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Kiss of Monster 01  作者: 奏路野仁
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008

体育の授業は殆ど見学だけだった。

体中の傷は見せるのも見られるのも、見せられる側も気分が悪い。

特に小学生の頃は教師が積極的に見学を勧めた。

フィンランドからの留学生、エーリッキ・プナイリンナが羨ましい。

バスケットボールをろくに触った事のない僕にも判る。

彼は1人「飛び抜けて」いる。

縦横無尽にしかも優雅にコートを舞う姿はきっと誰もが見惚れるだろう。

出番待ちの連中は全員がそうだうろと体育館を見渡すと

端(男子寄り)の壁際で、他の女子達と離れ1人佇む小室絢。

僕の視線に気付くと彼女は小さく手招きをした。

横に並ぶと「こっち見るな前向いてろ。もう少し離れろ」と等々注文を付けてから

「なんで着替えていないんだ?病気か?怪我か?」

すみませんご心配かけて。ただのサボりです。

「オレが心配なんかするかっ。姫が心配そうだっただけだ。」

「で?なんでサボっているんだ?」

体力が無くて。それにルールとかもよく判らないから。

呆れる小室絢。

「そんなんでイザって時に姫を守れるのか?」

守るような場面がある。と言っているのだろうか。

「お前と姫がデートでもしている時に」

デート?

つい大きめな声で聞き返してしまった。

「声がデカイっ。こっち見るなっ。たとえ話だっ。」

「大体オレはお前とはトモダチでも何でも無いからな。馴れ馴れしく話しているようにするな。」

「まったく。姫も姫だ。トモダチならオレ達がいるのによりにもよって」

何かブツブツ言っている。

僕にはどうして小室絢がイラついているのかよく判る。

僕には橘さんを守る力なんて無い。

だからお願いします。僕と橘さんがトモダチであっても

これからもずっと橘さんを守ってさしあげてください。

僕は深く頭を下げた。

彼女は少し呆気にとられ慌てて

「よせっやめろっ。誰か見ていたらどうするっ。」

と言って逃げるように去った。

僕も元いた場所に戻ろうとしたが

先程までコートの中にいた南室綴が入れ替わるように僕の元に現れる。

「見てたわよ。」

「どうして絢ちゃん怒らせてどうやって許してもらったの?」

怒ったのは多分、僕が橘さんとトモダチになったから。

許してもらったのかどうかは判りません。

「そうなの?でもニヤニヤしてたわよ。」

南室綴が言ったように以降小室絢は僕を「ぞんざい」に扱うようになった。

その時は緊張感から開放されて有り難い程度に思っていたのだが

後にコレが原因でちょっとした問題も発生する。


帰宅するとすぐに祖父から「橘家に行くように」と言われた。

学校から直接行かせなかったのは

菓子折りと寸志と書かれた熨斗袋の入った手提げを持たせたかったから。

神社の前の公園にはトモダチになったばかりの3人がいた。

「遅いっ。」

え?おそい?

宮田杏の文句には心当たりがない。

「オマエが呼んだくせに遅れるとか。」

呼んだ?待ち合わせした記憶はない。

「紹実ちゃんから聞いたのよ。一緒に神社に行くようにって。」

紹実ちゃん?三原先生か。

「あー、紹実ちゃんから聞いてないのね。わざとに違いないわ。」

柏木梢には思い当たるようだ。

何のことか尋ねる前に宮田杏と栄椿が「何か」を見付ける。

「おい。あれ。」

「あのワンちゃん、憑かれてるよね。」

ああまただ。

とうとうトモダチまで巻き込んでしまった。

黒い影を纏う犬。

躊躇する理由はない。襲いかかる前に止めないと。

その間に神社に行って橘さんの父親を呼んでもらおう。

僕がそれを言い出す前に

「下がってろマカベギスナ。あれは普通の犬じゃない。」

3人の女の子が壁になり恐ろしい獣から僕を守ろうとしてくれている。

「椿ちゃんっダイヤモンドダストーって。はやくっ。」

「春たから無理っ。」

「冬なら出るのかよっ。じゃあ杏ちゃんって貴女猫だもんねー。」

「おうっ犬は苦手だっ。臭いっ。お前こそスパイダーウェーブッ的なのピューッと。」

「ないわよそんな技っ。」

なんだ?コントか?僕は今コントを見せられているのか?

「マカベギスナっお前上行ってたち」

言い終わる前に僕は3人の脇を走り抜けて犬に向かった。

「おいよせっやめろっ。」

犬のような「それ」は僕に飛びかかる。

南室綴のような真似はできない。でもく来るが判っているのだからどうにかなる。

牙を剥く「それ」の射線からほんの少しズレて横っ腹に体当たり。

弾かれ僕も「それ」も転がるが「それ」が起き上がる前に飛びついた。

噛まれないように首から押さえつけ、黒い影を掴む。

自分の身体から力が抜けていくのが判る。

ごめんなさい。ごめんなさい。

黒い影を引き剥がすと「バチン」と頭の中で響き、犬はやがておとなしくなる。

本当に、ごめんなさい。

涙と吐き気が止まらない。それでも何とか立ち上がって

茫然と眺める3人に、僕は涙を袖で拭い告げた。

驚かせてごめんなさい。

これが、君たちの知りたがっていた僕の正体。


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