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当然ながら「卒業アルバム用」にプロのカメラマンも雇っていて
開催式セレモニー等々の撮影は行っている。と予想した僕は
実行委員腕章をチラつかせスタッフオンリーの場所へ向かう。
要するに緞帳の裏、実機雨委員の仕事を撮ろうと。
舞台脇で開催挨拶の出番を待つ委員長から
さらにその脇でタイミン゛クを計る南室綴、
示指を受けて幕を引く実行委員。照明さん。音響さん。
デジタルの恩恵を受け開催式だけで50枚以上撮影。
携帯と違い、ファインダーを覗く「いかにも」な感じはクセになりそうだ。
次いで体育館でイベントが始まる。
体育館と校庭でイベントを行うクラスと、教室で出店するクラス。
イベントはプロに任せて僕はクラスの出品を回ろう。
自分のクラスは明日の体育館での演劇を控え最終打ち合わせでもしているだろうと向かう。
「関係者以外立入禁止」とドアに貼られ、その下に明日の演劇の開演時間が貼られている。
僕は関係者なのだろうか。
「あれ?キズナだ。入らないの?」
栄さん。僕は関係者なのかな。
「何言ってるんだ?今シナリオの調整で呼ばれたんだよ。ほら行くよ。」
僕の手を取り教室のドアを開く。
ちょっとピリッとした空気。
台詞の言い回しで詰めの打ち合わせ。
栄椿が呼ばれたのは演出の違いでその後の細部に影響が出るのか。
「ちょっと演って見せてよ。」
いつになく真面目な栄椿。これは画になると少し離れ
台本を片手に言い合う演者達を収めた。
盗撮しているようだが盗撮じゃない。と言い聞かせる。
一通り撮り終え、あまり邪魔にならないようにと教室を出る。
隣のクラスはどうやら屋台の準備。
開けられたドアから覗いていると柏木梢が気付く
「あらキズナ。今日はカメラマン?」
はい。折角なので準備中のてんやわんやを撮らせてもらおうかと。
室内はこっちの小さいカメラで広く撮る。と。
数枚撮っていると宮田杏が
「ほらキズナ。試食してくれ。」
焼き立てのたこ焼き。熱い。旨い。何だろうサスガと思う。
「祭りの時と同じ材料同じ製法だからな。アタシがどれだけ不器用だろうと不味くなるわけがない。」
「何それ自慢になってないよ。」
周りの子達が笑う。
クラスに溶け込んでいるどころか、その中心にいるようだ。
ごちそうさま。美味しかったよ。
撮影があるからまたねと教室を出ようとすると宮田杏に呼び止められた。
「オマエあちこち撮影に回るんだよな?」
うん。
「じゃあ行くか。」
行く?
宮田杏は2枚のボール紙を紐でくくった看板(?)を肩から通し着る。
身体の前後に看板。両肩に紐。学芸会の鎧のようなと言えば判るだろうか。
1号店がこの教室で2号店3号店が校庭にあると記されている。
儲ける気だ。
「プラカードじゃ疲れる。」
それはそうだけど(恥ずかしくないのだろうか)
「じゃあ行くか。」
「ちょっと杏ちゃんっ。行くって誰がたこ焼き作るのよっ。」
柏木梢が叫ぶが逃げるように僕の腕を取り走る。
看板娘と各教室での出店やイベントに撮影に訪れる。
ほどなく開店時間を迎え、お客が現れる中
実行委員の腕章の威力。
お客としてではなく、あくまでもその内側から裏方達の撮影。
邪魔をしないように最新の注意を払うとどうしても撮影場所が盗撮のようになるのは困る。
宮田杏は隙きを見つけては他の店の客にチラシを配り宣伝。
「オマエやっぱりちょっと変わってるよな。」
(どっちがだ)何です突然。
「んー。何て言うかさー。普通こう、見えるとこ撮るじゃん。」
彼女は指でフレームを作り、クレープ屋台のカウンターを収める。
「キズナってさ、見えないモノ見ようとしているよな。」
いやいや。見えないモノなんて見たくない。
多分夏祭りとかずっと準備手伝ったからじゃないかな。
それに今はプロのカメラマンも来ているから同じ事しても面白くないかと。
「ふーん。」
自分で聞いておいて既に興味を失くした。
このあたりは猫だな。
「前から思っていたんだけど。」
はい?
「オマエやっぱりちょっと変わってるよ。」
さっき聞いたから。
「今更アレだけど何でアタシらとトモダチになんかなったんだ?」
「いやほら、確かにアタシ含めて3人共イカスとは思うよ?」
「でもほら怖くなかったんか?アタシらの過去知ってるだろ?」
それを聞いたのはトモダチになった後だよ。
「じゃあそれ聞いた時トモダチ辞めようとか思わなかったんか?」
「アタシらオマエを誘拐して脅迫したりしたじゃん。」
「やってる事はこの前の蛇女と変わらんよ。」
でもその時僕を助けくれた。
「それは前にオマエがワン公共から助けてくれたから。」
最初に連行された時は驚いたけど
怖いとか恐ろしいとかあの時は全く感じなかった。
仔猫みたいでカワイイって言ったのは
見た目もそうなんだけど、なんかこう好奇心旺盛で
本当は人懐っこいのに警戒心が強くて近寄れなくて
でも興味が勝って目をキラキラさせて手を出してくるような。
それが仔猫みたいでカワ
バーーーーンッと廊下に響く。
一瞬呼吸が止まるほど強く背中を叩かれた。何でだ。
「アタシちょっと校庭組の様子見に行くからっ。」
「あとは1人で回っとけ。」
呼吸が止まって返事をする暇もなく走り去った。




