033
9月中旬のとある雨の日。
「秋分の日」についてのファミレス会議。
結局、この街に暮らす「継ぐ者」達に向けた「祭り」になると決まりかけた。
そこに部外者の僕が厚かましくも口を出した。
どうせなら、他所からも呼びませんか?と。
僕がそれを思い付いたのは
ヴァンパイアとウールヴヘジンのトモダチがいるから。
もうすっかり日常なのだが、よくよく考えるまでもなく非日常だ。
世界中でおそらくこの街だけなのではなかろうか。
この提案にはそれなりの算段がある。
先日、エリクは「力になる」と言ってくれた。
その上で「世界中のその類のお祭り」について彼なりに調べていた。
「イロイロと調べていてね、日本で何かあるなら参加したいって結構言われたんだよ。」
僕が侮っていたのは彼の人脈。
エリクが呼ぶ参加者がどの程度かは判らないし、狭い地域での極めて小規模ではあるが
大袈裟に言うなら、日本と海外の「継ぐ者」の交流の場になるかも知れない。
「面白そう。」
橘結の一言で他の皆も付き合うことにした。
エリク本人にその旨話すと彼はとても喜んでくれた。
橘結の力になれるのが嬉しいのだろう。
その話を聞いていたルーは
「ワタシもUSAのフレンズ呼びたいよ。」
僕は狼男の人脈も侮っていた。
早速その日から連絡を取り始め、翌々日には
「今の所ボクと彼とで100人くらいかな。」
は?
何でそんなに知り合いいるの?どうやったらそんなに知り合えるの?
「問題ない。ホテルもボクが用意するから。」
慌てて橘結にそれを伝える。
「とんでもないことになってきたわね。」
と、彼女もとても楽しそうだった。
「綴ちゃん。絢ちゃん。気合入れてやるわよ。ちょっと舞いの内容見直しましょう。」
俄然やる気になっている。実はとんでもなく肝が座っているのではなかろうか。
「屋台の数増やさないとダメだな。」
宮田杏達は、その来日客をもてなす準備をしている。
それで僕は何を。
「何言っているの。アナタがワタシ達と他の皆を繋ぐのよ。しっかりしなさい。」
タイヘンな事になった。
イロイロと覚悟したのだが
結局エリクとルーがその窓口になってくれて
エリクに至ってはホテルの手配やら入国時の諸々の諸注意まで丁寧に応対してくれた。
僕はその2人の諸々を南室綴と柏木梢に逐一報告するだけ。
そして当日。
街の「継ぐ者」達は早朝から舞台の設営の手伝いに来てくれた。
夏祭りで出会った人達だ。
柏木梢を介して出会った皆が僕を覚えていて
「射撃王」だの「シューティングスター」だの言い出す。
何やら誰かに吹き込まれたようだ。
午前11時48分頃。
予定通り、その「舞いは」昼前から初めて正午を跨ぐ。
昼と夜を繋ぐ「祀り」。
夏祭りのそれとは趣が異なっていた。
千早を羽織るのは橘結1人。
南室綴と小室絢は巫女装束で薙刀を携える。
舞台に登る。
ざわついていた辺り一帯が静寂に包まれる。
「舞」と言うより「演舞」のように見えた。
お姫様と2人の従者。
祈りを捧げる旅に出て、何かと戦うのだが
やがて武器を置いて、
目に見えぬ「何か」にではなく、今そこにいる「誰か」に祈りを捧げる。
詳しくは判らないけど、きっとそんな内容。
音もなく、ただただ3人の少女が舞う。
「祀りの」終わりと同時に拍手と喝采が境内に鳴り響く。
そして「祭り」の開催。
会場を公園に移し宴が催される。
ホットドッグやフィッシュアンドチップスは無いが
たこ焼きやたい焼きや焼きそばのいかにもな屋台が並ぶ。
僕はその席に加わる事なく、1人で神楽殿での片付けを始めた。
先ず危険だろうからと薙刀を片付けよう。
箱は、下か。2本の薙刀を抱えて神楽殿を降りると
橘家で着替えて「祭り」に参加すべく3人が僕を見付ける。
「何やってる。祭り行くぞ。」
小室絢は強引に僕の手を取ろうとする。
と、橘結がそれを止める。
「2人共先に行っていて。キズナ君に話があるから。」
橘結は、僕がどうしてそうしているのか知っている。
これは「継ぐ者」達のお祭りだ。
僕は「人の子」だ。のこのこ顔を出すべきではないと心得ている。
この3人だって厳密には「人の子」なのだろうが今は違う。
この3人こそ、全てを繋ぐ者達だ。
「後から来いよ。」
脅す小室絢の背中を押す南室綴。
「ほら、ここは姫に任せましょ。2人っきりになりたいんだって。」




