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19話 探偵、4つの宗派を知る

 歓迎会の翌朝、俺はアマミと調査を開始した。


「アマミ、出かけるぞ」

「了解です」


 俺は今日中に推理を終えるつもりでいる。

『どうすれば妖精王の魔法の威力を取り戻せるか?』という謎を解くのだ。

 謎を解くには、手がかりが必要である。

 その手がかりを集めるための調査を、これからやろうというわけである。


「まず、どこに行くんです?」

「魔王邪竜だ。一度、どんなやつか見ておきてえ」

「近所に散歩に行くような気楽さですねえ」


 妖精の族長リリィに聞くと、邪竜は妖精の森の中央にある妖精樹の根元にいると言う。

 近づきすぎない分には、妖精たちも騎士団の連中も問題なかったらしい。


 妖精の森はさほど大きくない。半径1キロ程度の広さである。

 手のひらサイズの妖精からしてみれば大きな森でも、人間からしてみれば小さい。

 妖精樹にはすぐに辿り着いた。


 そこは開けた空間であり、巨大な大樹がそびえ立っている。

 そして、根元に塔のように大きくて黒いドラゴンがいた


「ガアア……」


 ドラゴンはうなり声を上げた。

 俺はアマミを見た。


「間違いありません。あの雰囲気、魔王です」

「つまり、あれが魔王邪竜ってわけか」


 俺は視線を邪竜に戻した。


「コロス……コロス……ゼンブコロス……」


 邪竜は血のように赤い目で、ギロリと俺たちをにらむ。

 ぞくり、と体が震えた。

 これ以上近づけば、間違いなく殺されるだろう。


「あらためて聞くが、アマミ、あれに勝てるか?」

「無理ですね。瞬殺されます」

「何か倒せそうな、すげえアイテムとか持ってねえのか?」

「うーん。アイテムボックスの中身って1年間入れっぱなしだと消えちゃうんですよね。ネコでいた間はアイテムボックスが使えなかったので、冒険者時代のアイテムは全部消えちゃっていますし、今あるものと言いますと……」


 アマミはアイテムボックスの中を探る。

 中に入っているものをリストアップする。


「ええっと、まずは魔物関連ですね。魔物肉が14体分、魔物の皮で作った服が4着、魔物の毛皮の毛布が2枚、同じく魔物の毛皮のじゅうたんが1枚。数も種類もわたしの記憶と一致しています。それから……ああ、これはジュニッツさんがザール王国を出たばかりの頃、珍しいと言って森で節操なしに拾ったものですねえ。色々な形の透明な石ころ4個に、色々な形の赤い星形の石ころ3個、色々な形の緑色の骨が5本、金属みたいに硬い不思議な黒い枯れ枝が1本。うーん、こんなにありましたっけ? 色々あって、どこで何を入手したのか、わからなくなってきました。あとこれは……青い枯れた花が3本ですか。これで全部ですね」


 ずいぶんと色々ある。


「それだけあれば、中には戦闘に使えそうなやつとかねえのか? 強力な魔法効果がある石とか」

「ないですね。『鑑定』スキルで見ましたけれども、全部ただの石や木です」


 残念である。


「というか、あの邪竜、見た感じ、攻撃力は荒野の魔王以上ですよ。下手に手を出したら、妖精の森が吹っ飛んじゃうんじゃないですかねえ」

「そんなにすげえのか」

「ええ。たぶん、あれが本気を出したら、このあたり一帯が更地になっちゃう気がします」

「そいつは(こえ)えな」


 俺たちは、さっさとその場を立ち去った。


 ◇


「次に何をしますか?」

「宗教について調べたい。今回俺が使う月替わりスキルの能力はこれだからな」


―――――


『宗派変更』


 相手の宗派を変更するよう、最大級に上手い説得ができる。

 相手が複数でも効果を発揮する。


※あくまで説得であるため、相手が納得しなければ変更は失敗する。

※宗教そのものは変えられない。宗派だけ。

※あなたに好意を持つ相手にのみ効果を発揮する。

※この能力は一度使うと消える。


―――――


「妖精たちに、彼らの宗教について聞くのですか?」

「ああ。ついでに宗派についてもな」

「大丈夫ですか、ジュニッツさん。宗教と宗派の違い、わかってます?」


 アマミが、かわいらしい顔に楽しそうな笑みを浮かべながら、からかってくる。


「バカにするな。宗派ってのは、1つの宗教の中にある派閥のようなものだろ?」

「ですね。同じ宗教であっても、ある宗派は『神は我が民族だけを救う』と解釈してて、別の宗派は『神は全人類を救う』と解釈してて、意見が対立している、みたいな感じです」

