006
「で?」
で?と言うと?
「全部話して。」
全部?生い立ちから?
「入学前に神社に行ったでしょ。そこからでいいわ。」
えーっと。
男が現れて、橘さんが襲われそうになったのをもう1人の男が助けた。
昨日の入学式にその橘さんと助けた男が同じクラスだと判った。
その日の夕方公園で犬に襲われそうになったのをクラスメイトの女子と橘さんの父親に助けられた。
「それで全部?」
はい。
「イロイロ端折っているのはどうして?」
「橘の親父さんから聞いた話しとかなり食い違うのよねー。」
「神社で結を助けたのは君で、襲ったのももう1人もヴァンパイア。」
「昨日の夕方のあれはただの犬じゃない。」
「君はどこまで知っていたんだ?」
どこまで?
「アレがヴァンパイアなのは?」
その時は知りませんでした。昨日本人から聞きました。
「犬が普通じゃ無いってのは?」
はい。最初から判っていました。
「これからはちゃんと全部言うのよ。」
これから?
「そう。これからよ。そのために此処へ呼んだのだから。」
「まずは自己紹介するわね。」
「名前は聞いているわね。三原紹実。」
「私は、魔女なの。」
そうですか。
「え?」
え?
「聞いてた?私ね魔女なの、ま、じょ。」
ええ伺いました。
「え?」
え?
「いやいやいやいや。少しは驚け。リアクションしろよ。」
はあ。
えーっと。素敵ですね。生の魔女ははじめてです。
「なまって。」
呆れて深い溜息を吐く魔女。
最初は興味を抱かれ、次第に気味悪がられ、やがて恐怖の対象となる。
子供内の本当に些細な出来事でさえも「魔女の仕業」だと罵られる。
「もちろん全員仕返ししていたけどね。」
小学2年生の時に大暴れして母親にこっぴどく怒られ、各家に謝りに回って
それから誰も近寄らなくなった。
そんなある雨の日の夕方、帰り道1人の中学生が傘を差して壁に向かってしゃかんでいた。
気にはなったが、母に怒られたばかりだ。イロイロと首を突っ込むのは止めようと。
でもその子が突然立ち上がって。
「ちょっと、私の傘持って付いてきて。」
どうして知らない人に傘さしてあげないと、とその子が立ち上がると両手に大きなダンボール箱を抱えていた。
濡れてふやけて底が抜けそうなその箱の中を覗くと、小さな猫が震えていた。
「この子に私の傘さしてあげて。」
彼女は私の返事も待たずに早歩き。
まだ小さかった私は彼女の抱える箱に傘をかぶせようとしたけど
そうすると彼女の目の前が塞がれてしまう。
だから私がその箱を持つって言ったら
「服が汚れちゃうでしょ。」
とだけ言って歩き続け10分もしないで家に着いた。
玄関に箱を置くと慌てて親を呼びに行った。
箱の中を覗くと、子供の私でもその猫が衰弱しているのが判った。
私が魔女だからって、この仔猫をどうにかできる力なんて無い。
彼女は手を取り連れてきた母親に
「なんとかならないかな。」
だが本人もきっと判っていた。母親は彼女に
「できるだけの事はしてあげましょう。」
ボロボロのダンボールから出してタオルで綺麗拭いて毛布にくるんだ。
でも温めたミルクには口を付けなかった。
私は彼女の泣き出しそうな顔を見てその子の家を飛び出した。
走って家に帰って、母ならなんとかしてくれるかもと思って連れて行こうとした。
だけど家には誰もいなくて、電話にもでなかった。
車が無かったから運転中なのかもなんて考えもせずひたすら電話を鳴らし続けた。
15分とか20分くらいしてようやく帰って
「電話をバッグに入れていたので気付かなかったのよ。」
と悪びれもせず笑を怒鳴った。
何て言ったのかは覚えていないわ。私は母を連れて走った。
纏姉ちゃんの家に着いた時はもう仔猫は息をしていなかった。
彼女は静かに泣きながらその仔猫を撫でていた。
私はそれを見て大泣き。
纏姉ちゃんだって悲しい筈なのに隣でガン泣きする私を慰めてくれた。
それあと一緒にお風呂に入って、夕食をご馳走になって、
2人で纏姉ちゃんの部屋で凹んでいた。
母はその間に1度家に戻って車でやってきて
しばらくすると2人揃って親の元に呼ばれた。
私の母が纏姉ちゃんに
「私も、この子も魔女なの。それでもお友達になってくれる?」
纏姉ちゃんは私の手を取り、強く握りしめて言ってくれたの。
「もうとっくにトモダチよ。」