はびくともしない。
リリィはうれしそうな顔で言う。
「ジュニッツ様、見ててくれましたか?」
「ああ。見た。すごかったぞ」
「えへへ、ありがとうございます。もっともっとがんばるのです!」
リリィはそう言うと、仲間の妖精たちとの魔法実験に戻る。
そんな妖精たちを尻目に、俺はアマミを離れた場所に連れていき、こう言った。
「なあ、アマミ。あの魔法、そんなにすげえのか? 俺には今ひとつすごさがわからなかったんだが……」
「はい。地味ですが、わたしが傷ひとつつけられない時点で、相当な魔法ですよ、あれ。さながら、無敵のバリアといったところです」
「あれで邪竜と王国に勝てるか?」
「うーん、使い方次第ですかねえ。いいところまでは行くとは思うのですが、あれだけで勝てるかは微妙です」
「まあ、王国が攻めてくるまであと2週間ある。それまでには何とかなるようにしよう」
◇
俺のもくろみは外れた。
2週間もかからなかった。
1週間後には、リリィたちは、さらに強力な魔法の数々を生み出してしまったのである。
魔王すら切り裂けるであろう光の刃を放つ魔法。
どんな相手であろうと麻痺させて動けなくさせてしまう魔法。
瞬間移動のごとく、高速で移動できる魔法。
「いや、ほんとすごいですよ、これ……完全に妖精王の魔法を超えています……」
「これで邪竜に勝てるか?」
「瞬殺ですよ……というか、妖精たちが森から出ることができれば、世界征服できちゃうんじゃないですか……?」
アマミが呆れたような顔でそう言ったほどである。
俺の予想していた通り、妖精たちには実験の才能があった。そして、やはりと言うべきか、200人という集団の力は大きかった。
妖精たちはあっさりと妖精王以上の魔法を生み出してしまった。
もっとも当の妖精たちは、のんきなものである。
「ジュニッツ様ー、やったのですー」
「がんばったのです。はりきったのです」
「ほめてくださいなのです。いっぱいスリスリさせてほしいのです」
俺は地面に大の字になり、歓喜する妖精たちに存分にスリスリさせた。
一通りのスリスリが済むとこう言った。
「よし、じゃあ練習として邪竜を半殺しにしようじゃねえか」
◇
俺たちは、妖精の森の中央にある妖精樹に向かっていた。
魔王である邪竜はそこにいるのだ。
「ジュニッツ様とピクニックなのですー」
「わー」
「楽しいのですー」
200人の妖精たちは、俺に付いてきている。
じゃんけんで勝った妖精は俺の服のポケットの中に入り、残りの妖精は俺の周囲を飛んでいる。
妖精たちはいつの間にか飛べるようになっていた。
「まるで遠足ですねえ」
アマミが呆れたように言う。
ほどなくして邪竜のところに着いた。
妖精樹の根元に鎮座している、塔のように巨大なドス黒いドラゴンである。
返り血を連想させる赤い目をしている。
その赤い目を俺たちに向け、邪竜は地獄の底から響くかのごとき声を上げた。
「コロス……コロス……ゼンブコロス……」
全てを殺すために生まれてきたような声。
並の冒険者なら……いや、S級冒険者であっても肝を冷やすであろう声。
だが、妖精たちは意に介さない。
「あれを倒せばいいのです?」
「殺すなよ?」
俺は念を押す。
殺したら妖精の森の結界が復活して、俺とアマミが森から出られなくなる。
今回はあくまで魔法の実戦練習なのだ。魔王相手に練習というのもおかしな話だが、練習は練習である。
「暴れさせてもダメですよ? 邪竜が本気になったら、妖精の森が吹っ飛んじゃいますからね」
アマミも念を押す。
「大丈夫なのです」
「任せるのです」
「見ててほしいのです」
「勝ったらいっぱいスリスリなのです」
妖精たちはそう言うと、一斉に邪竜めがけて飛んで行った。
「ガアアア……コロス……コロス!!!」
邪竜が鮮血のように赤い目をギロリと向けて、口を開いた。
そして、何か攻撃を発射しようとしたその瞬間。
「えーい」
妖精たちが手を突き出す。
とたん、直径30メートルはあるであろう巨大な結界の球が、邪竜を包み込むようにして出来上がった。
「ガ……?」
邪竜はとまどったような声を上げる。
が、すぐに自分が閉じ込められたと気づいたのだろう。暴れ出した。
「ガアアアアア! ガアアアアア!」
前脚を振り下ろす。
しっぽを叩きつける。
口から黒い光を放つ。
が、結界はビクともしない。
そして、ふわりと浮かび上がる。
邪竜は結界に閉じ込められたまま、宙に浮かぶ。
「ガアアアアアアア! コロスコロスコロスコロス!」
邪竜はますます暴れる。
全身で暴れる。
が、やはり結界にはまるで影響は無い。
それどころか、結界は徐々に小さくなっていく。
「ギアアアアア! ガギアアアアアアアア!」
邪竜は徐々に押しつぶされていく。
小さくなっていく。
このままいけば、ぺしゃんこに潰れてしまうだろう。
「そのへんにしろ」
俺の言葉に、妖精たちはうなずいた。
「はいなのです」
「わかったのです」
「でも、危ないので閉じ込めたままなのです」
「しばらくそのままなのです」
魔王がザコ扱いである。
もっとも妖精たちは妖精の森からは出られない。彼らは森の中でしか生きられず、出ると死んでしまう。だから、どれほど強力な魔法を使えても、それは地域限定のローカルな力でしかない。
だが、今はそれで十分である。
邪竜は妖精の森にいるのだし、ゲルダー王国軍だってのこのこ妖精の森に攻めてくるのだから。
結界に閉じ込められたままの邪竜を背に、俺たちは村に戻った。
「アマミ、これならゲルダー王国に勝てそうか」
「人間が蟻と戦って負けます? もはやそんな話ですよ。やり過ぎないように気をつけた方がいいんじゃないですかねえ」
「そのへんは妖精たちに任せるさ。今回、被害者はあいつらなんだ。あいつらの納得のいくようにやらせてやりゃあいいさ」