「妖精たちも、宗派が分かれていて、対立しているのかねえ?」

「どうでしょう。あまりそんな風には見えませんが……」


 ちなみに人類の宗教は、『神の知らせ』や『世界活躍ランキング』を届けてくれるのが神様、というものである。

 スキルボードから手に入るスキルも、ポイントボードから手に入る『神の祝福』も、すべて神様が用意したものだと考えられている。

『神はこの世界を作り、人間を作り、レベルとスキルと神の祝福をお与えになられた。レベルの高い人間は、神に愛された人間であり、また愛に応えるように努力した人間である』というのが大まかな思想である。


 宗教に特に名前はない。

 なんとなく人類の大半が、大なり小なり信じている宗教、という認識である。


 まあ、全人類に『世界活躍ランキング』などの形でメッセージを届けることができる存在なのだ。「これぞ神だ!」と人類の大半が信じてもおかしくない。


 だが、妖精は『世界活躍ランキング』も『神の知らせ』も見たことがないと言う。

 スキルボードもポイントボードも使えない。

 彼らの宗教観はどうなっているのだろうか?


 俺たちは妖精の族長リリィのところに行った。


 たちまちのうちに、

「ほわああ、ジュニッツさまですー」

「わああ、ジュニッツさまー、ジュニッツさまー」

「いい匂いですー」

 などと言う妖精たちに囲まれ、朝の挨拶とばかりにたっぷりとスリスリされる。


 それが落ち着いた後、リリィに話を聞いてみた。


「宗教ですか?」

「ああ、そうだ、リリィ。お前たちの宗教について教えて欲しい」

「うーん、と言っても特に変わったことはしていないのです。神様がいるのです。みんなで時おり、『わたしたちを正しい方向に導いてください』と祈るのです。それが基本なのです」

「妖精たちは全員同じ神様を(あが)めているのか?」

「はいなのです。神様を信じていない妖精なんていないのです」


 つまり、妖精たちの宗教は1つということである。


「その神様ってのは、どういう存在なんだ?」

「この世界をお作りになられた、とてもとてもすごい絶対的なお方なのです。そして、わたしたち妖精をこの世界にお生みになられたのです。古くからそう言い伝えられているのです」


 このあたりは人間の宗教と似ている。


「神様の声は聞いたことがあるか?」


 人間でいうところの『神の知らせ』や『世界活躍ランキング』みたいなのが妖精たちにはないのかと聞いてみた。


「そういうのはないのです。神様の声は聞くことができないのです。残念なのです。あ、でもでも! 妖精王様が神様から魔法を授かったのです!」


 リリィの言葉に俺は思い出した。


「ああ、そういえばそんなことを言っていたな。妖精王が神様から魔法を授かり、その魔法で白ドラゴンを追い払ったと」

「そうなのです。神様は絶対的なお方なのです。そんなすごい神様から、古くから言い伝えられてはいても誰も成功したことのなかった魔法受諾の儀式を成功させ、魔法を受け取ったのですから、妖精王様もすごいお方なのです。わたしたちを正しい方向に導いてくれるのです。あ……でも、わたしたちは、そのすごい妖精王様の魔法をロクに使えないのですが……」


