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12話 探偵、妖精狩りをする騎士団にケンカを売る

 レベルボードの偽造に成功してから数日後、俺とアマミは森を抜けた。


 森を抜けると、草原である。

 一面、背の低い草が広がっている。ところどころに樹が生えている。

 相変わらず人気(ひとけ)は無い。静かな草原に、風の音が鳴っている。


「いやあ、静かですねえ」

「騒がしいよりはいいさ」


 時折、騒がしくなる。魔物が出るのだ。

 とはいえ、脅威ではない。アマミが瞬殺してしまうからだ。

 カバに似た魔物もいて、あの巨体で突撃されただけで普通の人間は吹っ飛んでしまいそうなものだが、アマミは風魔法による風の刃で、あっさりと首をはね飛ばした。

 おかげで食糧には困らない。


 もっとも、アマミはアイテムボックスのスキルを持っている。

 異界という別次元の場所に物を保管できるスキルだ。異界には、いつでもどこでも物の出し入れができる。入れてしまえば、重さを感じることもない。

『手に持った物しか入れられない』だの『1年以上入れっぱなしの物は消滅してしまう』だのといった制限はあるが、荷物の持ち歩きが不要になるので重宝されている。


 森で狩った魔物は、アマミの魔法で血抜き・解体・冷凍した上で、アイテムボックスに保存されている。

 だから、草原で魔物が出て来なくても、食糧は何とかなっただろう。


「でも、やっぱり食事は新鮮な方がいいですよ。倒したその日に食べるのが一番おいしいんです」

「まったくだな」


 数日ほど歩くと、景色に変化が見られた。

 草がまばらになっていくのだ。

 気がつけば、あたりは荒れ地になっている。

 動物や魔物も出て来なくなる。


 冷凍肉を火魔法で食べる日が続く。


 そんなある日のことである。


 妙なものに出くわした。

 森である。


 ただの森ではない。

 第一に、荒れ地の中にポツンと森がある。大きな森ではない。半径1キロ程度の小さな森が、荒れ地の中に孤立したように存在しているのだ。

 第二に、森の中央にやたらと大きな木がある。ざっと高さ300メートルくらいはありそうな巨大な木である。

 なんとも奇妙な森である。


「ははあ、あれは妖精の森ですね」

「妖精の森?」

「ええ。ほら、中央に大きな木があるでしょう? あれは妖精樹というんです。妖精樹はある時、突然生えてきます。大きくなると半径1キロの範囲に結界を張り、森にします。こんな風に荒れ地だろうと、砂漠だろうと、構わず周囲を森にしてしまいます。そして、妖精を生み出すんです」


 妖精を生み出す、という言葉の意味がよくわからない。


「生み出すってなんだ?」

「妖精樹は一度だけ、妖精を生み出すんです。樹がどうやって妖精を生み出すのかは知りませんが……妖精らしく樹の花から出てくるんですかねえ。とにかく最初の妖精たちはそうやって誕生するんです」


 俺は「ふむ」とうなずいた。


「で、生まれた妖精は何をするんだ?」

「妖精らしく、楽しく平和に暮らします。食べて、歌って、踊って、子供を産んで……。

 でも、ある時、子供を産まなくなるみたいなんです。妖精樹から生まれてくるのは最初の妖精たちだけで、後の妖精は普通に……まあ、その、人間と同じように男女で子供を作るらしいのですが、どういうわけか、ある時を境に、森の中の妖精たちが一斉に子供を産まなくなるんです。当然、何十年かしたら、妖精たちは寿命で死に絶えます。そうして妖精がいなくなると、妖精樹も枯れて森も消滅するわけです」

「楽しく平和に暮らすねえ……」


 兇暴な魔物や、悪い人間が跋扈(ばっこ)するこの世界で、そんなことが可能なのだろうか?

 その点をアマミにたずねると、彼女の答えはこうだった。


「妖精の森には結界が張られているんですよ。この結界のせいで、妖精は森から出ることはできません。代わりに、人間や魔物も、妖精の森に入れません。過去にはS級冒険者が力づくで妖精の森に入ろうとしたこともあったみたいでしたが、失敗しました。それくらい結界は頑丈なんです」

「中には入れないのに、なんで妖精がいるってわかるんだ?」


 俺はたずねた。


「好奇心旺盛な妖精が結界の境界線でうろうろしているのを目撃した人間が何人もいるんですよ。結界と言っても透明ですからね。中を見ることはできますし、お互いに話をすることもできます。そうやって妖精たちに色々聞いて、彼らの生態だの事情だのがわかったんです。

