馴れ初め。1
初投稿です
温かい目でご覧下さい
私の名は、ミーシェ=グリンデル=ハルヴェルト。カルトリア王国の名高い侯爵家の娘。
俗に言う侯爵令嬢だ。
母親譲りの艶やかな髪は銀色に輝き、乱れること無く真っ直ぐに腰まで伸びている。
ぱっちりと開いた目は父親に似たのだろう。
美しい空色をしていた。
白い肌は健康そのものを表し、血色が良い。
それでいて透き通っている。
令嬢としての振る舞いは母親と家庭教師によってしっかりと身についていた。
「ミーシェ様、起床のお時間ですわ」
そうにっこりと微笑みながら起こしてくれるのは、マリエ。私の専属メイドだ。
「あら、もう朝なの…おはようマリエ」
「おはようございます、ミーシェ様」
マリエはまだ眠そうな私を見てくすくすとまた微笑む。
「今日はアルベルト様がいらっしゃる日ですよ。お召し物はどうなさいますか?」
そう。今日は私の婚約者様であるアルベルト=ルヴァード=カルトリアがわざわざ我が屋敷に来て下さる日。
何故私とアルベルト王子が婚約に至ったのか。
私にもよくわからない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時は遡ること一ヶ月前。
十八歳になられたアルベルト王子の婚約者を選ぶお茶会が催された。
公爵令嬢という立場上様々なお茶会に参加して社交場慣れはしていたが、苦手だ。
その中でも今回は王家主催ということもあって緊張しまくりだった。
「お父様、私、王子に気に入られる気は無いのよ…?」
私には後の国王を支える立場になる自信は全く無く、カルトリア家の城へ向かう間の馬車の中で私は父に言った。
が。
父の耳には届かなかった。
国王と旧友である父は、しばらくぶりに対面出来ることで年甲斐もなくウキウキしているのだ。
馬車が城に着くや否や、父は颯爽と降りて私をエスコートした後、わざわざ出迎えに来て下さった王と楽しそうにお話を始めてしまった。
王にやたら畏まった挨拶をした後、
「お茶会まで時間がある。ミーシェ嬢、私たちの話の場にいても退屈であろう。メルを付けるから庭でも散歩するといいさ。」と言って頂けた。
メルは私より五歳年上の
とても気さくなメイドだった。
私が緊張してるのを見抜いてくれたようで、
色んな話をしてくれた。
メルのおかげで私の緊張がほぐれると同時に、王家自慢の庭に到着した。
「あら?アルベルト様!お庭にいらっしゃいましたか」
メルの声に顔を上げると、そこには金色の髪の毛を風になびかせ、深い青色の瞳をした美しい娼年が立っていた。
私より二、三歳上だろうか。
(ん?アルベルト様…?)
「あぁ。庭師達が庭の手入れをしてくれたからな。見惚れてしまっていたところだ」
そう言って優しく微笑んだ少年は、ふと私に視線を移した。
「ん?メル。そちらは…?」
「あぁ、こちらお方はミーシェ様でございます。ハルヴェルト家のご令嬢ですわ」
メルの紹介を受け、先程王にしたものと同様に畏まった挨拶をした。
「ハルヴェルト家…父の旧友の…?」
そこでその少年がアルベルト王子だということに気づいた。
マリエに聞かれたら王子の顔も把握してないとは…と、お小言決定だったわ…危ない。
「ミーシェ=グリンデル=ハルヴェルトと申します。本日のお茶会、楽しみにしておりました。」
深々とお辞儀をすると、アルベルト王子は困ったように笑った。
「ミーシェ嬢、そんなに畏まらなくていい」
「ですが…」
「私は畏まった場は苦手なんだ。社交の場には実を言うと出たくなくてな。」
なんですって。
王族の方にも苦手はあったのか…
かなり偏見だけど、王族は完璧なものだと私の中で思っていた。
それが…その王子が…私と同じ悩みを抱えているとは。
「おなじ…」
気付いた時には声が出ていた。
あっ!と思う頃には時すでに遅し。
アルベルト王子は目を見開いていた。
「あ…申し訳ございませんアルベルト様。私も社交の場は苦手としておりまして………あの…?」
目を見開いたまま動かない。
そんなに無礼だっただろうか…
「いや…謝らなくていい。ハルヴェルト家は社交的な家だと父から聞いていたから少し驚いたんだ。」
そう言ってくしゃりと申し訳なさそうに笑う王子を、私は失礼にも、可愛いと思った。
お茶会が始まる時間になり、王子と別れ、会場へ向かう。
「ミーシェ様、本日はお越しいただきありがとうございます。お茶会はこれからです。美味しいお菓子もお茶もございます。どうぞ楽しんで行ってくださいね」
メルはそう言ってにこっと花のような笑みを浮かべると、一礼をし、去っていった。
改めて会場を見渡すと、何もかもが煌びやかで、他のお茶会と比べても何もかもが豪華だった。
視線を少し動かすと、沢山のご令嬢に囲まれたアルベルト王子が目に映る。
王家という家柄はもちろん、顔良し、頭良し、剣の腕も良し。という傍から見ると完璧な王子にご令嬢達はこぞってメロメロなようだ。
私は…あの戦場に混ざる気は無い。
王妃になろうとは思っていないし、メルの教えてくれた美味しいお菓子とお茶に夢中だった。
(あ、このクッキー美味しいわ)
サクサクしているのに、口の中に入れた途端ホロホロと崩れ、それと共に濃厚なバターの香りがふわっと漂う。そして軽い。何個でも食べれそうだ。
バクバク食べる事はこんな人目に着くところで出来ないけれど。
そんな幸せに浸っていると、周囲がざわざわしてきた。ご令嬢の目が一気に私へと向く。
(え、何かしら…目立つ粗相はしていないはずだけど)
粗相といえば王子に失礼な口をきいたくらいだ。
疑問に思っていると、その数秒後、私はその理由を知る事となる。
「私はこのミーシェ=グリンデル=ハルヴェルトと婚約することをここに決めた!」
そう高らかに宣言すると、アルベルト王子は私の肩を抱いた。
え?????
