007
「継ぐ者」
「例えば橘結。」
「あいつは神巫女って、神の言葉を伝えるとか何とか。神託ってのかな?」
「お祓いだの普通の神社のお仕事もしているけどね。」
南室綴、小室絢。
「あの2人は巫女。橘家に仕えている。」
「だから血縁だけじゃない。技術だとか伝統だとか魂を継承する者を「継ぐ者」って呼ぶの。」
「お前の会ったヴァンパイアだとか私達魔女もそう。」
ネコ娘とか雪女も?
「え?お前あの3人組知ってるの?何かされたのか?大丈夫なの?」
今朝知り合って(拉致され)トモダチになりました。
「は?」
信じられないと言いたそうな顔で僕を見た。
「大丈夫なのか?アイツらそれこそ無茶苦茶な奴らなんだぞ。」
「そらもう目にも手にも余る傍若無人で。」
「(中学の)黒い制服から付いた呼び名がシュワルツランツェンレイター。」
何だそのビッテンフェルト。どうりで皆避けていたわけだ。
「何かあったらすぐに私に言えよ。」
何かってなんだろう。
ともあれ、1時間目も終わりかけてようやく教室に戻り
その後午前中は「何か」事もなく平穏無事に過ごす。
昼休み、食事の前に手を洗おうと教室を出る。と、三原先生がいた。
「おうキズナ。ちょうどいい、ちょっと来い。」
彼女は隣の教室の前で誰かを待っている。
現れたのは宮田杏。
「何か用か三原のば姐さん。
「ば て何か。」
三原先生は宮田杏の頭を鷲掴む。
「いだだだだっイタイっ。お前これ虐待だぞ体罰だぞっ。」
「違う。かわいがりだ。」
と、今度はくすぐりはじめた。
「にゃっっひゃっちょっやめっ。」
悶え苦しむ宮田杏を、教室のドアの隙間から覗くのは栄椿と柏木梢だった。
必死に堪えているが笑っている。
よやうく手を止めると宮田杏は怒りの矛先を三原先生にではなく僕に向けた。
「なんで助けないっ。それでもトモダチかっ。」
あ、いや楽しそうだったので。
「なにおうっ。」
「まあまあ杏。椿も梢も出て来い。」
涙を拭きながら2人も廊下へ。
3人を並べ眺める三原紹実。
「お前ら本当にキズナとトモダチになったのか?大体キズナの何を知ってるんだ。」
「ああ?変な奴だって事くらいしか知らんっ。」
宮田杏は堂々と本人を目の前に言い切った。
呆れる三原紹実。彼女は少し笑って
「ま、トモダチならそれでいいんだ。仲良くしろよ。」
と言って去って行った。何にしに来たんだ?
「おいっマカベギスナっ。」
うえはい。
「アイツと知り合いなら最初に言っとけ。」
ええっごめん。
「だからって特別扱いしないからな。」
あ、うん。
「・・・何で嬉しそうなのよ。」
え?ああうん。三原先生と知り合いだからトモダチ辞めるって言われるのかなって思って。
「辞めてたまるかっこんな変な奴っ。」
午後の体育はその隣のクラスとの合同でバスケ。
授業の始まる前からエリクの周囲には女子が集まる。
おこぼれを狙っているのか男子もワラワラとその周囲に群がる。
「アイツが呼び寄せているの。」
絡新婦の柏木梢。僕が考えている事が判るのだろうか。
「夏夜の灯りに集まる虫みたいなものね。」
クラスメイトもいるのに虫扱いとか。
「あーいや、チョウチンアンコウかな。集まっているのは餌。でガブリ。」
柏木さんは呼び寄せられたりしないのですか?
「ん?あの程度ならね。杏ちゃん達も平気よ。」
見ると宮田杏と栄椿は2人でボール遊びをしている。
他にも数名(橘結、南室綴、小室絢)エリクを相手にしていない者がいる。
何かの特性だとか耐性があるのだろうか。
「ちなみに私も使える。魅惑とか誘惑の類だけどね。」
人を惹きつけられるって事か。羨ましいな。
僕に使って懐柔するとかすればいいのに。
「必要とあればするかもね。それとも命令されるのが好きな癖?」
へきって何ですか。
「少なくともトモダチにはそんな事しないから安心して。」
そう出来るって事を示指している。
3人の中で、彼女だけは明らかに僕を警戒しそれを隠そうともしない。
「でもね。私は杏ちゃんほど君を信用していないよ。」
「まったく猫丸出しだからねあの子。好奇心ばかり旺盛で。」
「気まぐれも猫の性格だからすぐに飽きるでしょ。それまでは相手をしてあげてね。」
柏木梢は言いたい事だけ言って宮田杏達と合流する。
判っている。
言われるまでもない。
僕にトモダチなんて。




