035
この時期、僕は南室綴に救われていた、
10月の文化祭に向けて学校中が浮ついた雰囲気にもなっていた
当然当日は休むと決めていた。
事前の準備は裏方に回り、ひっそりと1人でできる単純作業を見付けるつもりでもいた。
クラスでの「催し物」を決定するHRが行われる日、
南室綴は僕を呼び出し
「キズナ君、アナタ文化祭実行委員にならない?」
はい?
「アナタのコミュ力じゃどうせクラスの皆と共同作業なんてできないでしょ?」
何となく酷い事を言われている気がする。
「実行委員になればクラスの共同作業から解放されてしかも文化祭参加の既成事実も作れるわ。」
「ワタシと一緒にいれば他の委員会とも極力接触を減らしてあげるわよ。」
この提案にはかなり揺らいだ。実行委員なんて面倒が増えるだけじゃないかと躊躇いもしたが
「それとも、ワタシと一緒じゃいや?」
南室綴は時折ドキリとする事をドキリとする表情で簡単に言ってのける。
自薦や他薦では誰かが内申目的で挙手する可能性があるからと
南室綴は文化祭実行委員の選考は決めさせていただきました。と始める。
「真壁君。アナタにお願いします。」
「部活にも入っていないし、暇よね。」
え?はい。
名前を呼ばれ「誰アレ」から
強制による「かわいそうに」へ。
僕としては同情までさせようとしてくれたその手腕に感心し、ついありがとうございますと言いそうになった。
委員会では南室綴は言葉通り僕を事務方に推薦し
実際彼女以外殆ど会話らしい会話をせず作業に没頭していた。
文化祭前日
実行委員会は体育館での開催式とその後のイベントの最終予行演習。
各行事をタイムスケジュールに沿って一連のリハーサル。
各クラスの催し物はそれぞれのクラスで装置の担当者が決まっている為
実行委員はあくまでも入れ替わりの際の混乱を無くす作業だけだ。
しかも各実行委員に、当日のその時間は何処で何をするのかの指示書が配られている。
行程表と、指示書の殆どを作成したのが南室綴。
現場においては3年生の実行委員長を立ててはいるが
細かい部分に関してはきっと南室綴が仕切っているのだろう。
予行演習は、何の問題もなく、何の滞りもなく終了する。
実行委員としての準備は全て終わり、後は明日の本番に挑むのみ。
午前中で終わるよう手配したのは、実行委員にも自分達のクラスの催し物に参加してもらいたいとする
実行委員超による配慮だった。
体育館では南室綴は全員が引き上げるのを見守っている。それも仕事の一部なのだろう。
全員いなくなったのを確認してようやく僕に向かい
「ワタシ教室には行かないでこれから」
言い終わる前に身体が揺れる。
あっ
と手を伸ばすが、彼女はそれに頼らず立て直す。
背筋が凍った。
照明の落ちた薄暗い体育館でも、彼女の顔色がとても青白いのが判った。
元々色白ではあるが、明らかに体調を崩している。
「あーびっくりした。立ったまま眠りそうだったわ。」
「それともあのままキズナ君にもたれかかったらお姫様抱っことかしてくれた?」
強がっている。本人の言うとおりただの寝不足だとしてもこのままではダメだ。
お姫様抱っこでも何でもしますから保健室行きましょう。
「え?いいわよそんな。」
ダメですよ。行きましょう。
「ええ?恥ずかしいわよ。」
僕も一緒に行きますから。
「え?」
え?
「あ、いや何でもないわ。それしゃあ一緒に行ってもおうかしら。」
お姫様抱っこはともかくおんぶとかしましょうか?
「ええっ?いいわよ。いやいやダメよ。」
どっちだ。
「そんな格好他の実行委員に見られたら明日からの士気に影響するわ。」
判りました。それじゃ僕が体調悪いフリしますからそれに付き添ったって事にしましょう。
とにかく少し寝てください。
この数日の忙しさを思い返せば、つい気が緩んだとしても誰に責められよう。
忘れそうになるのだが、彼女はまだ高校1年生の、16歳の女の子。
保健室で三原先生に口止めをお願いして教室へ戻ろうとするが
「あ、ねぇ。」
はい?
「そのーワタシが眠るまでもうちょっとここにて?」
いいですよ。
三原紹実はどうしてそんなにニヤニヤしている。
「お前は大丈夫なのか?」
ベッドのカーテンを閉めて、三原先生はお茶を淹れてくれた。
はい。少し徹夜もしましたけど南室さんほどではありません。
ファミレスで遅くまで作業をして祖父母に怒られた事もある。
彼女はきっとその後1人で家に持ち帰っていただろう。
その上で上級生を立てつつ全てに目を配る。
僕にやれと言われてもすぐに放り出して逃げる。いやそもそも引き受けない。
よほど厳しく育てられたのでしょうね。
それは親のいない僕の率直な印象だった。
三原先生は、彼女の寝息を確認してから教えてくれた。
「そうね。でも違うわ。」