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんなこんなあって、両親は手を取り合って喜んだために破談に出来ず、(王家からの縁談など元より破談にできないのだが)
トントン拍子に手続きが進み…
私は晴れてアルベルト王子の婚約者となったのだ。
(未だに理由がわからないわ…)
何故私を?何故あの場で?
放心状態だった私は、周りのご令嬢の目が痛過ぎた事は覚えていた。
「ミーシェ様??ご用意出来ましたよ?」
マリエの声にハッと我に返る。
いつの間にかドレスに着替え、髪をセットし、化粧も終わっていたようだ。
「ありがとう、さすがマリエね。とっても綺麗だわ」
にっこりと微笑むと、マリエも嬉しそうに微笑み返してくれた。
「失礼致します。ミーシェ様、アルベルト様がお見えになりました。」
メイド長のハルがわざわざ呼びに来てくれた。
私はハルとマリエを従えて急ぎ気味に階段を降りる。
そしてアルベルト王子から見えないところで息を整え、何事も無かったかのに振る舞う。
「ごきげんよう、アルベルト様。お久しぶりでございます。」
「お出迎えありがとう、ミーシェ嬢。体調が良くなったと聞いたのだが…本当に大丈夫なのか…?」
実を言うと、私はアルベルト王子と婚約した翌日から高熱を出して寝込んでいた。
王子は急に婚約発表した自分が悪かったと言わんばかりに見舞いを申し出てくれたものの、
私は移す訳にはいかないと丁重にお断りしていたのだ。
しかし王子にどうしてもと言われてはそのご厚意を断り続けることも出来ず、結局「体調が完全に回復したら」という事で渋々納得して頂いた。
思ったより完治は遅くなり、王子と会うのはまだ二回目だ。
「ええ。お陰様で良くなりました。ご心配いただき、ありがとうございます」
「にしては顔が赤いような…無理はしなくていいからな」
走ったからだろう。
呼吸を整えても顔の赤みが引くのは待てなかった。
大丈夫だと王子に言い聞かせ、二人は中庭に出た。二人と言ってもそれぞれのメイドも従えての事だが。
「ところでアルベルト様。唐突で申し訳ないのですが、何故私を婚約者に…?」
本当に唐突で申し訳ないのだが、私はずっと気になっていた質問をぶつけた。
すると王子は苦笑して言った。
「私はガツガツした女性は苦手なんだ」
………………なるほど。
私を除いて、お茶会にいたご令嬢達は王子を我が物にしようとアタックしまくっていたのだ。
目はハンターさながらに爛々と光っていたのを思い出す。確かにあれは怖かった。
となると、王子が私を選ぶには十分すぎる理由だ。
「そうでしたか…驚きの余りその場では何も言えませんでしたが、アルベルト様、私を選んでいただきありがとうございます」
本当の事を言うなら後の王妃となる立場なんてまっぴらごめんだった。
でも…王子の事を思うと放っておけないと思うのも本当だ。
「いや、私こそ感謝しなければならない。ありがとう。」
王子はぺこりと頭を下げた。
それすらも綺麗な所作だった。
「えっ!?あっアルベルト様!?頭をお上げください!!」
見惚れるところだった。危ない。
「しかし…私のせいで貴女は高熱を出してしまった。私の突飛な行動のせいで…」
綺麗なその顔が悔しそうに歪む。
落ち着いて見ると本当に綺麗だ。
例えそれが歪んでいても。
泣いても笑っても綺麗なのだろう。
「アルベルト様、そんなに気にすることではありません。あれくらいの熱、どうって事ないですから。」
ね?と王子に向かって微笑むと、私とは対照的に泣きそうな顔をされた。
やはり綺麗だ。
私はこの先、このお方と人生を歩んでいく。
何かある度に「綺麗だ」と思って過ごさなきゃなんて私の心臓が持つかしら…
「あれくらいの熱など…四十度近い高熱を数日に渡って出した事のどこが、「どうってことない」なんだ…!!貴女の熱が下がらない間、私がどれだけ不安だったか!……貴女には分かるのか…」
最後は弱々しくて消えそうだった。
彼は彼なりに心配してくれていたのだ。
でも…
「なぜ…なぜ婚約したばかり、出会ったばかりの私にその様に心配して頂けるのですか?」
「婚約者が苦しんでいる時に心配の一つもしないなど、男として失格だ。」
…あぁ。やっぱり。
王子は私が心配というわけではなかったのだ。
婚約者としての、男性としての模範解答に沿っただけだったのか。
そう考えただけで胸がズキズキしてきた。
なんでだろう。
「そう…でしたか…心配を掛けてしまい、申し訳ございません」
そう言った私の顔は酷いものだっただろう。
私を見て、直ぐに顔を逸らした王子の様子が物語っていた。
いかがだったでしょうか?
続きが気になってくれた方ありがとうございます!次回からも、ミーシェとアルベルトをよろしくお願いします。