 リリィは落ち込む。

 俺は話題を変えた。


「あー、妖精王の魔法は本になっているんだったな」

「は、はい、そうなのです。偉大なる妖精王様は本を書き残してくれたのです。ちょっと待ってほしいのです」


 そう言ってリリィは駆け出すと、倉のような建物に入り、一冊の本を持ってきた。

 昨日見せてくれた本である。


「これが妖精王様の魔法の書かれた本なのです」

「見てもいいか?」

「本来なら一部の妖精しか見ることができないのです。でもジュニッツ様は特別なのです」


 俺は本をそっと手に取った。


「ずいぶんとボロボロだな」

「大丈夫なのです。あと5冊写しがあるのです」


 となるとこれは妖精王のオリジナル本ということか。慎重に扱わないといけない。

 中を開く。

 文字は読める。が、魔法書である。専門外の俺にはさっぱりである。


 リリィに許可を取り、アマミにも見せたが、彼女もさっぱりだった。

「やっぱり人間の魔法とは全然違いますね。ちんぷんかんぷんですよ」とのことである。


 魔法書については、すぐに何かがわかるわけではなさそうだった。

 今はこれくらいにしておこう。いずれまた必要になった時に読めばいい。


「ありがとう」


 俺はリリィに魔法書を返した。


「いえいえ。ジュニッツ様のためでしたら」

「それで、話を宗教に戻すんだが、お前たちの宗教ってのは要するに、すごい神様がいて、その神様にみんなで祈って、たまに妖精王みたいな英雄がそのすごい神様から魔法を授かる。そんな感じでいいのか?」

「はい、そうなのです。神様はすごいのです。絶対的なのです。世界を作ってくださり、わたしたちを作ってくださり、妖精王様に魔法を授けてくださったのです。だから、どうかわたしたちを正しい方向に導いてください、とお祈りするのです」


 妖精らしい素朴な宗教のようである。

 俺は切り口を変えた。


「じゃあ、お前たちの中に変わり者はいねえか?」

「変わり者ですか?」

「ああ。つまり、神様に対して、ちょっと変わった考えを持った妖精がいねえかってことなんだが」

「そうですねえ……」


 リリィは少し考え込む仕草を見せた後、こう言った。


「3人います」

「3人?」

「はい。変わり者は全部で3人いるのです」

「その3人は、ざっくり一言でいって、どんな考えをしているんだ?」

「えっと、1人は愛が大好きなのです。みんなで愛し合うのが神様の一番の望みだ、と言っているのです。

 1人は働くのが大好きなのです。みんなで一生懸命労働するのが神様の一番の望みだ、と言っているのです。

 1人は祈るのが大好きなのです。みんなで1日中祈るのが神様の一番の望みだ、と言っているのです」


 俺は「ふむ」とうなづいた。


「その3人の考えは、リリィたちの考えとは違うのだな?」

「はい。愛も労働も祈りも大事ですけど、わたしたちはそれが神様の一番の望みだとは思うほど極端ではないのです。どれも平等に大事だと思っているのです。でも、神様をどう信じるかは妖精たちの自由なのです。だからその3人にも好きにしてもらっているのです」


 なるほど。

 つまり、この妖精の森には4つの宗派が存在しているわけだ。


 リリィたち大半の妖精が信じているバランス派。

 極端に愛が大好きな、愛派。

 極端に働くのが大好きな、労働派。

 極端に祈るのが大好きな、祈り派。


 この4つの宗派のうちのどれか1つに、妖精たち全員に改宗してもらうよう説得できれば、問題が解決するということか。

 もっともバランス派は、すでに大半の妖精たちが信じているから、これに改宗させたところでほとんど意味がない。


 愛派。

 労働派。

 祈り派。


 この3つの宗派だ。

 この3つの宗派は、現時点ではどれも1人しか信奉していない。妖精全員が改宗すれば、影響は極めて大きい。

 3択である。

 どれだ? どの宗派に改宗してもらえばいい?

 どれに改宗してもらえば、邪竜とゲルダ―王国を倒せる?


「どうします、ジュニッツさん?」


 アマミが聞いてくる。


「ここでぐだぐだ考えていても仕方がねえ。その3人に会いに行こう。行くぞ、アマミ」

「はい」


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[気になる点] そもそも妖精全員が同じ宗派になれば魔法が使えるようになるってのもよく分からんくない?もう少し説明して欲しい
[良い点] 妖精の変わり者は かわいいレベルですね! さて どう解決するのか楽しみですね!(期待) [気になる点] とりあえず 魔王倒すまで かかりそうでしょうかな?
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