 もっとも、妖精は見た目も中身も子供みたいなものなので、何を言っているのかよくわからず、聞き出すのにだいぶ苦労したみたいですが。

 あっ、妖精ってこんな感じです」


 アマミはそう言うと、空中に映像を出現させた。

 彼女は偽レベルボードを作れるようになったが、これを応用して好きな映像を目の前に出すことができるようにもなったのだ。


 映像には、3頭身くらいの、人間の子供みたいな顔をしたちっちゃな生き物が映っていた。

 頭には三角帽子をかぶり、ふわふわでもこもこの何とも言えぬ服を着ている。


「わたしも実物は見たことはないですが、話に聞く限りではこんな姿みたいです」

「背中に羽根はないんだな」

「あれはフィクションですからね。ちなみに大きさは手のひらに載るくらいですよ」

「ちょっと見てみたいな」


 何となく好奇心をそそられた。


「行ってみます?」

「行こう」

「ふふ、了解です。運が良ければ、結界の境界あたりをうろついている妖精が見られるかもしれませんね」


 俺とアマミは妖精の森に向かった。


 が、近づいていくと(みょう)だった。

 いや、俺は気づかなかったが、アマミが「妙ですね」と言うのだ。


「何が妙なんだ?」

「間違っているかもしれませんが……魔王の気配がするんです」

「魔王!?」

「ええ、そんな雰囲気がするんです」


 俺には全くわからない。レベルが上がると、そういうことに鋭くなるのかもしれない。

 何にせよ、妖精と魔王。事実だとしたら、妙な組み合わせである。


 妖精の森の目の前まで来ると、さらに妙だった。


「……結界がありません」

「は?」

「結界がないんですよ。普通、妖精の森って、森をぐるりと囲むようにして結界があるんですが、それがないんです」

「ここが妖精の森じゃない、ってことはねえか?」


 アマミは首を横に振った。


「正確にはうっすらとした結界があります。ほとんど無いも同然ですが、一応あるにはあるんです。結界がある以上、ここが妖精の森であることに間違いありません。ほら」


 アマミが森の領域に手を突っ込む。

 俺も真似てみる。空中でやわらかい抵抗感があったが、ちょっと力をこめるとすぐに通り抜けてしまった。


「どういうことだ?」

「わかりません。こんなの、聞いたことありません……」


 俺とアマミは二人して、どういうことだと首をひねる。


 その時である。

 

「ひゃははは! 死ねえ!」


 森の奥から声が聞こえた。


「行くぞ!」


 俺は瞬間的に判断を下した。直感である。


「はい!」


 アマミは言うが早いか、俺を背中におんぶし、高速で駆けていく。

 その気になれば、アマミは身体強化のスキルの力で、俺よりずっと速く走れる。俺1人をおぶっていくのだって簡単だ。

 これまでそうしなかったのは、25歳の成人男子が12歳の少女におぶられるのが恥ずかしかったからだ。


 が、今はそれどころではない。

 俺は「手段は問わないから速く移動しろ」という意味を込めて「行くぞ!」と言った。

 アマミもそれをくみ取り、こうして俺をおぶっている。

 高速で妖精の森を駆ける。


 声がしたところには、すぐに着いた。


「ほーら、逃げろよ、逃げろよ、クズ妖精ちゃん」

「ぎゃはははは!」


 そこには金属の鎧兜に身を固めた男たちがいた。

 ざっと30人くらいだろうか。

 そして、彼らが追いかけ回している先には……。


「いやぁぁぁ!」

「たすけてぇぇぇ!」


 妖精がいた。

 アマミが映像で見せてくれた姿によく似た妖精が10人ほど、森の中を逃げ回っていたのだ。


 鎧を着た男たちは、妖精たちを笑いながら追いかけ回している。

 そのうちの1人が剣を妖精に突き立てようとする。


「アマミ、いけるか?」

「はい!」


 アマミは風魔法を放った。

 風の刃が飛んで行き、男の剣を途中から切断する。


「なっ!」


 男は驚愕の声を上げる。

 まさか邪魔されるとは思っていなかったのだろう。

 風魔法が飛んできた方……つまり、俺たちの方を見る。

 周りの男たちも、一斉に俺たちを見る。


「……なんだ、お前は?」


 リーダー格と思わしき男が、じろじろとぶしつけな視線を向けながら言う。

 ウェーブがかった長い金髪が兜から垂れ下がった、貴族めいた顔立ちの男だ。


「ふん、俺を知らんのか?」


 俺は、左手で左右白黒の中折れ帽を軽く傾け、右腕を大きく横に広げて左右白黒スーツのジャケットをバサリとはためかせ、こう言った。


「俺はジュニッツ。魔王を倒す名探偵だ。妖精をいじめる悪逆非道なゲスどもを成敗しに来た」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 宣言がカッコいい [一言] でも女の子におんぶされてるんですよね〜
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